(旧)民 法(明治二十九年法律第八十九号)

第一編 総則

第1条

第一条 私権ハ公共ノ福祉ニ遵フ

(2)権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス

(3)権利ノ濫用ハ之ヲ許サス

第1条の2

第一条ノ二 本法ハ個人ノ尊厳ト両性ノ本質的平等トヲ旨トシテ之ヲ解釈スヘシ

第一章 人

第一節 私権ノ享

第一条ノ三 私権ノ享有ハ出生ニ始マル 第二条 外国人ハ法令又ハ条約ニ禁止アル場合ヲ除ク外私権ヲ享有ス

第二節 能力

第三条 満二十年ヲ以テ成年トス 第四条 未成年者カ法律行為ヲ為スニハ其法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但単ニ 権利ヲ得又ハ義務ヲ免ルヘキ行為ハ此限ニ在ラス (2)前項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得 第五条 法定代理人カ目的ヲ定メテ処分ヲ許シタル財産ハ其目的ノ範囲内ニ於テ未成 年者随意ニ之ヲ処分スルコトヲ得目的ヲ定メスシテ処分ヲ許シタル財産ヲ処分ス ル亦同シ 第六条 一種又ハ数種ノ営業ヲ許サレタル未成年者ハ其営業ニ関シテハ成年者ト同一 ノ能力ヲ有ス (2)前項ノ場合ニ於テ未成年者カ未タ其営業ニ堪ヘサル事跡アルトキハ其法定代 理人ハ親族編ノ規定ニ従ヒ其許可ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得 第七条 心神喪失ノ常況ニ在ル者ニ付テハ家庭裁判所ハ本人、配偶者、四親等内ノ親 族、後見人、保佐人又ハ検察官ノ請求ニ因リ禁治産ノ宣告ヲ為スコトヲ得 第八条 禁治産者ハ之ヲ後見ニ付ス 第九条 禁治産者ノ行為ハ之ヲ取消スコトヲ得 第十条 禁治産ノ原因止ミタルトキハ家庭裁判所ハ第七条ニ掲ケタル者ノ請求ニ因リ 其宣告ヲ取消スコトヲ要ス 第十一条 心神耗弱者及ヒ浪費者ハ準禁治産者トシテ之ニ保佐人ヲ附スルコトヲ得 第十二条 準禁治産者カ左ニ掲ケタル行為ヲ為スニハ其保佐人ノ同意ヲ得ルコトヲ要 ス 一 元本ヲ領収シ又ハ之ヲ利用スルコト 二 借財又ハ保証ヲ為スコト 三 不動産又ハ重要ナル動産ニ関スル権利ノ得喪ヲ目的トスル行為ヲ為スコト 四 訴訟行為ヲ為スコト 五 贈与、和解又ハ仲裁契約ヲ為スコト 六 相続ヲ承認シ又ハ之ヲ抛棄スルコト 七 贈与若クハ遺贈ヲ拒絶シ又ハ負担附ノ贈与若クハ遺贈ヲ受諾スルコト 八 新築、改築、増築又ハ大修繕ヲ為スコト 九 第六百二条ニ定メタル期間ヲ超ユル賃貸借ヲ為スコト (2)家庭裁判所ハ場合ニ依リ準禁治産者カ前項ニ掲ケタル行為ヲ為スニモ亦其保 佐人ノ同意アルコトヲ要スル旨ヲ宣告スルコトヲ得 (3)前二項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得 第十三条 第七条及ヒ第十条ノ規定ハ準禁治産ニ之ヲ準用ス 第十四条 削除 第十五条 削除 第十六条 削除 第十七条 削除 第十八条 削除 第十九条 無能力者ノ相手方ハ其無能力者カ能力者ト為リタル後之ニ対シテ一个月以 上ノ期間内ニ其取消シ得ヘキ行為ヲ追認スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ催告スルコ トヲ得若シ無能力者カ其期間内ニ確答ヲ発セサルトキハ其行為ヲ追認シタルモノ ト看做ス (2)無能力者カ未タ能力者トナラサル時ニ於テ法定代理人ニ対シ其権限内ノ行為 ニ付キ前項ノ催告ヲ為スモ其期間内ニ確答ヲ発セサルトキ亦同シ (3)特別ノ方式ヲ要スル行為ニ付テハ右ノ期間内ニ其方式ヲ践ミタル通知ヲ発セ サルトキハ之ヲ取消シタルモノト看做ス (4)準禁治産者ニ対シテハ第一項ノ期間内ニ保佐人ノ同意ヲ得テ其行為ヲ追認ス ヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ準禁治産者カ其期間内ニ右ノ同意ヲ得タル通知 ヲ発セサルトキハ之ヲ取消シタルモノト看做ス 第二十条 無能力者カ能力者タルコトヲ信セシムル為メ詐術ヲ用茜タルトキハ其行為 ヲ取消スコトヲ得ス

第三節 住所

第二十一条 各人ノ生活ノ本拠ヲ以テ其住所トス 第二十二条 住所ノ知レサル場合ニ於テハ居所ヲ以テ住所ト看做ス 第二十三条 日本ニ住所ヲ有セサル者ハ其日本人タルト外国人タルトヲ問ハス日本ニ 於ケル居所ヲ以テ其住所ト看做ス但法例其他準拠法ヲ定ムル法律ニ従ヒ其住所ノ 法律ニ依ルヘキ場合ハ此限ニ在ラス 第二十四条 或行為ニ付キ仮住所ヲ選定シタルトキハ其行為ニ関シテハ之ヲ住所ト看 做ス

第四節 失

第二十五条 従来ノ住所又ハ居所ヲ去リタル者カ其財産ノ管理人ヲ置カサリシトキハ 家庭裁判所ハ利害関係人又ハ検察官ノ請求ニ因リ其財産ノ管理ニ付キ必要ナル処 分ヲ命スルコトヲ得本人ノ不在中管理人ノ権限カ消滅シタルトキ亦同シ (2)本人カ後日ニ至リ管理人ヲ置キタルトキハ家庭裁判所ハ其管理人、利害関係 人又ハ検察官ノ請求ニ因リ其命令ヲ取消スコトヲ要ス 第二十六条 不在者カ管理人ヲ置キタル場合ニ於テ其不在者ノ生死分明ナラサルトキ ハ家庭裁判所ハ利害関係人又ハ検察官ノ請求ニ因リ管理人ヲ改任スルコトヲ得 第二十七条 前二条ノ規定ニ依リ家庭裁判所ニ於テ選任シタル管理人ハ其管理スヘキ 財産ノ目録ヲ調製スルコトヲ要ス但其費用ハ不在者ノ財産ヲ以テ之ヲ支弁ス (2)不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ利害関係人又ハ検察官ノ請求アルトキ ハ家庭裁判所ハ不在者カ置キタル管理人ニモ前項ノ手続ヲ命スルコトヲ得 (3)右ノ外総テ家庭裁判所カ不在者ノ財産ノ保存ニ必要ト認ムル処分ハ之ヲ管理 人ニ命スルコトヲ得 第二十八条 管理人カ第百三条ニ定メタル権限ヲ超ユル行為ヲ必要トスルトキハ家庭 裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ為スコトヲ得不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ其管 理人カ不在者ノ定メ置キタル権限ヲ超ユル行為ヲ必要トスルトキ亦同シ 第二十九条 家庭裁判所ハ管理人ヲシテ財産ノ管理及ヒ返還ニ付キ相当ノ担保ヲ供セ シムルコトヲ得 (2)家庭裁判所ハ管理人ト不在者トノ関係其他ノ事情ニ依リ不在者ノ財産中ヨリ 相当ノ報酬ヲ管理人ニ与フルコトヲ得 第三十条 不在者ノ生死カ七年間分明ナラサルトキハ家庭裁判所ハ利害関係人ノ請求 ニ因リ失踪ノ宣告ヲ為スコトヲ得 (2)戦地ニ臨ミタル者、沈没シタル船舶中ニ在リタル者其他死亡ノ原因タルヘキ 危難ニ遭遇シタル者ノ生死カ戦争ノ止ミタル後、船舶ノ沈没シタル後又ハ其他 ノ危難ノ去リタル後一年間分明ナラサルトキ亦同シ 第三十一条 前条第一項ノ規定ニ依リ失踪ノ宣告ヲ受ケタル者ハ前条第一項ノ期間満 了ノ時ニ死亡シタルモノト看做シ前条第二項ノ規定ニ依リ失踪ノ宣告ヲ受ケタル 者ハ危難ノ去リタル時ニ死亡シタルモノト看做ス 第三十二条 失踪者ノ生存スルコト又ハ前条ニ定メタル時ト異ナリタル時ニ死亡シタ ルコトノ証明アルトキハ家庭裁判所ハ本人又ハ利害関係人ノ請求ニ因リ失踪ノ宣 告ヲ取消スコトヲ要ス但失踪ノ宣告後其取消前ニ善意ヲ以テ為シタル行為ハ其効 力ヲ変セス (2)失踪ノ宣告ニ因リテ財産ヲ得タル者ハ其取消ニ因リテ権利ヲ失フモ現ニ利益 ヲ受クル限度ニ於テノミ其財産ヲ返還スル義務ヲ負フ

第五節 同時死亡ノ推

第三十二条ノ二 死亡シタル数人中其一人ガ他ノ者ノ死亡後尚ホ生存シタルコト分明 ナラザルトキハ此等ノ者ハ同時ニ死亡シタルモノト推定ス

第二章 法人

第一節 法人ノ設

第三十三条 法人ハ本法其他ノ法律ノ規定ニ依ルニ非サレハ成立スルコトヲ得ス 第三十四条 祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益ニ関スル社団又ハ財団ニシテ営 利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得 第三十四条ノ二 社団法人又ハ財団法人ニ非ザルモノハ其名称中ニ社団法人若クハ財 団法人ナル文字又ハ此等ト誤認セシムベキ文字ヲ使用スルコトヲ得ズ 第三十五条 営利ヲ目的トスル社団ハ商事会社設立ノ条件ニ従ヒ之ヲ法人ト為スコト ヲ得 (2)前項ノ社団法人ニハ総テ商事会社ニ関スル規定ヲ準用ス 第三十六条 外国法人ハ国、国ノ行政区画及ヒ商事会社ヲ除ク外其成立ヲ認許セス但 法律又ハ条約ニ依リテ認許セラレタルモノハ此限ニ在ラス (2)前項ノ規定ニ依リテ認許セラレタル外国法人ハ日本ニ成立スル同種ノ者ト同 一ノ私権ヲ有ス但外国人カ享有スルコトヲ得サル権利及ヒ法律又ハ条約中ニ特 別ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス 第三十七条 社団法人ノ設立者ハ定款ヲ作リ之ニ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス 一 目的 二 名称 三 事務所 四 資産ニ関スル規定 五 理事ノ任免ニ関スル規定 六 社員タル資格ノ得喪ニ関スル規定 第三十八条 社団法人ノ定款ハ総社員ノ四分ノ三以上ノ同意アルトキニ限リ之ヲ変更 スルコトヲ得但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス (2)定款ノ変更ハ主務官庁ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其効力ヲ生セス 第三十九条 財団法人ノ設立者ハ其設立ヲ目的トスル寄附行為ヲ以テ第三十七条第一 号乃至第五号ニ掲ケタル事項ヲ定ムルコトヲ要ス 第四十条 財団法人ノ設立者カ其名称、事務所又ハ理事任免ノ方法ヲ定メスシテ死亡 シタルトキハ裁判所ハ利害関係人又ハ検察官ノ請求ニ因リ之ヲ定ムルコトヲ要ス 第四十一条 生前処分ヲ以テ寄附行為ヲ為ストキハ贈与ニ関スル規定ヲ準用ス (2)遺言ヲ以テ寄附行為ヲ為ストキハ遺贈ニ関スル規定ヲ準用ス 第四十二条 生前処分ヲ以テ寄附行為ヲ為シタルトキハ寄附財産ハ法人設立ノ許可ア リタル時ヨリ法人ノ財産ヲ組成ス (2)遺言ヲ以テ寄附行為ヲ為シタルトキハ寄附財産ハ遺言カ効力ヲ生シタル時ヨ リ法人ニ帰属シタルモノト看做ス
第43条

