ところで,本件規定は,
相続制度の一部分を構成するものとして,国民の生活に不断に機能しているものであるから,これを違憲としてその適用を排除するには,その効果や関連規定との整合性の問題等について、十分な検討が必要である(前記大法廷決定における大西勝也,園部逸夫,千種秀夫,河合伸一各裁判官の補足意見,最高裁平成11年(オ)第1453号同12年1月27日第一小法廷判決 ・裁判集民事196号251頁における藤井正雄裁判官の補足意見、及び最高裁平成14年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事209号397頁における島田仁郎裁判官の補足意見参照)。
しかるに,
最高裁判所が,過去にさかのぼった特定の日を基準として,本件規定は違憲無効となったと判断した場合には,
当該基準日以降に発生した相続であって、相続人中に、嫡出子と非嫡出子が含まれる事案において,
本件規定を適用した判決(最高裁判所の判決も含む。)や、遺産分割審判,
本件規定が有効に存在することを前提として成立した遺産分割調停,遺産分割協議等の効力に疑義が生じ,新たな紛争が生起し,
更には、本件規定を前提として形成された権利義務関係が覆滅されることにもなりかねない。
かかる事態は,本件規定に従って行動した者に対して、予期せぬ不利益を与えるおそれがあり,法的安定性を害することが著しいものといわざるを得ない。
特に,本件においては、本件基準日から既に9年以上が経過しているという事情があるので,
本件規定が、違憲無効であったと判断した場合に、その効力に疑義が生じる判決等は,相当な数に上ると考えられるのである。
前記大法廷決定における5名の裁判官の反対意見は,
本件規定の有効性を前提としてなされた従前の裁判,合意の効力を維持すべきであると述べるが,
違憲判断の効力を遡及させず,従前の裁判等の効力を維持することの法的な根拠については,上記反対意見は明らかにしておらず,
学説においても、十分な議論が尽くされているとはいい難い状況にある。
また,上記反対意見に従えば,
同じ時期に相続が発生したにもかかわらず,
本件規定が適用される事案とそうでない事案が生ずることになるという問題も生じかねない。