刑訴應急措置法第一三條第二項の合憲性(昭和23年3月10日大法廷判決43)
強盗、建造物侵入
棄却

本件再上告を棄却する。

上告審において原審の事實認定の可否及び刑の量定の當否を判断するには自ら事實審査をしなければならない。盖刑の軽重は犯況、情状等に付き詳細の審査をしなければ之れを定めることが出來ないものだからである。故に原審の事實認定乃至刑の量定に對する批難を上告の理由として認めるか否かは上告審においても事實審査をすることにするかどうかの問題となり、結局審級制の問題に帰着する。刑訴應急措置法第一三條第二項が刑訴法第四一二條乃至第四一四條の規定を適用しない旨を定めたのは畢竟審級制度の問題として實體上の事實審査は第二審を以て打切り上告審においてはこれをしないことにする趣旨に出たものである。而して憲法は審級制度を如何にすべきかに付ては第八一條以外何等規定する處がないから此の點以外の審級制度は立法を以て適宜に之れを定むべきものである。從つて刑訴應急措置法第一三條第二項が前記の如く事實審査を第二審限りとし刑事訴訟法第四一二條乃至第四一四條の規定を適用しないことにしたからと云つてこれを憲法違反なりとすることは出來ない。故に右規定が違憲であることを主張しこれを前提として原審の刑の量定を攻撃せんとする論旨は上告の理由とならない。

【判決理由】
弁護人小川益太郎、同樫田忠美提出の再上告趣意第一点について。
  1. 弁護人吉田吉四郎上告趣意は

    「(一)上告ニ関スル制限ノ適否。

    刑事訴訟ニ関スル応急措置法第十三条ニヨレハ、刑事訴訟法第四百十二条乃至第四百十四条ノ規定ハ、上告ニ付、適用シナイ旨規定シテアルカ、人間ノナス裁判ニハ、感情ノ動キ、又、事物ニ対スル認識ノ具合等ニヨリ、量刑不当ノ場合アルコトハ当然、又、再審ノ事由ノ存在スルコト重大ナル事実ノ誤認ノ生スルコト、亦、当然ノ事理ニ属ス、然ルニ、措置法ハ、本年十二月末日マデ、之等ノ事由ニヨル上告ノ封殺ハ、果シテ憲法ニ適スルカ大イニ疑問トスル処ニシテ、憲法第八十一条ニ則リテ、先ヅ此ノ事実審査スヘキモノト信ス、

    (二)被告ノ犯行ノ内容ハ、現状ニ於テ、他ノ共犯者ノ指示ニヨリ電球函ヲ運搬シタルニスキサル本件ニ対シ、懲役四年之ニ対スル未決勾留通算ノ判決ハ、決シテ適正妥当ノモノニアラス、要スルニ刑ノ量定重キニスクルモノナルコト明ナルモ、措置法ニ之ヲ理由トスル上告ノ制限規定存在スル以上、詳細ノ説明省略シ、追而〔おって〕、此ノ理由カ、上告趣旨該当セラルル旨、御裁判アル次第、追完スルモノナリ」

    と云うにある。
  1. しかし、上告審において原審の事実認定の可否を判断するには、自ら事実審査をしなければならない、
  2. これはいう迄もないことだが、刑の量定の当否を判断するにもやはり事実審査をしなければならない、
  3. 蓋〔けだし〕、刑の軽重は犯況、情状等に付き詳細の審査をしなければ之れを定めることが出来ないものだからである、
  4. 故に、原審の事実認定、乃至、刑の量定に対する批難を、上告の理由として認めるか否かは上告審においても事実審査をすることにするかどうかの問題となり、結局、審級制度の問題に帰着する、
  1. 日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十三条第二項が、刑事訴訟法第四百十二条乃至第四百十四条の規定を適用しない旨を定めたのは、畢竟〔ひっきょう、結局〕
  2. 審級制度の問題として、実体上の事実審査は第二審を以て打切り、上告審においてはこれをしないことにする趣旨に出たものである、
  3. 而して〔しかして、そうして〕、憲法は審級制度を如何にすべきかに付ては、第81条において、

    「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」

    旨を定めて居る以外、何等規定する処がないから、
  4. 此の点以外の審級制度は、立法を以て適宜に之れを定むべきものである、
  5. 従つて、
  6. 日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十三条第二項が前記の如く、
  7. 事実審査を第二審限りとし、刑事訴訟法第四百十二条乃至第四百十四条の規定を適用しないことにしたからと云つて、
  8. これを憲法違反なりとすることは出来ない、
  9. 故に、右規定が違憲であることを主張し、これを前提として原審の刑の量定を攻撃せんとする論旨は上告の理由とならない。
  10. よつて裁判所法第十条但書第一号、刑事訴訟法第四百四十六条に従い主文の如く判決する。
  11. 以上は、裁判官全員異論の無い処である。

検察官安平政吉関与

昭和二十三年三月十日
最高裁判所大法廷

裁判官 塚 崎 直 義

裁判官 長 谷 川 太 一 郎 裁判官 沢 田 竹 治 郎 裁判官 霜 山 精 一 裁判官 井 上 登 裁判官 栗 山 茂 裁判官 真 野 毅 裁判官 庄 野 理 一 裁判官 小 谷 勝 重 裁判官 島 保 裁判官 斎 藤 悠 輔 裁判官 藤 田 八 郎 裁判官 岩 松 三 郎 裁判官 河 村 又 介 裁判長裁判官三淵忠彦は病気の為、署名捺印することができない。 裁判官 塚 崎 直 義