第四十三条 法人ハ法令ノ規定ニ従ヒ定款又ハ寄附行為ニ因リテ定マリタル目的ノ範囲内ニ於テ権利ヲ有シ義務ヲ負フ

第四十四条 法人ハ理事其他ノ代理人カ其職務ヲ行フニ付キ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠 償スル責ニ任ス (2)法人ノ目的ノ範囲内ニ在ラサル行為ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ其 事項ノ議決ヲ賛成シタル社員、理事及ヒ之ヲ履行シタル理事其他ノ代理人連帯 シテ其賠償ノ責ニ任ス 第四十五条 法人ハ其設立ノ日ヨリ主タル事務所ノ所在地ニ於テハ二週間、其他ノ事 務所ノ所在地ニ於テハ三週間内ニ登記ヲ為スコトヲ要ス (2)法人ノ設立ハ其主タル事務所ノ所在地ニ於テ登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ 他人ニ対抗スルコトヲ得ス (3)法人設立ノ後新ニ事務所ヲ設ケタルトキハ其事務所ノ所在地ニ於テハ三週間 内ニ登記ヲ為スコトヲ要ス 第四十六条 登記スヘキ事項左ノ如シ 一 目的 二 名称 三 事務所 四 設立許可ノ年月日 五 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期 六 資産ノ総額 七 出資ノ方法ヲ定メタルトキハ其方法 八 理事ノ氏名、住所 (2)前項ニ掲ケタル事項中ニ変更ヲ生シタルトキハ主タル事務所ノ所在地ニ於テ ハ二週間、其他ノ事務所ノ所在地ニ於テハ三週間内ニ其登記ヲ為スコトヲ要ス 登記前ニ在リテハ其変更ヲ以テ他人ニ対抗スルコトヲ得ス 第四十七条 第四十五条第一項及ヒ前条ノ規定ニ依リ登記スヘキ事項ニシテ官庁ノ許 可ヲ要スルモノハ其許可書ノ到達シタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス 第四十八条 法人カ主タル事務所ヲ移転シタルトキハ二週間内ニ旧所在地ニ於テハ移 転ノ登記ヲ為シ新所在地に於テハ第四十六条第一項ニ定メタル登記ヲ為シ其他ノ 事務所ヲ移転シタルトキハ旧所在地ニ於テハ三週間内ニ移転ノ登記ヲ為シ新所在 地ニ於テハ四週間内ニ第四十六条第一項ニ定メタル登記ヲ為スコトヲ要ス (2)同一ノ登記所ノ管轄区域内ニ於テ事務所ヲ移転シタルトキハ其移転ノミノ登 記ヲ為スコトヲ要ス 第四十九条 第四十五条第三項、第四十六条及ヒ前条ノ規定ハ外国法人カ日本ニ事務 所ヲ設クル場合ニモ亦之ヲ適用ス但外国ニ於テ生シタル事項ニ付テハ其通知ノ到 達シタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス (2)外国法人カ始メテ日本ニ事務所ヲ設ケタルトキハ其事務所ノ所在地ニ於テ登 記ヲ為スマテハ他人ハ其法人ノ成立ヲ否認スルコトヲ得 第五十条 法人ノ住所ハ其主タル事務所ノ所在地ニ在ルモノトス 第五十一条 法人ハ設立ノ時及ヒ毎年初ノ三个月内ニ財産目録ヲ作リ常ニ之ヲ事務所 ニ備ヘ置クコトヲ要ス但特ニ事業年度ヲ設クルモノハ設立ノ時及ヒ其年度ノ終ニ 於テ之ヲ作ルコトヲ要ス (2)社団法人ハ社員名簿ヲ備ヘ置キ社員ノ変更アル毎ニ之ヲ訂正スルコトヲ要ス

第二節 法人ノ管

第五十二条 法人ニハ一人又ハ数人ノ理事ヲ置クコトヲ要ス (2)理事数人アル場合ニ於テ定款又ハ寄附行為ニ別段ノ定ナキトキハ法人ノ事務 ハ理事ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス 第五十三条 理事ハ総テ法人ノ事務ニ付キ法人ヲ代表ス但定款ノ規定又ハ寄附行為ノ 趣旨ニ違反スルコトヲ得ス又社団法人ニ在リテハ総会ノ決議ニ従フコトヲ要ス 第五十四条 理事ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ 得ス 第五十五条 理事ハ定款、寄附行為又ハ総会ノ決議ニ依リテ禁止セラレサルトキニ限 リ特定ノ行為ノ代理ヲ他人ニ委任スルコトヲ得 第五十六条 理事ノ欠ケタル場合ニ於テ遅滞ノ為メ損害ヲ生スル虞アルトキハ裁判所 ハ利害関係人又ハ検察官ノ請求ニ因リ仮理事ヲ選任ス 第五十七条 法人ト理事トノ利益相反スル事項ニ付テハ理事ハ代理権ヲ有セス此場合 ニ於テハ前条ノ規定ニ依リテ特別代理人ヲ選任スルコトヲ要ス 第五十八条 法人ニハ定款、寄附行為又ハ総会ノ決議ヲ以テ一人又ハ数人ノ監事ヲ置 クコトヲ得 第五十九条 監事ノ職務左ノ如シ 一 法人ノ財産ノ状況ヲ監査スルコト 二 理事ノ業務執行ノ状況ヲ監査スルコト 三 財産ノ状況又ハ業務ノ執行ニ付キ不整ノ廉アルコトヲ発見シタルトキハ之ヲ 総会又ハ主務官庁ニ報告スルコト 四 前号ノ報告ヲ為ス為メ必要アルトキハ総会ヲ招集スルコト 第六十条 社団法人ノ理事ハ少クトモ毎年一回社員ノ通常総会ヲ開クコトヲ要ス 第六十一条 社団法人ノ理事ハ必要アリト認ムルトキハ何時ニテモ臨時総会ヲ招集ス ルコトヲ得 (2)総社員ノ五分ノ一以上ヨリ会議ノ目的タル事項ヲ示シテ請求ヲ為シタルトキ ハ理事ハ臨事総会ヲ招集スルコトヲ要ス但此定数ハ定款ヲ以テ之ヲ増減スルコ トヲ得 第六十二条 総会ノ招集ハ少クトモ五日前ニ其会議ノ目的タル事項ヲ示シ定款ニ定メ タル方法ニ従ヒテ之ヲ為スコトヲ要ス 第六十三条 社団法人ノ事務ハ定款ヲ以テ理事其他ノ役員ニ委任シタルモノヲ除ク外 総テ総会ノ決議ニ依リテ之ヲ行フ 第六十四条 総会ニ於テハ第六十二条ノ規定ニ依リテ予メ通知ヲ為シタル事項ニ付テ ノミ決議ヲ為スコトヲ得但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第六十五条 各社員ノ表決権ハ平等ナルモノトス (2)総会ニ出席セサル社員ハ書面ヲ以テ表決ヲ為シ又ハ代理人ヲ出タスコトヲ得 (3)前二項ノ規定ハ定款ニ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス 第六十六条 社団法人ト或社員トノ関係ニ付キ議決ヲ為ス場合ニ於テハ其社員ハ表決 権ヲ有セス 第六十七条 法人ノ業務ハ主務官庁ノ監督ニ属ス (2)主務官庁ハ法人ニ対シ監督上必要ナル命令ヲ為スコトヲ得 (3)主務官庁ハ何時ニテモ職権ヲ以テ法人ノ業務及ヒ財産ノ状況ヲ検査スルコト ヲ得

第三節 法人ノ解散

第六十八条 法人ハ左ノ事由ニ因リテ解散ス 一 定款又ハ寄附行為ヲ以テ定メタル解散事由ノ発生 二 法人ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能 三 破産 四 設立許可ノ取消 (2)社団法人ハ前項ニ掲ケタル場合ノ外左ノ事由ニ因リテ解散ス 一 総会ノ決議 二 社員ノ欠亡 第六十九条 社団法人ハ総社員ノ四分ノ三以上ノ承諾アルニ非サレハ解散ノ決議ヲ為 スコトヲ得ス但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第七十条 法人カ其債務ヲ完済スルコト能ハサルニ至リタルトキハ裁判所ハ理事若ク ハ債権者ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ破産ノ宣告ヲ為ス (2)前項ノ場合ニ於テ理事ハ直チニ破産宣告ノ請求ヲ為スコトヲ要ス 第七十一条 法人カ其目的以外ノ事業ヲ為シ又ハ設立ノ許可ヲ得タル条件若クハ主務 官庁ノ監督上ノ命令ニ違反シ其他公益ヲ害スヘキ行為ヲ為シタル場合ニ於テ他ノ 方法ニ依リ監督ノ目的ヲ達スルコト能ハザルトキハ主務官庁ハ其許可ヲ取消スコ トヲ得 正当ノ事由ナクシテ引続キ三年以上事業ヲ為サザルトキ亦同ジ 第七十二条 解散シタル法人ノ財産ハ定款又ハ寄附行為ヲ以テ指定シタル人ニ帰属ス (2)定款又ハ寄附行為ヲ以テ帰属権利者ヲ指定セス又ハ之ヲ指定スル方法ヲ定メ サリシトキハ理事ハ主務官庁ノ許可ヲ得テ其法人ノ目的ニ類似セル目的ノ為メ ニ其財産ヲ処分スルコトヲ得但社団法人ニ在リテハ総会ノ決議ヲ経ルコトヲ要 ス (3)前二項ノ規定ニ依リテ処分セラレサル財産ハ国庫ニ帰属ス 第七十三条 解散シタル法人ハ清算ノ目的ノ範囲内ニ於テハ其清算ノ結了ニ至ルマテ 尚ホ存続スルモノト看做ス 第七十四条 法人カ解散シタルトキハ破産ノ場合ヲ除ク外理事其清算人ト為ル但定款 若クハ寄附行為ニ別段ノ定アルトキ又ハ総会ニ於テ他人ヲ選任シタルトキハ此限 ニ在ラス 第七十五条 前条ノ規定ニ依リテ清算人タル者ナキトキ又ハ清算人ノ欠ケタル為メ損 害ヲ生スル虞アルトキハ裁判所ハ利害関係人若クハ検察官ノ請求ニ因リ又ハ職権 ヲ以テ清算人ヲ選任スルコトヲ得 第七十六条 重要ナル事由アルトキハ裁判所ハ利害関係人若クハ検察官ノ請求ニ因リ 又ハ職権ヲ以テ清算人ヲ解任スルコトヲ得 第七十七条 清算人ハ破産及ビ設立許可ノ取消ノ場合ヲ除ク外解散後主タル事務所ノ 所在地ニ於テハ二週間、其他ノ事務所ノ所在地ニ於テハ三週間内ニ其氏名、住所 及ヒ解散ノ原因、年月日ノ登記ヲ為シ且ツ之ヲ主務官庁ニ届出ツルコトヲ要ス (2)清算中ニ就職シタル清算人ハ就職後主タル事務所ノ所在地ニ於テハ二週間、 其他ノ事務所ノ所在地ニ於テハ三週間内ニ其氏名、住所ノ登記ヲ為シ且ツ之ヲ 主務官庁ニ届出ツルコトヲ要ス (3)前項ノ規定ハ設立許可ノ取消ニ因ル解散ノ際ニ就職シタル清算人ニ之ヲ準用 ス 第七十八条 清算人ノ職務左ノ如シ 一 現務ノ結了 二 債権ノ取立及ヒ債務ノ弁済 三 残余財産ノ引渡 (2)清算人ハ前項ノ職務ヲ行フ為メニ必要ナル一切ノ行為ヲ為スコトヲ得 第七十九条 清算人ハ其就職ノ日ヨリ二个月内ニ少クトモ三回ノ公告ヲ以テ債権者ニ 対シ一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ為スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ要ス但其期間ハ 二个月ヲ下ルコトヲ得ス (2)前項ノ公告ニハ債権者カ期間内ニ申出ヲ為ササルトキハ其債権ハ清算ヨリ除 斥セラルヘキ旨ヲ附記スルコトヲ要ス但清算人ハ知レタル債権者ヲ除斥スルコ トヲ得ス (3)清算人ハ知レタル債権者ニハ各別ニ其申出ヲ催告スルコトヲ要ス 第八十条 前条ノ期間後ニ申出テタル債権者ハ法人ノ債務完済ノ後未タ帰属権利者ニ 引渡ササル財産ニ対シテノミ請求ヲ為スコトヲ得 第八十一条 清算中ニ法人ノ財産カ其債務ヲ完済スルニ不足ナルコト分明ナルニ至リ タルトキハ清算人ハ直チニ破産宣告ノ請求ヲ為シテ其旨ヲ公告スルコトヲ要ス (2)清算人ハ破産管財人ニ其事務ヲ引渡シタルトキハ其任ヲ終ハリタルモノトス (3)本条ノ場合ニ於テ既ニ債権者ニ支払ヒ又ハ帰属権利者ニ引渡シタルモノアル トキハ破産管財人ハ之ヲ取戻スコトヲ得 第八十二条 法人ノ解散及ヒ清算ハ裁判所ノ監督ニ属ス (2)裁判所ハ何時ニテモ職権ヲ以テ前項ノ監督ニ必要ナル検査ヲ為スコトヲ得 第八十三条 清算カ終了シタルトキハ清算人ハ之ヲ主務官庁ニ届出ツルコトヲ要ス

第四節 罰則

第八十四条 法人ノ理事、監事又ハ清算人ハ左ノ場合ニ於テハ五十万円以下ノ過料ニ 処セラル 一 本章ニ定メタル登記ヲ為スコトヲ怠リタルトキ 二 第五十一条ノ規定ニ違反シ又ハ財産目録若クハ社員名簿ニ不正ノ記載ヲ為シ タルトキ 三 第六十七条又ハ第八十二条ノ場合ニ於テ主務官庁又ハ裁判所ノ検査ヲ妨ケタ ルトキ 三ノ二 主務官庁ノ監督上ノ命令ニ違反シタルトキ 四 官庁又ハ総会ニ対シ不実ノ申立ヲ為シ又ハ事実ヲ隠蔽シタルトキ 五 第七十条又ハ第八十一条ノ規定ニ反シ破産宣告ノ請求ヲ為スコトヲ怠リタル トキ 六 第七十九条又ハ第八十一条ニ定メタル公告ヲ為スコトヲ怠リ又ハ不正ノ公告 ヲ為シタルトキ 第八十四条ノ二 第三十四条ノ二ノ規定ニ違反シタル者ハ十万円以下ノ過料ニ処セラ ル

第三章 物

第八十五条 本法ニ於テ物トハ有体物ヲ謂フ 第八十六条 土地及ヒ其定著物ハ之ヲ不動産トス (2)此他ノ物ハ総テ之ヲ動産トス (3)無記名債権ハ之ヲ動産ト看做ス 第八十七条 物ノ所有者カ其物ノ常用ニ供スル為メ自己ノ所有ニ属スル他ノ物ヲ以テ 之ニ附属セシメタルトキハ其附属セシメタル物ヲ従物トス (2)従物ハ主物ノ処分ニ随フ 第八十八条 物ノ用方ニ従ヒ収取スル産出物ヲ天然果実トス (2)物ノ使用ノ対価トシテ受クヘキ金銭其他ノ物ヲ法定果実トス 第八十九条 天然果実ハ其元物ヨリ分離スル時ニ之ヲ収取スル権利ヲ有スル者ニ属ス (2)法定果実ハ之ヲ収取スル権利ノ存続期間日割ヲ以テ之ヲ取得ス

