民法900条4号ただし書前段と憲法14条1項「預金返還請求及び当事者参加事件」(平成15年3月28日第二小法廷1630)
「預金返還請求及び当事者参加事件」(平成15年3月28日第二小法廷1630)
棄却  

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

民法900条4号ただし書前段は,憲法14条1項に違反しない。

(反対意見がある。)

【判決理由】
上告代理人宮川博史の上告理由について

【要旨】非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定が憲法14条1項に違反するものでないことは,

当裁判所の 判例とするところである(最高裁平成3年(ク)第143号同7年7月5日大法廷 決定・民集49巻7号1789頁)。

憲法14条1項違反をいう論旨は,採用することができない。

その余の論旨は,違憲をいうが,その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって,明らかに民訴法312条1項又は2項に規定する事由に該当しない。

よって,裁判官梶谷玄同滝井繁男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

【反対意見】梶谷玄
裁判官梶谷玄,同滝井繁男の反対意見は,次のとおりである。

私たちは,非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と定める民法900条4号ただし書の規定は憲法14条1項に違反すると考える。

その理由は,

多数意見が引用する平成7年大法廷決定中の裁判官中島敏次郎,同大野正男,同高橋久子,同尾崎行信,同遠藤光男の反対意見及び裁判官尾崎行信の追加反対意見と同旨であり,これらをここに引用する。

更に補足しておきたいのは,次の点である。

家族関係、及び相続をめぐる近時の社会状況の変化は,国内外において著しいものがあり,

この傾向は,上記大法廷決定が出された平成7年以降も,嫡出子と非嫡出子の区別をなくしていくことを求める方向に進んでいることが明らかである。

>そして,この変化が,本件のような相続分の違いをもたらしている規定の改正を促す大きな理由になっているものと考えられる。

国内においては,法務大臣の諮問機関である法制審議会が平成8年2月に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において、

民法900条4号ただし書の改正の方向が示されているし,

国際社会においては,国際連合の人権委員会が,市民的及び政治的権利に関する国際規約40条に基づき、

我が国から提出された第4回報告を検討した上で,

平成10年11月に同委員会で採択された最終見解において,前回の検討に続いて改めて,我が国の相続権に関する婚外子差別について引き続き懸念を有し,

同規約26条に従い,

すべての児童は、平等の保護を与えられるという立場を再確認し,

我が国が、民法900条4号を含む法律の改正のために必要な措置をとるよう勧告しているのである。

また,今日,国際化が進み,価値観が多様化して家族の生活の態様も一様でなく,それに応じて両親と子供との関係も様々な変容を受けている状況の下においては,

親が婚姻という外形を採ったかどうかという、その子自らの力によっては決することのできない事情によって、その相続分に差異を設けることに格別の合理性を見いだすことは一段と困難となっているのである(最高裁平成10年(オ)第2190号同14年11月22日第二小法廷判決・裁判所時報1328号1頁〔編注:裁判集 (民事)208号495頁〕中の私たちの補足意見を参照。)。

これらにかんがみると,現時点において,

民法900条4号ただし書の規定が、上記反対意見のいう違憲審査基準,

すなわち「立法目的自体の合理性及びその手段との実質的関連性についてより強い合理性」の基準を充足し,合憲であるということは一層困難であるというべきである。