第四章 法律行為

第一節 総則

90条

第九十条 公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス

第九十一条 法律行為ノ当事者カ法令中ノ秩序ニ関セサル規定ニ異ナリタル意思ヲ表 示シタルトキハ其意思ニ従フ 第九十二条 法令中ノ公ノ秩序ニ関セサル規定ニ異ナリタル慣習アル場合ニ於テ法律 行為ノ当事者カ之ニ依ル意思ヲ有セルモノト認ムヘキトキハ其慣習ニ従フ

第二節 意思表示

第九十三条 意思表示ハ表意者カ其真意ニ非サルコトヲ知リテ之ヲ為シタル為メ其効 力ヲ妨ケラルルコトナシ但相手方カ表意者ノ真意ヲ知リ又ハ之ヲ知ルコトヲ得ヘ カリシトキハ其意思表示ハ無効トス 第九十四条 相手方ト通シテ為シタル虚偽ノ意思表示ハ無効トス (2)前項ノ意思表示ノ無効ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第九十五条 意思表示ハ法律行為ノ要素ニ錯誤アリタルトキハ無効トス但表意者ニ重 大ナル過失アリタルトキハ表意者自ラ其無効ヲ主張スルコトヲ得ス 第九十六条 詐欺又ハ強迫ニ因ル意思表示ハ之ヲ取消スコトヲ得 (2)或人ニ対スル意思表示ニ付キ第三者カ詐欺ヲ行ヒタル場合ニ於テハ相手方カ 其事実ヲ知リタルトキニ限リ其意思表示ヲ取消スコトヲ得 (3)詐欺ニ因ル意思表示ノ取消ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第九十七条 隔地者ニ対スル意思表示ハ其通知ノ相手方ニ到達シタル時ヨリ其効力ヲ 生ス (2)表意者カ通知ヲ発シタル後ニ死亡シ又ハ能力ヲ失フモ意思表示ハ之カ為メニ 其効力ヲ妨ケラルルコトナシ 第九十七条ノ二 意思表示ハ表意者カ相手方ヲ知ルコト能ハス又ハ其所在ヲ知ルコト 能ハサルトキハ公示ノ方法ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得 (2)前項ノ公示ハ公示送達ニ関スル民事訴訟法ノ規定ニ従ヒ裁判所ノ掲示場ニ掲 示シ且其掲示アリタルコトヲ官報及ヒ新聞紙ニ少クモ一回掲載シテ之ヲ為ス但 裁判所相当ト認ムルトキハ官報及ヒ新聞紙ノ掲載ニ代ヘ市役所、町村役場又ハ 之ニ準スヘキ施設ノ掲示場ニ掲示スヘキコトヲ命スルコトヲ得 (3)公示ニ依ル意思表示ハ最後ニ官報若クハ新聞紙ニ掲載シタル日又ハ其掲載ニ 代ハル掲示ヲ始メタル日ヨリ二週間ヲ経過シタル時ニ相手方ニ到達シタルモノ ト看做ス但表意者カ相手方ヲ知ラス又ハ其所在ヲ知ラサルニ付キ過失アリタル トキハ到達ノ効力ヲ生セス (4)公示ニ関スル手続ハ相手方ヲ知ルコト能ハサル場合ニ於テハ表意者ノ住所 地、相手方ノ所在ヲ知ルコト能ハサル場合ニ於テハ相手方ノ最後ノ住所地ノ簡 易裁判所ノ管轄ニ属ス (5)裁判所ハ表意者ヲシテ公示ニ関スル費用ヲ予納セシムルコトヲ要ス 第九十八条 意思表示ノ相手方カ之ヲ受ケタル時ニ未成年者又ハ禁治産者ナリシトキ ハ其意思表示ヲ以テ之ニ対抗スルコトヲ得ス但其法定代理人カ之ヲ知リタル後ハ 此限ニ在ラス

第三節 代理

第99条

第九十九条 代理人カ其権限内ニ於テ本人ノ為メニスルコトヲ示シテ為シタル意思表 示ハ直接ニ本人ニ対シテ其効力ヲ生ス

(2)前項ノ規定ハ第三者カ代理人ニ対シテ為シタル意思表示ニ之ヲ準用ス

第100条

第百条 代理人カ本人ノ為メニスルコトヲ示サスシテ為シタル意思表示ハ自己ノ為メニ之ヲ為シタルモノト看做ス但相手方カ其本人ノ為メニスルコトヲ知リ又ハ之ヲ知ルコトヲ得ヘカリシトキハ前条第一項ノ規定ヲ準用ス

第101条

第百一条 意思表示ノ効力カ意思ノ欠缺、詐欺、強迫又ハ或事情ヲ知リタルコト若クハ之ヲ知ラサル過失アリタルコトニ因リテ影響ヲ受クヘキ場合ニ於テ其事実ノ有無ハ代理人ニ付キ之ヲ定ム

(2)特定ノ法律行為ヲ為スコトヲ委託セラレタル場合ニ於テ代理人カ本人ノ指図ニ従ヒ其行為ヲ為シタルトキハ本人ノ其自ラ知リタル事情ニ付キ代理人ノ不知ヲ主張スルコトヲ得ス其過失ニ因リテ知ラサリシ事情ニ付キ亦同シ

第102条

第百二条 代理人ハ能力者タルコトヲ要セス

第103条

第百三条 権限ノ定ナキ代理人ハ左ノ行為ノミヲ為ス権限ヲ有ス

一 保存行為

二 代理人ノ目的タル物又ハ権利ノ性質ヲ変セサル範囲内ニ於テ其利用又ハ改良ヲ目的トスル行為

第104条

第百四条 委任ニ因ル代理人ハ本人ノ許諾ヲ得タルトキ又ハ已ムコトヲ得サル事由アルトキニ非サレハ復代理人ヲ選任スルコトヲ得ス

第105条

第百五条 代理人カ前条ノ場合ニ於テ復代理人ヲ選任シタルトキハ選任及ヒ監督ニ付キ本人ニ対シテ其責ニ任ス

(2)代理人カ本人ノ指名ニ従ヒテ復代理人ヲ選任シタルトキハ其不適任又ハ不誠実ナルコトヲ知リテ之ヲ本人ニ通知シ又ハ之ヲ解任スルコトヲ怠リタルニ非サレハ其責ニ任セス

第106条

第百六条 法定代理人ハ其責任ヲ以テ復代理人ヲ選任スルコトヲ得但已ムコトヲ得サル事由アリタルトキハ前条第一項ニ定メタル責任ノミヲ負フ

第107条

第百七条 復代理人ハ其権限内ノ行為ニ付キ本人ヲ代表ス

(2)復代理人ハ本人及ヒ第三者ニ対シテ代理人ト同一ノ権利義務ヲ有ス

第108条

第百八条 何人ト雖モ同一ノ法律行為ニ付キ其相手方ノ代理人ト為リ又ハ当事者双方ノ代理人ト為ルコトヲ得ス但債務ノ履行ニ付テハ此限ニ在ラス

第109条

第百九条 第三者ニ対シテ他人ニ代理権ヲ与ヘタル旨ヲ表示シタル者ハ其代理権ノ範囲内ニ於テ其他人ト第三者トノ間ニ為シタル行為ニ付キ其責ニ任ス

第110条

第百十条 代理人カ其権限外ノ行為ヲ為シタル場合ニ於テ第三者カ其権限アリト信スヘキ正当ノ理由ヲ有セシトキハ前条ノ規定ヲ準用ス

第111条

第百十一条 代理権ハ左ノ事由ニ因リテ消滅ス

一 本人ノ死亡

二 代理人ノ死亡、禁治産又ハ破産

(2)此他委任ニ因ル代理権ハ委任ノ終了ニ因リテ消滅ス

第112条

第百十二条 代理権ノ消滅ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス但第三者カ過失ニ因リテ其事実ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス

第113条

第百十三条 代理権ヲ有セサル者カ他人ノ代理人トシテ為シタル契約ハ本人カ其追認ヲ為スニ非サレハ之ニ対シテ其効力ヲ生セス

(2)追認又ハ其拒絶ハ相手方ニ対シテ之ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ其相手方ニ対抗スルコトヲ得ス但相手方カ其事実ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス

第114条

第百十四条 前条ノ場合ニ於テ相手方ハ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ追認ヲ為スヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ本人ニ催告スルコトヲ得若シ本人カ其期間内ニ確答ヲ為ササルトキハ追認ヲ拒絶シタルモノト看做ス

第115条

第百十五条 代理権ヲ有セサル者ノ為シタル契約ハ本人ノ追認ナキ間ハ相手方ニ於テ之ヲ取消スコトヲ得但契約ノ当時相手方カ代理権ナキコトヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス

第116条

第百十六条 追認ハ別段ノ意思表示ナキトキハ契約ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス

第117条

第百十七条 他人ノ代理人トシテ契約ヲ為シタル者カ其代理権ヲ証明スルコト能ハス且本人ノ追認ヲ得サリシトキハ相手方ノ選択ニ従ヒ之ニ対シテ履行又ハ損害賠償ノ責ニ任ス

(2)前項ノ規定ハ相手方カ代理権ナキコトヲ知リタルトキ若クハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキ又ハ代理人トシテ契約ヲ為シタル者カ其能力ヲ有セサリシトキハ之ヲ適用セス

第118条

第百十八条 単独行為ニ付テハ其行為ノ当時相手方カ代理人ト称スル者ノ代理権ナクシテ之ヲ為スコトニ同意シ又ハ其代理権ヲ争ハサリシトキニ限リ前五条ノ規定ヲ準用ス代理権ヲ有セサル者ニ対シ其同意ヲ得テ単独行為ヲ為シタルトキ亦同シ

第四節 無効及ヒ取消

第119条

第百十九条 無効ノ行為ハ追認ニ因リテ其効力ヲ生セス但当事者カ其無効ナルコトヲ知リテ追認ヲ為シタルトキハ新ナル行為ヲ為シタルモノト看做ス

第120条

第百二十条 取消シ得ヘキ行為ハ無能力者若クハ瑕疵アル意思表示ヲ為シタル者、其 代理人又ハ承継人ニ限リ之ヲ取消スコトヲ得

第百二十一条 取消シタル行為ハ初ヨリ無効ナリシモノト看做ス但無能力者ハ其行為 ニ因リテ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テ償還ノ義務ヲ負フ 第百二十二条 取消シ得ヘキ行為ハ第百二十条ニ掲ケタル者カ之ヲ追認シタルトキハ 初ヨリ有効ナリシモノト看做ス但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス 第百二十三条 取消シ得ヘキ行為ノ相手方カ確定セル場合ニ於テ其取消又ハ追認ハ相 手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス 第百二十四条 追認ハ取消ノ原因タル情況ノ止ミタル後之ヲ為スニ非サレハ其効ナシ (2)禁治産者カ能力ヲ回復シタル後其行為ヲ了知シタルトキハ其了知シタル後ニ 非サレハ追認ヲ為スコトヲ得ス (3)前二項ノ規定ハ法定代理人カ追認ヲ為ス場合ニハ之ヲ適用セス 第百二十五条 前条ノ規定ニ依リ追認ヲ為スコトヲ得ル時ヨリ後取消シ得ヘキ行為ニ 付キ左ノ事実アリタルトキハ追認ヲ為シタルモノト看做ス但異議ヲ留メタルトキ ハ此限ニ在ラス 一 全部又ハ一部ノ履行 二 履行ノ請求 三 更改 四 担保ノ供与 五 取消シ得ヘキ行為ニ因リテ取得シタル権利ノ全部又ハ一部ノ譲渡 六 強制執行 第百二十六条 取消権ハ追認ヲ為スコトヲ得ル時ヨリ五年間之ヲ行ハサルトキハ時効 ニ因リテ消滅ス行為ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタルトキ亦同シ

第五節 条件及ヒ期限

第百二十七条 停止条件附法律行為ハ条件成就ノ時ヨリ其効力ヲ生ス (2)解除条件附法律行為ハ条件成就ノ時ヨリ其効力ヲ失フ (3)当事者カ条件成就ノ効果ヲ其成就以前ニ遡ラシムル意思ヲ表示シタルトキハ 其意思ニ従フ 第百二十八条 条件附法律行為ノ各当事者ハ条件ノ成否未定ノ間ニ於テ条件ノ成就ニ 因リ其行為ヨリ生スヘキ相手方ノ利益ヲ害スルコトヲ得ス 第百二十九条 条件ノ成否未定ノ間ニ於ケル当事者ノ権利義務ハ一般ノ規定ニ従ヒ之 ヲ処分、相続、保存又ハ担保スルコトヲ得 第百三十条 条件ノ成就ニ因リテ不利益ヲ受クヘキ当事者カ故意ニ其条件ノ成就ヲ妨 ケタルトキハ相手方ハ其条件ヲ成就シタルモノト看做スコトヲ得 第百三十一条 条件カ法律行為ノ当時既ニ成就セル場合ニ於テ其条件カ停止条件ナル トキハ其法律行為ハ無条件トシ解除条件ナルトキハ無効トス (2)条件ノ不成就カ法律行為ノ当時既ニ確定セル場合ニ於テ其条件カ停止条件ナ ルトキハ其法律行為ハ無効トシ解除条件ナルトキハ無条件トス (3)前二項ノ場合ニ於テ当事者カ条件ノ成就又ハ不成就ヲ知ラサル間ハ第百二十 八条及ヒ第百二十九条ノ規定ヲ準用ス 第百三十二条 不法ノ条件ヲ附シタル法律行為ハ無効トス不法行為ヲ為ササルヲ以テ 条件トスルモノ亦同シ 第百三十三条 不能ノ停止条件ヲ附シタル法律行為ハ無効トス (2)不能ノ解除条件ヲ附シタル法律行為ハ無条件トス 第百三十四条 停止条件附法律行為ハ其条件カ単ニ債務者ノ意思ノミニ係ルトキハ無 効トス 第百三十五条 法律行為ニ始期ヲ附シタルトキハ其法律行為ノ履行ハ期限ノ到来スル マテ之ヲ請求スルコトヲ得ス (2)法律行為ニ終期ヲ附シタルトキハ其法律行為ノ効力ハ期限ノ到来シタル時ニ 於テ消滅ス 第百三十六条 期限ハ債務者ノ利益ノ為メニ定メタルモノト推定ス (2)期限ノ利益ハ之ヲ抛棄スルコトヲ得但之カ為メニ相手方ノ利益ヲ害スルコト ヲ得ス 第百三十七条 左ノ場合ニ於テハ債務者ハ期限ノ利益ヲ主張スルコトヲ得ス 一 債務者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキ 二 債務者カ担保ヲ毀滅シ又ハ之ヲ減少シタルトキ 三 債務者カ担保ヲ供スル義務ヲ負フ場合ニ於テ之ヲ供セサルトキ

第五章 期

第百三十八条 期間ノ計算法ハ法令、裁判上ノ命令又ハ法律行為ニ別段ノ定アル場合 ヲ除ク外本章ノ規定ニ従フ 第百三十九条 期間ヲ定ムルニ時ヲ以テシタルトキハ即時ヨリ之ヲ起算ス 第百四十条 期間ヲ定ムルニ日、週、月又ハ年ヲ以テシタルトキハ期間ノ初日ハ之ヲ 算入セス但其期間カ午前零時ヨリ始マルトキハ此限ニ在ラス 第百四十一条 前条ノ場合ニ於テハ期間ノ末日ノ終了ヲ以テ期間ノ満了トス 第百四十二条 期間ノ末日カ大祭日、日曜日其他ノ休日ニ当タルトキハ其日ニ取引ヲ 為ササル慣習アル場合ニ限リ期間ハ其翌日ヲ以テ満了トス 第百四十三条 期間ヲ定ムルニ週、月又ハ年ヲ以テシタルトキハ暦ニ従ヒテ之ヲ算ス (2)週、月又ハ年ノ始ヨリ期間ヲ起算セサルトキハ其期間ハ最後ノ週、月又ハ年 ニ於テ其起算日ニ応当スル日ノ前日ヲ以テ満了ス但月又ハ年ヲ以テ期間ヲ定メ タル場合ニ於テ最後ノ月ニ応当日ナキトキハ其月ノ末日ヲ以テ満期日トス

第六章 時効

第一節 総則

第百四十四条 時効ノ効力ハ其起算日ニ遡ル 第百四十五条 時効ハ当事者カ之ヲ援用スルニ非サレハ裁判所之ニ依リテ裁判ヲ為ス コトヲ得ス 第百四十六条 時効ノ利益ハ予メ之ヲ抛棄スルコトヲ得ス 第百四十七条 時効ハ左ノ事由ニ因リテ中断ス 一 請求 二 差押、仮差押又ハ仮処分 三 承認 第百四十八条 前条ノ時効中断ハ当事者及ヒ其承継人ノ間ニ於テノミ其効力ヲ有ス 第百四十九条 裁判上ノ請求ハ訴ノ却下又ハ取下ノ場合ニ於テハ時効中断ノ効力ヲ生 セス 第百五十条 支払命令ハ債権者カ法定ノ期間内ニ仮執行ノ申立ヲ為ササルニ因リ其効 力ヲ失フトキハ時効中断ノ効力ヲ生セス 第百五十一条 和解ノ為メニスル呼出ハ相手方カ出頭セス又ハ和解ノ調ハサルトキハ 一个月内ニ訴ヲ提起スルニ非サレハ時効中断ノ効力ヲ生セス任意出頭ノ場合ニ於 テ和解ノ調ハサルトキ亦同シ 第百五十二条 破産手続参加ハ債権者カ之ヲ取消シ又ハ其請求カ却下セラレタルトキ ハ時効中断ノ効力ヲ生セス 第百五十三条 催告ハ六个月内ニ裁判上ノ請求、和解ノ為メニスル呼出若クハ任意出 頭、破産手続参加、差押、仮差押又ハ仮処分ヲ為スニ非サレハ時効中断ノ効力ヲ 生セス 第百五十四条 差押、仮差押及ヒ仮処分ハ権利者ノ請求ニ因リ又ハ法律ノ規定ニ従ハ サルニ因リテ取消サレタルトキハ時効中断ノ効力ヲ生セス 第百五十五条 差押、仮差押及ヒ仮処分ハ時効ノ利益ヲ受クル者ニ対シテ之ヲ為ササ ルトキハ之ヲ其者ニ通知シタル後ニ非サレハ時効中断ノ効力ヲ生セス 第百五十六条 時効中断ノ効力ヲ生スヘキ承認ヲ為スニハ相手方ノ権利ニ付キ処分ノ 能力又ハ権限アルコトヲ要セス 第百五十七条 中断シタル時効ハ其中断ノ事由ノ終了シタル時ヨリ更ニ其進行ヲ始ム (2)裁判上ノ請求ニ因リテ中断シタル時効ハ裁判ノ確定シタル時ヨリ更ニ其進行 ヲ始ム 第百五十八条 時効ノ期間満了前六个月内ニ於テ未成年者又ハ禁治産者カ法定代理人 ヲ有セサリシトキハ其者カ能力者ト為リ又ハ法定代理人カ就職シタル時ヨリ六个 月内ハ之ニ対シテ時効完成セス 第百五十九条 無能力者カ其財産ヲ管理スル父、母又ハ後見人ニ対シテ有スル権利ニ 付テハ其者カ能力者ト為リ又ハ後任ノ法定代理人カ就職シタル時ヨリ六个月内ハ 時効完成セス 第百五十九条ノ二 夫婦ノ一方カ他ノ一方ニ対シテ有スル権利ニ付テハ婚姻解消ノ時 ヨリ六个月内ハ時効完成セス 第百六十条 相続財産ニ関シテハ相続人ノ確定シ、管理人ノ選任セラレ又ハ破産ノ宣 告アリタル時ヨリ六个月内ハ時効完成セス 第百六十一条 時効ノ期間満了ノ時ニ当タリ天災其他避クヘカラサル事変ノ為メ時効 ヲ中断スルコト能ハサルトキハ其妨碍ノ止ミタル時ヨリ二週間内ハ時効完成セス

第二節 取得時効

第百六十二条 二十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ物ヲ占有シタル者ハ其 所有権ヲ取得ス (2)十年間所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ他人ノ不動産ヲ占有シタル者カ其占有 ノ始善意ニシテ且過失ナカリシトキハ其不動産ノ所有権ヲ取得ス 第百六十三条 所有権以外ノ財産権ヲ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ平穏且公然ニ行使 スル者ハ前条ノ区別ニ従ヒ二十年又ハ十年ノ後其権利ヲ取得ス 第百六十四条 第百六十二条ノ時効ハ占有者カ任意ニ其占有ヲ中止シ又ハ他人ノ為メ ニ之ヲ奪ハレタルトキハ中断ス 第百六十五条 前条ノ規定ハ第百六十三条ノ場合ニ之ヲ準用ス

第三節 消滅時効

第百六十六条 消滅時効ハ権利ヲ行使スルコトヲ得ル時ヨリ進行ス (2)前項ノ規定ハ始期附又ハ停止条件附権利ノ目的物ヲ占有スル第三者ノ為メニ 其占有ノ時ヨリ取得時効ノ進行スルコトヲ妨ケス但権利者ハ其時効ヲ中断スル 為メ何時ニテモ占有者ノ承認ヲ求ムルコトヲ得 第百六十七条 債権ハ十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス (2)債権又ハ所有権ニ非サル財産権ハ二十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 第百六十八条 定期金ノ債権ハ第一回ノ弁済期ヨリ二十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消 滅ス最後ノ弁済期ヨリ十年間之ヲ行ハサルトキ亦同シ (2)定期金ノ債権者ハ時効中断ノ証ヲ得ル為メ何時ニテモ其債務者ノ承認書ヲ求 ムルコトヲ得 第百六十九条 年又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル金銭其他ノ物ノ給付ヲ目的トス ル債権ハ五年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 第百七十条 左ニ掲ケタル債権ハ三年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 一 医師、産婆及ヒ薬剤師ノ治術、勤労及ヒ調剤ニ関スル債権 二 技師、棟梁及ヒ請負人ノ工事ニ関スル債権但此時効ハ其負担シタル工事終了 ノ時ヨリ之ヲ起算ス 第百七十一条 弁護士ハ事件終了ノ時ヨリ公証人ハ其職務執行ノ時ヨリ三年ヲ経過シ タルトキハ其職務ニ関シテ受取リタル書類ニ付キ其責ヲ免ル 第百七十二条 弁護士及ビ公証人ノ職務ニ関スル債権ハ其原因タル事件終了ノ時ヨリ 二年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス但其事件中ノ各事項終了ノ時ヨリ五年ヲ経過 シタルトキハ右ノ期間内ト雖モ其事項ニ関スル債権ハ消滅ス 第百七十三条 左ニ掲ケタル債権ハ二年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 一 生産者、卸売商人及ヒ小売商人カ売却シタル産物及ヒ商品ノ代価 二 居職人及ヒ製造人ノ仕事ニ関スル債権 三 生徒及ヒ習業者ノ教育、衣食及ヒ止宿ノ代料ニ関スル校主、塾主、教師及ヒ 師匠ノ債権 第百七十四条 左ニ掲ケタル債権ハ一年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 一 月又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル雇人ノ給料 二 労力者及ヒ芸人ノ賃金並ニ其供給シタル物ノ代価 三 運送賃 四 旅店、料理店、貸席及ヒ娯遊場ノ宿泊料、飲食料、席料、木戸銭、消費物代 価並ニ立替金 五 動産ノ損料 第百七十四条ノ二 確定判決ニ依リテ確定シタル権利ハ十年ヨリ短キ時効期間ノ定ア ルモノト雖モ其時効期間ハ之ヲ十年トス裁判上ノ和解、調停其他確定判決ト同一 ノ効力ヲ有スルモノニ依リテ確定シタル権利ニ付キ亦同シ (2)前項ノ規定ハ確定ノ当時未タ弁済期ノ到来セサル債権ニハ之ヲ適用セス

第二編 物権

第一章 総則

第百七十五条 物権ハ本法其他ノ法律ニ定ムルモノノ外之ヲ創設スルコトヲ得ス 第百七十六条 物権ノ設定及ヒ移転ハ当事者ノ意思表示ノミニ因リテ其効力ヲ生ス 第百七十七条 不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ定ムル所ニ従ヒ其登記 ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第百七十八条 動産ニ関スル物権ノ譲渡ハ其動産ノ引渡アルニ非サレハ之ヲ以テ第三 者ニ対抗スルコトヲ得ス 第百七十九条 同一物ニ付キ所有権及ヒ他ノ物権カ同一人ニ帰シタルトキハ其物権ハ 消滅ス但其物又ハ其物権カ第三者ノ権利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス (2)所有権以外ノ物権及ヒ之ヲ目的トスル他ノ権利カ同一人ニ帰シタルトキハ其 権利ハ消滅ス此場合ニ於テハ前項但書ノ規定ヲ準用ス (3)前二項ノ規定ハ占有権ニハ之ヲ適用セス

第二章 専有権

第一節 占有権ノ取得

第百八十条 占有権ハ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ物ヲ所持スルニ因リテ之ヲ取得ス 第百八十一条 占有権ハ代理人ニ依リテ之ヲ取得スルコトヲ得 第百八十二条 占有権ノ譲渡ハ占有物ノ引渡ニ依リテ之ヲ為ス (2)譲受人又ハ其代理人カ現ニ占有物ヲ所持スル場合ニ於テハ占有権ノ譲渡ハ当 事者ノ意思表示ノミニ依リテ之ヲ為スコトヲ得 第百八十三条 代理人カ自己ノ占有物ヲ爾後本人ノ為メニ占有スヘキ意思ヲ表示シタ ルトキハ本人ハ之ニ因リテ占有権ヲ取得ス 第百八十四条 代理人ニ依リテ占有ヲ為ス場合ニ於テ本人カ其代理人ニ対シ爾後第三 者ノ為メニ其物ヲ占有スヘキ旨ヲ命シ第三者之ヲ承諾シタルトキハ其第三者ハ占 有権ヲ取得ス 第百八十五条 権原ノ性質上占有者ニ所有ノ意思ナキモノトスル場合ニ於テハ其占有 者カ自己ニ占有ヲ為サシメタル者ニ対シ所有ノ意思アルコトヲ表示シ又ハ新権原 ニ因リ更ニ所有ノ意思ヲ以テ占有ヲ始ムルニ非サレハ占有ハ其性質ヲ変セス 第百八十六条 占有者ハ所有ノ意思ヲ以テ善意、平穏且公然ニ占有ヲ為スモノト推定 ス (2)前後両時ニ於テ占有ヲ為シタル証拠アルトキハ占有ハ其間継続シタルモノト 推定ス 第百八十七条 占有者ノ承継人ハ其選択ニ従ヒ自己ノ占有ノミヲ主張シ又ハ自己ノ占 有ニ前主ノ占有ヲ併セテ之ヲ主張スルコトヲ得 (2)前主ノ占有ヲ併セテ主張スル場合ニ於テハ其瑕疵モ亦之ヲ承継ス

第二節 占有権ノ効力

第百八十八条 占有者カ占有物ノ上ニ行使スル権利ハ之ヲ適法ニ有スルモノト推定ス 第百八十九条 善意ノ占有者ハ占有物ヨリ生スル果実ヲ取得ス (2)善意ノ占有者カ本権ノ訴ニ於テ敗訴シタルトキハ其起訴ノ時ヨリ悪意ノ占有 者ト看做ス 第百九十条 悪意ノ占有者ハ果実ヲ返還シ且其既ニ消費シ、過失ニ因リテ毀損シ又ハ 収取ヲ怠リタル果実ノ代価ヲ償還スル義務ヲ負フ (2)前項ノ規定ハ強暴又ハ隠秘ニ因ル占有者ニ之ヲ準用ス 第百九十一条 占有物カ占有者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキ ハ悪意ノ占有者ハ其回復者ニ対シ其損害ノ全部ヲ賠償スル義務ヲ負ヒ善意ノ占有 者ハ其滅失又ハ毀損ニ因リテ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テ賠償ヲ為ス義務ヲ負フ 但所有ノ意思ナキ占有者ハ其善意ナルトキト雖モ全部ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス 第百九十二条 平穏且公然ニ動産ノ占有ヲ始メタル者カ善意ニシテ且過失ナキトキハ 即時ニ其動産ノ上ニ行使スル権利ヲ取得ス 第百九十三条 前条ノ場合ニ於テ占有物カ盗品又ハ遺失物ナルトキハ被害者又ハ遺失 主ハ盗難又ハ遺失ノ時ヨリ二年間占有者ニ対シテ其物ノ回復ヲ請求スルコトヲ得 第百九十四条 占有者カ盗品又ハ遺失物ヲ競売若クハ公ノ市場ニ於テ又ハ其物ト同種 ノ物ヲ販売スル商人ヨリ善意ニテ買受ケタルトキハ被害者又ハ遺失主ハ占有者カ 払ヒタル代価ヲ弁償スルニ非サレハ其物ヲ回復スルコトヲ得ス 第百九十五条 他人カ飼養セシ家畜外ノ動物ヲ占有スル者ハ其占有ノ始善意ニシテ且 逃失ノ時ヨリ一个月内ニ飼養主ヨリ回復ノ請求ヲ受ケタルトキハ其動物ノ上ニ行 使スル権利ヲ取得ス 第百九十六条 占有者カ占有物ヲ返還スル場合ニ於テハ其物ノ保存ノ為メニ費シタル 金額其他ノ必要費ヲ回復者ヨリ償還セシムルコトヲ得但占有者カ果実ヲ取得シタ ル場合ニ於テハ通常ノ必要費ハ其負担ニ帰ス (2)占有者カ占有物ノ改良ノ為メニ費シタル金額其他ノ有益費ニ付テハ其価格ノ 増加カ現存スル場合ニ限リ回復者ノ選択ニ従ヒ其費シタル金額又ハ増価額ヲ償 還セシムルコトヲ得但悪意ノ占有者ニ対シテハ裁判所ハ回復者ノ請求ニ因リ之 ニ相当ノ期限ヲ許与スルコトヲ得 第百九十七条 占有者ハ後五条ノ規定ニ従ヒ占有ノ訴ヲ提起スルコトヲ得他人ノ為メ ニ占有ヲ為ス者亦同シ 第百九十八条 占有者カ其占有ヲ妨害セラレタルトキハ占有保持ノ訴ニ依リ其妨害ノ 停止及ヒ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 第百九十九条 占有者カ其占有ヲ妨害セラルル虞アルトキハ占有保全ノ訴ニ依リ其妨 害ノ予防又ハ損害賠償ノ担保ヲ請求スルコトヲ得 第二百条 占有者カ其占有ヲ奪ハレタトキハ占有回収ノ訴ニ依リ其物ノ返還及ヒ損害 ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 (2)占有回収ノ訴ハ侵奪者ノ特定承継人ニ対シテ之ヲ提起スルコトヲ得ス但其承 継人カ侵奪ノ事実ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 第二百一条 占有保持ノ訴ハ妨害ノ存スル間又ハ其止ミタル後一年内ニ之ヲ提起スル コトヲ要ス但工事ニ因リ占有物ニ損害ヲ生シタル場合ニ於テ其工事著手ノ時ヨリ 一年ヲ経過シ又ハ其工事ノ竣成シタルトキハ之ヲ提起スルコトヲ得ス (2)占有保全ノ訴ハ妨害ノ危険ノ存スル間ハ之ヲ提起スルコトヲ得但工事ニ因リ 占有物ニ損害ヲ生スル虞アルトキハ前項但書ノ規定ヲ準用ス (3)占有回収ノ訴ハ侵奪ノ時ヨリ一年内ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス 第二百二条 占有ノ訴ハ本権ノ訴ト互ニ相妨クルコトナシ (2)占有ノ訴ハ本権ニ関スル理由ニ基キテ之ヲ裁判スルコトヲ得ス

第三節 占有権ノ消滅

第二百三条 占有権ハ占有者カ占有ノ意思ヲ抛棄シ又ハ占有物ノ所持ヲ失フニ因リテ 消滅ス但占有者カ占有回収ノ訴ヲ提起シタルトキハ此限ニ在ラス 第二百四条 代理人ニ依リテ占有ヲ為ス場合ニ於テハ占有権ハ左ノ事由ニ因リテ消滅 ス 一 本人カ代理人ヲシテ占有ヲ為サシムル意思ヲ抛棄シタルコト 二 代理人カ本人ニ対シ爾後自己又ハ第三者ノ為メニ占有物ヲ所持スヘキ意思ヲ 表示シタルコト 三 代理人カ占有物ノ所持ヲ失ヒタルコト (2)占有権ハ代理権ノ消滅ノミニ因リテ消滅セス

第四節 準占有

第二百五条 本章ノ規定ハ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ財産権ノ行使ヲ為ス場合ニ之 ヲ準用ス

第三章 所有権

第一節 所有権ノ限界

第二百六条 所有者ハ法令ノ制限内ニ於テ自由ニ其所有物ノ使用、収益及ヒ処分ヲ為 ス権利ヲ有ス 第二百七条 土地ノ所有権ハ法令ノ制限内ニ於テ其土地ノ上下ニ及フ 第二百八条 削除 第二百九条 土地ノ所有者ハ疆界又ハ其近傍ニ於テ牆壁若クハ建物ヲ築造シ又ハ之ヲ 修繕スル為メ必要ナル範囲内ニ於テ隣地ノ使用ヲ請求スルコトヲ得但隣人ノ承諾 アルニ非サレハ其住家ニ立入ルコトヲ得ス (2)前項ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ請求スルコトヲ得 第二百十条 或土地カ他ノ土地ニ囲繞セラレテ公路ニ通セサルトキハ其土地ノ所有者 ハ公路ニ至ル為メ囲繞地ヲ通行スルコトヲ得 (2)池沼、河渠若クハ海洋ニ由ルニ非サレハ他ニ通スルコト能ハス又ハ崖岸アリ テ土地ト公路ト著シキ高低ヲ為ストキ亦同シ 第二百十一条 前条ノ場合ニ於テ通行ノ場所及ヒ方法ハ通行権ヲ有スル者ノ為メニ必 要ニシテ旦囲繞地ノ為メニ損害最モ少キモノヲ選フコトヲ要ス (2)通行権ヲ有スル者ハ必要アルトキハ通路ヲ開設スルコトヲ得 第二百十二条 通行権ヲ有スル者ハ通行地ノ損害ニ対シテ償金ヲ払フコトヲ要ス但通 路開設ノ為メニ生シタル損害ニ対スルモノヲ除ク外一年毎ニ其償金ヲ払フコトヲ 得 第二百十三条 分割ニ因リ公路ニ通セサル土地ヲ生シタルトキハ其土地ノ所有者ハ公 路ニ至ル為メ他ノ分割者ノ所有地ノミヲ通行スルコトヲ得此場合ニ於テハ償金ヲ 払フコトヲ要セス (2)前項ノ規定ハ土地ノ所有者カ其土地ノ一部ヲ譲渡シタル場合ニ之ヲ準用ス 第二百十四条 土地ノ所有者ハ隣地ヨリ水ノ自然ニ流レ来ルヲ妨クルコトヲ得ス 第二百十五条 水流カ事変ニ因リ低地ニ於テ阻塞シタルトキハ高地ノ所有者ハ自費ヲ 以テ其疏通ニ必要ナル工事ヲ為スコトヲ得 第二百十六条 甲地ニ於テ貯水、排水又ハ引水ノ為メニ設ケタル工作物ノ破潰又ハ阻 塞ニ因リテ乙地ニ損害ヲ及ホシ又ハ及ホス虞アルトキハ乙地ノ所有者ハ甲地ノ所 有者ヲシテ修繕若クハ疏通ヲ為サシメ又必要アルトキハ予防工事ヲ為サシムルコ トヲ得 第二百十七条 前二条ノ場合ニ於テ費用ノ負担ニ付キ別段ノ慣習アルトキハ其慣習ニ 従フ 第二百十八条 土地ノ所有者ハ直チニ雨水ヲ隣地ニ注瀉セシムヘキ屋根其他ノ工作物 ヲ設クルコトヲ得ス 第二百十九条 溝渠其他ノ水流地ノ所有者ハ対岸ノ土地カ他人ノ所有ニ属スルトキハ 其水路又ハ幅員ヲ変スルコトヲ得ス (2)両岸ノ土地カ水流地ノ所有者ニ属スルトキハ其所有者ハ水路及ヒ幅員ヲ変ス ルコトヲ得但下口ニ於テ自然ノ水路ニ復スルコトヲ要ス (3)前二項ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百二十条 高地ノ所有者ハ浸水地ヲ乾カス為メ又ハ家用若クハ農工業用ノ余水ヲ 排泄スル為メ公路、公流又ハ下水道ニ至ルマテ低地ニ水ヲ通過セシムルコトヲ得 但低地ノ為メニ損害最モ少キ場所及ヒ方法ヲ選フコトヲ要ス 第二百二十一条 土地ノ所有者ハ其所有地ノ水ヲ通過セシムル為メ高地又ハ低地ノ所 有者カ設ケタル工作物ヲ使用スルコトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テ他人ノ工作物ヲ使用スル者ハ其利益ヲ受クル割合ニ応シテ 工作物ノ設置及ヒ保存ノ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百二十二条 水流地ノ所有者ハ堰ヲ設クル需要アルトキハ其堰ヲ対岸ニ附著セシ ムルコトヲ得但之ニ因リテ生シタル損害ニ対シテ償金ヲ払フコトヲ要ス (2)対岸ノ所有者ハ水流地ノ一部カ其所有ニ属スルトキハ右ノ堰ヲ使用スルコト ヲ得但前条ノ規定ニ従ヒ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百二十三条 土地ノ所有者ハ隣地ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ疆界ヲ標示スヘキ 物ヲ設クルコトヲ得 第二百二十四条 界標ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス但測量ノ費 用ハ其土地ノ広狭ニ応シテ之ヲ分担ス 第二百二十五条 二棟ノ建物カ其所有者ヲ異ニシ且其間ニ空地アルトキハ各所有者ハ 他ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ其疆界ニ囲障ヲ設クルコトヲ得 (2)当事者ノ協議調ハサルトキハ前項ノ囲障ハ板屏又ハ竹垣ニシテ高サ二メート ルタルコトヲ要ス 第二百二十六条 囲障ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス 第二百二十七条 相隣者ノ一人ハ第二百二十五条第二項ニ定メタル材料ヨリ良好ナル モノヲ用茜又ハ高サヲ増シテ囲障ヲ設クルコトヲ得但之ニ因リテ生スル費用ノ増 額ヲ負担スルコトヲ要ス 第二百二十八条 前三条ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百二十九条 疆界線上ニ設ケタル界標、囲障、牆壁及ヒ溝渠ハ相隣者ノ共有ニ属 スルモノト推定ス 第二百三十条 一棟ノ建物ノ部分ヲ成ス疆界線上ノ牆壁ニハ前条ノ規定ヲ適用セス (2)高サノ不同ナル二棟ノ建物ヲ隔ツル牆壁ノ低キ建物ヲ踰ユル部分亦同シ但防 火牆壁ハ此限ニ在ラス 第二百三十一条 相隣者ノ一人ハ共有ノ牆壁ノ高サヲ増スコトヲ得但其牆壁カ此工事 ニ耐ヘサルトキハ自費ヲ以テ工作ヲ加ヘ又ハ其牆壁ヲ改築スルコトヲ要ス (2)前項ノ規定ニ依リテ牆壁ノ高サヲ増シタル部分ハ其工事ヲ為シタル者ノ専有 ニ属ス 第二百三十二条 前条ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ請求スルコ トヲ得 第二百三十三条 隣地ノ竹木ノ枝カ疆界線ヲ踰ユルトキハ其竹木ノ所有者ヲシテ其枝 ヲ剪除セシムルコトヲ得 (2)隣地ノ竹木ノ根カ疆界線ヲ踰ユルトキハ之ヲ截取スルコトヲ得 第二百三十四条 建物ヲ築造スルニハ疆界線ヨリ五十センチメートル以上ノ距離ヲ存 スルコトヲ要ス (2)前項ノ規定ニ違ヒテ建築ヲ為サントスル者アルトキハ隣地ノ所有者ハ其建築 ヲ廃止シ又ハ之ヲ変更セシムルコトヲ得但建築著手ノ時ヨリ一年ヲ経過シ又ハ 其建築ノ竣成シタル後ハ損害賠償ノ請求ノミヲ為スコトヲ得 第二百三十五条 疆界線ヨリ一メートル未満ノ距離ニ於テ他人ノ宅地ヲ観望スヘキ窓 又ハ椽側ヲ設クル者ハ目隠ヲ附スルコトヲ要ス (2)前項ノ距離ハ窓又ハ椽側ノ最モ隣地ニ近キ点ヨリ直角線ニテ疆界線ニ至ルマ テヲ測算ス 第二百三十六条 前二条ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百三十七条 井戸、用水溜、下水溜又ハ肥料溜ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ二メートル 以上池、地窖又ハ厠坑ヲ穿ツニハ一メートル以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス (2)水樋ヲ埋メ又ハ溝渠ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ其深サノ半以上ノ距離ヲ存スルコ トヲ要ス但一メートルヲ踰ユルコトヲ要セス 第二百三十八条 疆界線ノ近傍ニ於テ前条ノ工事ヲ為ストキハ土砂ノ崩壊又ハ水若ク ハ汚液ノ滲漏ヲ防クニ必要ナル注意ヲ為スコトヲ要ス

第二節 所有権ノ取得

第二百三十九条 無主ノ動産ハ所有ノ意思ヲ以テ之ヲ占有スルニ因リテ其所有権ヲ取 得ス (2)無主ノ不動産ハ国庫ノ所有ニ属ス 第二百四十条 遺失物ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ公告ヲ為シタル後六个月内ニ其所有 者ノ知レサルトキハ拾得者其所有権ヲ取得ス 第二百四十一条 埋蔵物ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ公告ヲ為シタル後六个月内ニ其所 有者ノ知レサルトキハ発見者其所有権ヲ取得ス但他人ノ物ノ中ニ於テ発見シタル 埋蔵物ハ発見者及ヒ其物ノ所有者折半シテ其所有権ヲ取得ス 第二百四十二条 不動産ノ所有者ハ其不動産ノ従トシテ之ニ附合シタル物ノ所有権ヲ 取得ス但権原ニ因リテ其物ヲ附属セシメタル他人ノ権利ヲ妨ケス 第二百四十三条 各別ノ所有者ニ属スル数個ノ動産カ附合ニ因リ毀損スルニ非サレハ 之ヲ分離スルコト能ハサルニ至リタルトキハ其合成物ノ所有権ハ主タル動産ノ所 有者ニ属ス分離ノ為メ過分ノ費用ヲ要スルトキ亦同シ 第二百四十四条 附合シタル動産ニ付キ主従ノ区別ヲ為スコト能ハサルトキハ各動産 ノ所有者ハ其附合ノ当時ニ於ケル価格ノ割合ニ応シテ合成物ヲ共有ス 第二百四十五条 前二条ノ規定ハ各別ノ所有者ニ属スル物カ混和シテ識別スルコト能 ハサルニ至リタル場合ニ之ヲ準用ス 第二百四十六条 他人ノ動産ニ工作ヲ加ヘタル者アルトキハ其加工物ノ所有権ハ材料 ノ所有者ニ属ス但工作ニ因リテ生シタル価格カ著シク材料ノ価格ニ超ユルトキハ 加工者其物ノ所有権ヲ取得ス (2)加工者カ材料ノ一部ヲ供シタルトキハ其価格ニ工作ニ因リテ生シタル価格ヲ 加ヘタルモノカ他人ノ材料ノ価格ニ超ユルトキニ限リ加工者其物ノ所有権ヲ取 得ス 第二百四十七条 前五条ノ規定ニ依リテ物ノ所有権カ消滅シタルトキハ其物ノ上ニ存 セル他ノ権利モ亦消滅ス (2)右ノ物ノ所有者カ合成物、混和物又ハ加工物ノ単独所有者ト為リタルトキハ 前項ノ権利ハ爾後合成物、混和物又ハ加工物ノ上ニ存シ其共有者ト為リタルト キハ其持分ノ上ニ存ス 第二百四十八条 前六条ノ規定ノ適用ニ因リテ損失ヲ受ケタル者ハ第七百三条及ヒ第 七百四条ノ規定ニ従ヒ償金ヲ請求スルコトヲ得

第三節 共有

第二百四十九条 各共有者ハ共有物ノ全部ニ付キ其持分ニ応シタル使用ヲ為スコトヲ 得 第二百五十条 各共有者ノ持分ハ相均シキモノト推定ス 第二百五十一条 各共有者ハ他ノ共有者ノ同意アルニ非サレハ共有物ニ変更ヲ加フル コトヲ得ス 第二百五十二条 共有物ノ管理ニ関スル事項ハ前条ノ場合ヲ除ク外各共有者ノ持分ノ 価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ之ヲ決ス但保存行為ハ各共有者之ヲ為スコトヲ得 第二百五十三条 各共有者ハ其持分ニ応シ管理ノ費用ヲ払ヒ其他共有物ノ負担ニ任ス (2)共有者カ一年内ニ前項ノ義務ヲ履行セサルトキハ他ノ共有者ハ相当ノ償金ヲ 払ヒテ其者ノ持分ヲ取得スルコトヲ得 第二百五十四条 共有者ノ一人カ共有物ニ付キ他ノ共有者ニ対シテ有スル債権ハ其特 定承継人ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得 第二百五十五条 共有者ノ一人カ其持分ヲ抛棄シタルトキ又ハ相続人ナクシテ死亡シ タルトキハ其持分ハ他ノ共有者ニ帰属ス 第二百五十六条 各共有者ハ何時ニテモ共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得但五年ヲ超 エサル期間内分割ヲ為ササル契約ヲ為スコトヲ妨ケス (2)此契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ 得ス 第二百五十七条 前条ノ規定ハ第二百二十九条ニ掲ケタル共有物ニハ之ヲ適用セス 第二百五十八条 分割ハ共有者ノ協議調ハサルトキハ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テ現物ヲ以テ分割ヲ為スコト能ハサルトキ又ハ分割ニ因リテ 著シク其価格ヲ損スル虞アルトキハ裁判所ハ其競売ヲ命スルコトヲ得 第二百五十九条 共有者ノ一人カ他ノ共有者ニ対シテ共有ニ関スル債権ヲ有スルトキ ハ分割ニ際シ債務者ニ帰スヘキ共有物ノ部分ヲ以テ其弁済ヲ為サシムルコトヲ得 (2)債権者ハ右ノ弁済ヲ受クル為メ債務者ニ帰スヘキ共有物ノ部分ヲ売却スル必 要アルトキハ其売却ヲ請求スルコトヲ得 第二百六十条 共有物ニ付キ権利ヲ有スル者及ヒ各共有者ノ債権者ハ自己ノ費用ヲ以 テ分割ニ参加スルコトヲ得 (2)前項ノ規定ニ依リテ参加ノ請求アリタルニ拘ハラス其参加ヲ待タスシテ分割 ヲ為シタルトキハ其分割ハ之ヲ以テ参加ヲ請求シタル者ニ対抗スルコトヲ得ス 第二百六十一条 各共有者ハ他ノ共有者カ分割ニ因リテ得タル物ニ付キ売主ト同シク 其持分ニ応シテ担保ノ責ニ任ス 第二百六十二条 分割カ結了シタルトキハ各分割者ハ其受ケタル物ニ関スル証書ヲ保 存スルコトヲ要ス (2)共有者一同又ハ其中ノ数人ニ分割シタル物ニ関スル証書ハ其物ノ最大部分ヲ 受ケタル者之ヲ保存スルコトヲ要ス (3)前項ノ場合ニ於テ最大部分ヲ受ケタル者ナキトキハ分割者ノ協議ヲ以テ証書 ノ保存者ヲ定ム若シ協議調ハサルトキハ裁判所之ヲ指定ス (4)証書ノ保存者ハ他ノ分割者ノ請求ニ応シテ其証書ヲ使用セシムルコトヲ要ス 第二百六十三条 共有ノ性質ヲ有スル入会権ニ付テハ各地方ノ慣習ニ従フ外本節ノ規 定ヲ適用ス 第二百六十四条 本節ノ規定ハ数人ニテ所有権以外ノ財産権ヲ有スル場合ニ之ヲ準用 ス但法令ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス

第四章 地上権

第二百六十五条 地上権者ハ他人ノ土地ニ於テ工作物又ハ竹木ヲ所有スル為メ其土地 ヲ使用スル権利ヲ有ス 第二百六十六条 地上権者カ土地ノ所有者ニ定期ノ地代ヲ払フヘキトキハ第二百七十 四条乃至第二百七十六条ノ規定ヲ準用ス (2)此他地代ニ付テハ賃貸借ニ関スル規定ヲ準用ス 第二百六十七条 第二百九条乃至第二百三十八条ノ規定ハ地上権者間又ハ地上権者ト 土地ノ所有者トノ間ニ之ヲ準用ス但第二百二十九条ノ推定ハ地上権設定後ニ為シ タル工事ニ付テノミ之ヲ地上権者ニ準用ス 第二百六十八条 設定行為ヲ以テ地上権ノ存続期間ヲ定メサリシ場合ニ於テ別段ノ慣 習ナキトキハ地上権者ハ何時ニテモ其権利ヲ抛棄スルコトヲ得但地代ヲ払フヘキ トキハ一年前ニ予告ヲ為シ又ハ未タ期限ノ至ラサル一年分ノ地代ヲ払フコトヲ要 ス (2)地上権者カ前項ノ規定ニ依リテ其権利ヲ抛棄セサルトキハ裁判所ハ当事者ノ 請求ニ因リ二十年以上五十年以下ノ範囲内ニ於テ工作物又ハ竹木ノ種類及ヒ状 況其他地上権設定ノ当時ノ事情ヲ斟酌シテ其存続期間ヲ定ム 第二百六十九条 地上権者ハ其権利消滅ノ時土地ヲ原状ニ復シテ其工作物及ヒ竹木ヲ 収去スルコトヲ得但土地ノ所有者カ時価ヲ提供シテ之ヲ買取ルヘキ旨ヲ通知シタ ルトキハ地上権者ハ正当ノ理由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス (2)前項ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百六十九条ノ二 地下又ハ空間ハ上下ノ範囲ヲ定メ工作物ヲ所有スル為メ之ヲ地 上権ノ目的ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ設定行為ヲ以テ地上権ノ行使ノ為メニ 土地ノ使用ニ制限ヲ加フルコトヲ得 (2)前項ノ地上権ハ第三者ガ土地ノ使用又ハ収益ヲ為ス権利ヲ有スル場合ニ於テ モ其権利又ハ之ヲ目的トスル権利ヲ有スル総テノ者ノ承諾アルトキハ之ヲ設定 スルコトヲ得此場合ニ於テハ土地ノ使用又ハ収益ヲ為ス権利ヲ有スル者ハ其地 上権ノ行使ヲ妨グルコトヲ得ズ

第五章 永小作権

第二百七十条 永小作人ハ小作料ヲ払ヒテ他人ノ土地ニ耕作又ハ牧畜ヲ為ス権利ヲ有 ス 第二百七十一条 永小作人ハ土地ニ永久ノ損害ヲ生スヘキ変更ヲ加フルコトヲ得ス 第二百七十二条 永小作人ハ其権利ヲ他人ニ譲渡シ又ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ耕 作若クハ牧畜ノ為メ土地ヲ賃貸スルコトヲ得但設定行為ヲ以テ之ヲ禁シタルトキ ハ此限ニ在ラス 第二百七十三条 永小作人ノ義務ニ付テハ本章ノ規定及ヒ設定行為ヲ以テ定メタルモ ノノ外賃貸借ニ関スル規定ヲ準用ス 第二百七十四条 永小作人ハ不可抗力ニ因リ収益ニ付キ損失ヲ受ケタルトキト雖モ小 作料ノ免除又ハ減額ヲ請求スルコトヲ得ス 第二百七十五条 永小作人カ不可抗力ニ因リ引続キ三年以上全ク収益ヲ得ス又ハ五年 以上小作料ヨリ少キ収益ヲ得タルトキハ其権利ヲ抛棄スルコトヲ得 第二百七十六条 永小作人カ引続キ二年以上小作料ノ支払ヲ怠リ又ハ破産ノ宣告ヲ受 ケタルトキハ地主ハ永小作権ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得 第二百七十七条 前六条ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百七十八条 永小作権ノ存続期間ハ二十年以上五十年以下トス若シ五十年ヨリ長 キ期間ヲ以テ永小作権ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ五十年ニ短縮ス (2)永小作権ノ設定ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ五十年ヲ超 ユルコトヲ得ス (3)設定行為ヲ以テ永小作権ノ存続期間ヲ定メサリシトキハ其期間ハ別段ノ慣習 アル場合ヲ除ク外之ヲ三十年トス 第二百七十九条 第二百六十九条ノ規定ハ永小作権ニ之ヲ準用ス

第六章 地役権

第二百八十条 地役権者ハ設定行為ヲ以テ定メタル目的ニ従ヒ他人ノ土地ヲ自己ノ土 地ノ便益ニ供スル権利ヲ有ス但第三章第一節中ノ公ノ秩序ニ関スル規定ニ違反セ サルコトヲ要ス 第二百八十一条 地役権ハ要役地ノ所有権ノ従トシテ之ト共ニ移転シ又ハ要役地ノ上 ニ存スル他ノ権利ノ目的タルモノトス但設定行為ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在 ラス (2)地役権ハ要役地ヨリ分離シテ之ヲ譲渡シ又ハ他ノ権利ノ目的ト為スコトヲ得 ス 第二百八十二条 土地ノ共有者ノ一人ハ其持分ニ付キ其土地ノ為メニ又ハ其土地ノ上 ニ存スル地役権ヲ消滅セシムルコトヲ得ス (2)土地ノ分割又ハ其一部ノ譲渡ノ場合ニ於テハ地役権ハ其各部ノ為メニ又ハ其 各部ノ上ニ存ス但地役権カ其性質ニ因リ土地ノ一部ノミニ関スルトキハ此限ニ 在ラス 第二百八十三条 地役権ハ継続且表現ノモノニ限リ時効ニ因リテ之ヲ取得スルコトヲ 得 第二百八十四条 共有者ノ一人カ時効ニ因リテ地役権ヲ取得シタルトキハ他ノ共有者 モ亦之ヲ取得ス (2)共有者ニ対スル時効中断ハ地役権ヲ行使スル各共有者ニ対シテ之ヲ為スニ非 サレハ其効力ヲ生セス (3)地役権ヲ行使スル共有者数人アル場合ニ於テ其一人ニ対シテ時効停止ノ原因 アルモ時効ハ各共有者ノ為メニ進行ス 第二百八十五条 用水地役権ノ承役地ニ於テ水カ要役地及ヒ承役地ノ需要ノ為メニ不 足ナルトキハ其各地ノ需要ニ応シ先ツ之ヲ家用ニ供シ其残余ヲ他ノ用ニ供スルモ ノトス但設定行為ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス (2)同一ノ承役地ノ上ニ数個ノ用水地役権ヲ設定シタルトキハ後ノ地役権者ハ前 ノ地役権者ノ水ノ使用ヲ妨クルコトヲ得ス 第二百八十六条 設定行為又ハ特別契約ニ因リ承役地ノ所有者カ其費用ヲ以テ地役権 ノ行使ノ為メニ工作物ヲ設ケ又ハ其修繕ヲ為ス義務ヲ負担シタルトキハ其義務ハ 承役地ノ所有者ノ特定承継人モ亦之ヲ負担ス 第二百八十七条 承役地ノ所有者ハ何時ニテモ地役権ニ必要ナル土地ノ部分ノ所有権 ヲ地役権者ニ委棄シテ前条ノ負担ヲ免ルルコトヲ得 第二百八十八条 承役地ノ所有者ハ地役権ノ行使ヲ妨ケサル範囲内ニ於テ其行使ノ為 メニ承役地ノ上ニ設ケタル工作物ヲ使用スルコトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テハ承役地ノ所有者ハ其利益ヲ受クル割合ニ応シテ工作物ノ 設置及ヒ保存ノ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百八十九条 承役地ノ占有者カ取得時効ニ必要ナル条件ヲ具備セル占有ヲ為シタ ルトキハ地役権ハ之ニ因リテ消滅ス 第二百九十条 前条ノ消滅時効ハ地役権者カ其権利ヲ行使スルニ因リテ中断ス 第二百九十一条 第百六十七条第二項ニ規定セル消滅時効ノ期間ハ不継続地役権ニ付 テハ最後ノ行使ノ時ヨリ之ヲ起算シ継続地役権ニ付テハ其行使ヲ妨クヘキ事実ノ 生シタル時ヨリ之ヲ起算ス 第二百九十二条 要役地カ数人ノ共有ニ属スル場合ニ於テ其一人ノ為メニ時効ノ中断 又ハ停止アルトキハ其中断又ハ停止ハ他ノ共有者ノ為メニモ其効力ヲ生ス 第二百九十三条 地役権者カ其権利ノ一部ヲ行使セサルトキハ其部分ノミ時効ニ因リ テ消滅ス 第二百九十四条 共有ノ性質ヲ有セサル入会権ニ付テハ各地方ノ慣習ニ従フ外本章ノ 規定ヲ準用ス

第七章 留置権

第二百九十五条 他人ノ物ノ占有者カ其物ニ関シテ生シタル債権ヲ有スルトキハ其債 権ノ弁済ヲ受クルマテ其物ヲ留置スルコトヲ得但其債権カ弁済期ニ在ラサルトキ ハ此限ニ在ラス (2)前項ノ規定ハ占有カ不法行為ニ因リテ始マリタル場合ニハ之ヲ適用セス 第二百九十六条 留置権者ハ債権ノ全部ノ弁済ヲ受クルマテハ留置物ノ全部ニ付キ其 権利ヲ行フコトヲ得 第二百九十七条 留置権者ハ留置物ヨリ生スル果実ヲ収取シ他ノ債権者ニ先チテ之ヲ 其債権ノ弁済ニ充当スルコトヲ得 (2)前項ノ果実ハ先ツ之ヲ債権ノ利息ニ充当シ尚ホ余剰アルトキハ之ヲ元本ニ充 当スルコトヲ要ス 第二百九十八条 留置権者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ留置物ヲ占有スルコトヲ要 ス (2)留置権者ハ債務者ノ承諾ナクシテ留置物ノ使用若クハ賃貸ヲ為シ又ハ之ヲ担 保ニ供スルコトヲ得ス但其物ノ保存ニ必要ナル使用ヲ為スハ此限ニ在ラス (3)留置権者カ前二項ノ規定ニ違反シタルトキハ債務者ハ留置権ノ消滅ヲ請求ス ルコトヲ得 第二百九十九条 留置権者カ留置物ニ付キ必要費ヲ出タシタルトキハ所有者ヲシテ其 償還ヲ為サシムルコトヲ得 (2)留置権者カ留置物ニ付キ有益費ヲ出タシタルトキハ其価格ノ増加カ現存スル 場合ニ限リ所有者ノ選択ニ従ヒ其費シタル金額又ハ増価額ヲ償還セシムルコト ヲ得但裁判所ハ所有者ノ請求ニ因リ之ニ相当ノ期限ヲ許与スルコトヲ得 第三百条 留置権ノ行使ハ債権ノ消滅時効ノ進行ヲ妨ケス 第三百一条 債務者ハ相当ノ担保ヲ供シテ留置権ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得 第三百二条 留置権ハ占有ノ喪失ニ因リテ消滅ス但第二百九十八条第二項ノ規定ニ依 リ賃貸又ハ質入ヲ為シタル場合ハ此限ニ在ラス

第八章 先取特権

第一節 総則

第三百三条 先取特権者ハ本法其他ノ法律ノ規定ニ従ヒ其債務者ノ財産ニ付キ他ノ債 権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス 第三百四条 先取特権ハ其目的物ノ売却、賃貸、滅失又ハ毀損ニ因リテ債務者カ受ク ヘキ金銭其他ノ物ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得但先取特権者ハ其払渡又ハ引渡前 ニ差押ヲ為スコトヲ要ス (2)債務者カ先取特権ノ目的物ノ上ニ設定シタル物権ノ対価ニ付キ亦同シ 第三百五条 第二百九十六条ノ規定ハ先取特権ニ之ヲ準用ス

第二節 先取特権ノ種類

第一款 一般ノ先取特権
第三百六条 左ニ掲ケタル原因ヨリ生シタル債権ヲ有スル者ハ債務者ノ総財産ノ上ニ 先取特権ヲ有ス 一 共益ノ費用 二 雇人ノ給料 三 葬式ノ費用 四 日用品ノ供給 第三百七条 共益費用ノ先取特権ハ各債権者ノ共同利益ノ為メニ為シタル債務者ノ財 産ノ保存、清算又ハ配当ニ関スル費用ニ付キ存在ス (2)前項ノ費用中総債権者ニ有益ナラサリシモノニ付テハ先取特権ハ其費用ノ為 メ利益ヲ受ケタル債権者ニ対シテノミ存在ス 第三百八条 雇人給料ノ先取特権ハ債務者ノ雇人カ受クヘキ最後ノ六个月間ノ給料ニ 付キ存在ス 第三百九条 葬式費用ノ先取特権ハ債務者ノ身分ニ応シテ為シタル葬式ノ費用ニ付キ 存在ス (2)前項ノ先取特権ハ債務者カ其扶養スヘキ親族ノ身分ニ応シテ為シタル葬式ノ 費用ニ付テモ亦存在ス 第三百十条 日用品供給ノ先取特権ハ債務者又ハ扶養スヘキ同居ノ親族及ヒ其僕婢ノ 生活ニ必要ナル最後ノ六个月間ノ飲食品及ヒ薪炭油ノ供給ニ付キ存在ス
第二款 動産ノ先取特権
第三百十一条 左ニ掲ケタル原因ヨリ生シタル債権ヲ有スル者ハ債務者ノ特定動産ノ 上ニ先取特権ヲ有ス 一 不動産ノ賃貸借 二 旅店ノ宿泊 三 旅客又ハ荷物ノ運輸 四 公吏ノ職務上ノ過失 五 動産ノ保存 六 動産ノ売買 七 種苗又ハ肥料ノ供給 八 農工業ノ労役 第三百十二条 不動産賃貸ノ先取特権ハ其不動産ノ借賃其他賃貸借関係ヨリ生シタル 賃借人ノ債務ニ付キ賃借人ノ動産ノ上ニ存在ス 第三百十三条 土地ノ賃貸人ノ先取特権ハ賃借地又ハ其利用ノ為メニスル建物ニ備附 ケタル動産、其土地ノ利用ニ供シタル動産及ヒ賃借人ノ占有ニ在ル其土地ノ果実 ノ上ニ存在ス (2)建物ノ賃貸人ノ先取特権ハ賃借人カ其建物ニ備附ケタル動産ノ上ニ存在ス 第三百十四条 賃借権ノ譲渡又ハ転貸ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ先取特権ハ譲受人又ハ 転借人ノ動産ニ及フ譲渡人又ハ転貸人カ受クヘキ金額ニ付キ亦同シ 第三百十五条 賃借人ノ財産ノ総清算ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ先取特権ハ前期、当期 及ヒ次期ノ借賃其他ノ債務及ヒ前期並ニ当期ニ於テ生シタル損害ノ賠償ニ付テノ ミ存在ス 第三百十六条 賃貸人カ敷金ヲ受取リタル場合ニ於テハ其敷金ヲ以テ弁済ヲ受ケサル 債権ノ部分ニ付テノミ先取特権ヲ有ス 第三百十七条 旅店宿泊ノ先取特権ハ旅客、其従者及ヒ牛馬ノ宿泊料並ニ飲食料ニ付 キ其旅店ニ存スル手荷物ノ上ニ存在ス 第三百十八条 運輸ノ先取特権ハ旅客又ハ荷物ノ運送賃及ヒ附随ノ費用ニ付キ運送人 ノ手ニ存スル荷物ノ上ニ存在ス 第三百十九条 第百九十二条乃至第百九十五条ノ規定ハ前七条ノ先取特権ニ之ヲ準用 ス 第三百二十条 公吏保証金ノ先取特権ハ保証金ヲ供シタル公吏ノ職務上ノ過失ニ因リ テ生シタル債権ニ付キ其保証金ノ上ニ存在ス 第三百二十一条 動産保存ノ先取特権ハ動産ノ保存費ニ付キ其動産ノ上ニ存在ス (2)前項ノ先取特権ハ動産ニ関スル権利ヲ保存、追認又ハ実行セシムル為メニ要 シタル費用ニ付テモ亦存在ス 第三百二十二条 動産売買ノ先取特権ハ動産ノ代価及ヒ其利息ニ付キ其動産ノ上ニ存 在ス 第三百二十三条 種苗肥料供給ノ先取特権ハ種苗又ハ肥料ノ代価及ヒ其利息ニ付キ其 種苗又ハ肥料ヲ用茜タル後一年内ニ之ヲ用茜タル土地ヨリ生シタル果実ノ上ニ存 在ス (2)前項ノ先取特権ハ蚕種又ハ蚕ノ飼養ニ供シタル桑葉ノ供給ニ付キ其蚕種又ハ 桑葉ヨリ生シタル物ノ上ニモ亦存在ス 第三百二十四条 農工業労役ノ先取特権ハ農業ノ労役者ニ付テハ最後ノ一年間工業ノ 労役者ニ付テハ最後ノ三个月間ノ賃金ニ付キ其労役ニ因リテ生シタル果実又ハ製 作物ノ上ニ存在ス
第三款 不動産ノ先取特権
第三百二十五条 左ニ掲ケタル原因ヨリ生シタル債権ヲ有スル者ハ債務者ノ特定不動 産ノ上ニ先取特権ヲ有ス 一 不動産ノ保存 二 不動産ノ工事 三 不動産ノ売買 第三百二十六条 不動産保存ノ先取特権ハ不動産ノ保存費ニ付キ其不動産ノ上ニ存在 ス (2)第三百二十一条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第三百二十七条 不動産工事ノ先取特権ハ工匠、技師及ヒ請負人カ債務者ノ不動産ニ 関シテ為シタル工事ノ費用ニ付キ其不動産ノ上ニ存在ス (2)前項ノ先取特権ハ工事ニ因リテ生シタル不動産ノ増価カ現存スル場合ニ限リ 其増価額ニ付テノミ存在ス 第三百二十八条 不動産売買ノ先取特権ハ不動産ノ代価及ヒ其利息ニ付キ其不動産ノ 上ニ存在ス

第三節 先取特権ノ順位

第三百二十九条 一般ノ先取特権カ互ニ競合スル場合ニ於テハ其優先権ノ順位ハ第三 百六条ニ掲ケタル順序ニ従フ (2)一般ノ先取特権ト特別ノ先取特権ト競合スル場合ニ於テハ特別ノ先取特権ハ 一般ノ先取特権ニ先ツ但共益費用ノ先取特権ハ其利益ヲ受ケタル総債権者ニ対 シテ優先ノ効力ヲ有ス 第三百三十条 同一ノ動産ニ付キ特別ノ先取特権カ互ニ競合スル場合ニ於テハ其優先 権ノ順位左ノ如シ 第一 不動産賃貸、旅店宿泊及ヒ運輸ノ先取特権 第二 動産保存ノ先取特権但数人ノ保存者アリタルトキハ後ノ保存者ハ前 ノ保存者ニ先ツ 第三 動産売買、種苗肥料供給及ヒ農工業労役ノ先取特権 (2)第一順位ノ先取特権者カ債権取得ノ当時第二又ハ第三ノ順位ノ先取特権者ア ルコトヲ知リタルトキハ之ニ対シテ優先権ヲ行フコトヲ得ス第一順位者ノ為メ ニ物ヲ保存シタル者ニ対シ亦同シ (3)果実ニ関シテハ第一ノ順位ハ農業ノ労役者ニ第二ノ順位ハ種苗又ハ肥料ノ供 給者ニ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ属ス 第三百三十一条 同一ノ不動産ニ付キ特別ノ先取特権カ互ニ競合スル場合ニ於テハ其 優先権ノ順位ハ第三百二十五条ニ掲ケタル順序ニ従フ (2)同一ノ不動産ニ付キ逐次ノ売買アリタルトキハ売主相互間ノ優先権ノ順位ハ 時ノ前後ニ依ル 第三百三十二条 同一ノ目的物ニ付キ同一順位ノ先取特権者数人アルトキハ各其債権 額ノ割合ニ応シテ弁済ヲ受ク

第四節 先取特権ノ効力

第三百三十三条 先取特権ハ債務者カ其動産ヲ第三取得者ニ引渡シタル後ハ其動産ニ 付キ之ヲ行フコトヲ得ス 第三百三十四条 先取特権ト動産質権ト競合スル場合ニ於テハ動産質権者ハ第三百三 十条ニ掲ケタル第一順位ノ先取特権者ト同一ノ権利ヲ有ス 第三百三十五条 一般ノ先取特権者ハ先ツ不動産以外ノ財産ニ付キ弁済ヲ受ケ尚ホ不 足アルニ非サレハ不動産ニ付キ弁済ヲ受クルコトヲ得ス (2)不動産ニ付テハ先ツ特別担保ノ目的タラサルモノニ付キ弁済ヲ受クルコトヲ 要ス (3)一般ノ先取特権者カ前二項ノ規定ニ従ヒテ配当ニ加入スルコトヲ怠リタルト キハ其配当加入ニ因リテ受クヘカリシモノノ限度ニ於テハ登記ヲ為シタル第三 者ニ対シテ其先取特権ヲ行フコトヲ得ス (4)前三項ノ規定ハ不動産以外ノ財産ノ代価ニ先チテ不動産ノ代価ヲ配当シ又ハ 他ノ不動産ノ代価ニ先チテ特別担保ノ目的タル不動産ノ代価ヲ配当スヘキ場合 ニハ之ヲ適用セス 第三百三十六条 一般ノ先取特権ハ不動産ニ付キ登記ヲ為ササルモ之ヲ以テ特別担保 ヲ有セサル債権者ニ対抗スルコトヲ妨ケス但登記ヲ為シタル第三者ニ対シテハ此 限ニ在ラス 第三百三十七条 不動産保存ノ先取特権ハ保存行為完了ノ後直チニ登記ヲ為スニ因リ テ其効力ヲ保存ス 第三百三十八条 不動産工事ノ先取特権ハ工事ヲ始ムル前ニ其費用ノ予算額ヲ登記ス ルニ因リテ其効力ヲ保存ス但工事ノ費用カ予算額ヲ超ユルトキハ先取特権ハ其超 過額ニ付テハ存在セス (2)工事ニ因リテ生シタル不動産ノ増価額ハ配当加入ノ時裁判所ニ於テ選任シタ ル鑑定人ヲシテ之ヲ評価セシムルコトヲ要ス 第三百三十九条 前二条ノ規定ニ従ヒテ登記シタル先取特権ハ抵当権ニ先チテ之ヲ行 フコトヲ得 第三百四十条 不動産売買ノ先取特権ハ売買契約ト同時ニ未タ代価又ハ其利息ノ弁済 アラサル旨ヲ登記スルニ因リテ其効力ヲ保存ス 第三百四十一条 先取特権ノ効力ニ付テハ本節ニ定メタルモノノ外抵当権ニ関スル規 定ヲ準用ス

第九章 質権

第一節 総則

第三百四十二条 質権者ハ其債権ノ担保トシテ債務者又ハ第三者ヨリ受取リタル物ヲ 占有シ且其物ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス 第三百四十三条 質権ハ譲渡スコトヲ得サル物ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得ス 第三百四十四条 質権ノ設定ハ債権者ニ其目的物ノ引渡ヲ為スニ因リテ其効力ヲ生ス 第三百四十五条 質権者ハ質権設定者ヲシテ自己ニ代ハリテ質物ノ占有ヲ為サシムル コトヲ得ス 第三百四十六条 質権ハ元本、利息、違約金、質権実行ノ費用、質物保存ノ費用及ヒ 債務ノ不履行又ハ質物ノ隠レタル瑕疵ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ担保ス但設 定行為ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第三百四十七条 質権者ハ前条ニ掲ケタル債権ノ弁済ヲ受クルマテハ質物ヲ留置スル コトヲ得但此権利ハ之ヲ以テ自己ニ対シ優先権ヲ有スル債権者ニ対抗スルコトヲ 得ス 第三百四十八条 質権者ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ自己ノ責任ヲ以テ質物ヲ転質ト 為スコトヲ得此場合ニ於テハ転質ヲ為ササレハ生セサルヘキ不可抗力ニ因ル損失 ニ付テモ亦其責ニ任ス 第三百四十九条 質権設定者ハ設定行為又ハ債務ノ弁済期前ノ契約ヲ以テ質権者ニ弁 済トシテ質物ノ所有権ヲ取得セシメ其他法律ニ定メタル方法ニ依ラスシテ質物ヲ 処分セシムルコトヲ約スルコトヲ得ス 第三百五十条 第二百九十六条乃至第三百条及ヒ第三百四条ノ規定ハ質権ニ之ヲ準用 ス 第三百五十一条 他人ノ債務ヲ担保スル為メ質権ヲ設定シタル者カ其債務ヲ弁済シ又 ハ質権ノ実行ニ因リテ質物ノ所有権ヲ失ヒタルトキハ保証債務ニ関スル規定ニ従 ヒ債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス

第二節 動産質

第三百五十二条 動産質権者ハ継続シテ質物ヲ占有スルニ非サレハ其質権ヲ以テ第三 者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百五十三条 動産質権者カ質物ノ占有ヲ奪ハレタルトキハ占有回収ノ訴ニ依リテ ノミ其質物ヲ回復スルコトヲ得 第三百五十四条 動産質権者カ其債権ノ弁済ヲ受ケサルトキハ正当ノ理由アル場合ニ 限リ鑑定人ノ評価ニ従ヒ質物ヲ以テ直チニ弁済ニ充ツルコトヲ裁判所ニ請求スル コトヲ得此場合ニ於テハ質権者ハ予メ債務者ニ其請求ヲ通知スルコトヲ要ス 第三百五十五条 数個ノ債権ヲ担保スル為メ同一ノ動産ニ付キ質権ヲ設定シタルトキ ハ其質権ノ順位ハ設定ノ前後ニ依ル

第三節 不動産質

第三百五十六条 不動産質権者ハ質権ノ目的タル不動産ノ用方ニ従ヒ其使用及ヒ収益 ヲ為スコトヲ得 第三百五十七条 不動産質権者ハ管理ノ費用ヲ払ヒ其他不動産ノ負担ニ任ス 第三百五十八条 不動産質権者ハ其債権ノ利息ヲ請求スルコトヲ得ス 第三百五十九条 前三条ノ規定ハ設定行為ニ別段ノ定アルトキハ之ヲ適用セス 第三百六十条 不動産質ノ存続期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ 以テ不動産質ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ十年ニ短縮ス (2)不動産質ノ設定ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ十年ヲ超ユ ルコトヲ得ス 第三百六十一条 不動産質ニハ本節ノ規定ノ外次章ノ規定ヲ準用ス

第四節 権利質

第三百六十二条 質権ハ財産権ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得 (2)前項ノ質権ニハ本節ノ規定ノ外前三節ノ規定ヲ準用ス 第三百六十三条 債権ヲ以テ質権ノ目的ト為ス場合ニ於テ其債権ノ証書アルトキハ質 権ノ設定ハ其証書ノ交付ヲ為スニ因リテ其効力ヲ生ス 第三百六十四条 指名債権ヲ以テ質権ノ目的ト為シタルトキハ第四百六十七条ノ規定 ニ従ヒ第三債務者ニ質権ノ設定ヲ通知シ又ハ第三債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレ ハ之ヲ以テ第三債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス (2)前項ノ規定ハ記名ノ株式ニハ之ヲ適用セス 第三百六十五条 記名ノ社債ヲ以テ質権ノ目的ト為シタルトキハ社債ノ譲渡ニ関スル 規定ニ従ヒ会社ノ帳簿ニ質権ノ設定ヲ記入スルニ非サレハ之ヲ以テ会社其他ノ第 三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百六十六条 指図債権ヲ以テ質権ノ目的ト為シタルトキハ其証書ニ質権ノ設定ヲ 裏書スルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対スルコトヲ得ス 第三百六十七条 質権者ハ質権ノ目的タル質権ヲ直接ニ取立ツルコトヲ得 (2)債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ質権者ハ自己ノ債権額ニ対スル部分ニ限リ之 ヲ取立ツルコトヲ得 (3)右ノ債権ノ弁済期カ質権者ノ債権ノ弁済期前ニ到来シタルトキハ質権者ハ第 三債務者ヲシテ其弁済金額ヲ供託セシムルコトヲ得此場合ニ於テハ質権ハ其供 託金ノ上ニ存在ス (4)債権ノ目的物カ金銭ニ非サルトキハ質権者ハ弁済トシテ受ケタル物ノ上ニ質 権ヲ有ス 第三百六十八条 削除

第十章 抵当権

第一節 総則

第三百六十九条 抵当権者ハ債務者又ハ第三者カ占有ヲ移サスシテ債務ノ担保ニ供シ タル不動産ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス (2)地上権及ヒ永小作権モ亦之ヲ抵当権ノ目的ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ本 章ノ規定ヲ準用ス 第三百七十条 抵当権ハ抵当地ノ上ニ存スル建物ヲ除ク外其目的タル不動産ニ附加シ テ之ト一体ヲ成シタル物ニ及フ但設定行為ニ別段ノ定アルトキ及ヒ第四百二十四 条ノ規定ニ依リ債権者カ債務者ノ行為ヲ取消スコトヲ得ル場合ハ此限ニ在ラス 第三百七十一条 前条ノ規定ハ果実ニハ之ヲ適用セス但抵当不動産ノ差押アリタル後 又ハ第三取得者カ第三百八十一条ノ通知ヲ受ケタル後ハ此限ニ在ラス (2)第三取得者カ第三百八十一条ノ通知ヲ受ケタルトキハ其後一年内ニ抵当不動 産ハ差押アリタル場合ニ限リ前項但書ノ規定ヲ適用ス 第三百七十二条 第二百九十六条、第三百四条及ヒ第三百五十一条ノ規定ハ抵当権ニ 之ヲ準用ス

第二節 抵当権ノ効力

第三百七十三条 数個ノ債権ヲ担保スル為メ同一ノ不動産ニ付キ抵当権ヲ設定シタル トキハ其抵当権ノ順位ハ登記ノ前後ニ依ル (2)抵当権ノ順位ハ各抵当権者ノ合意ニ依リテ之ヲ変更スルコトヲ得但利害ノ関 係ヲ有スル者アルトキハ其承諾ヲ得ルコトヲ要ス (3)前項ノ順位ノ変更ハ其登記ヲ為スニ非ザレバ其効力ヲ生ゼズ 第三百七十四条 抵当権者カ利息其他ノ定期金ヲ請求スル権利ヲ有スルトキハ其満期 ト為リタル最後ノ二年分ニ付テノミ其抵当権ヲ行フコトヲ得但其以前ノ定期金ニ 付テモ満期後特別ノ登記ヲ為シタルトキハ其登記ノ時ヨリ之ヲ行フコトヲ妨ケス (2)前項ノ規定ハ抵当権者カ債務ノ不履行ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求ス ル権利ヲ有スル場合ニ於テ其最後ノ二年分ニ付テモ亦之ヲ適用ス但利息其他ノ 定期金ト通シテ二年分ヲ超ユルコトヲ得ス 第三百七十五条 抵当権者ハ其抵当権ヲ以テ他ノ債権ノ担保ト為シ又同一ノ債務者ニ 対スル他ノ債権者ノ利益ノ為メ其抵当権若クハ其順位ヲ譲渡シ又ハ之ヲ抛棄スル コトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テ抵当権者カ数人ノ為メニ其抵当権ノ処分ヲ為シタルトキハ 其処分ノ利益ヲ受クル者ノ権利ノ順位ハ抵当権ノ登記ニ附記ヲ為シタル前後ニ 依ル 第三百七十六条 前条ノ場合ニ於テハ第四百六十七条ノ規定ニ従ヒ主タル債務者ニ抵 当権ノ処分ヲ通知シ又ハ其債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ其債務者、 保証人、抵当権設定者及ヒ其承継人ニ対抗スルコトヲ得ス (2)主タル債務者カ前項ノ通知ヲ受ケ又ハ承諾ヲ為シタルトキハ抵当権ノ処分ノ 利益ヲ受クル者ノ承諾ナクシテ為シタル弁済ハ之ヲ以テ其受益者ニ対抗スルコ トヲ得ス 第三百七十七条 抵当不動産ニ付キ所有権又ハ地上権ヲ買受ケタル第三者カ抵当権者 ノ請求ニ応シテ之ニ其代価ヲ弁済シタルトキハ抵当権ハ其第三者ノ為メニ消滅ス 第三百七十八条 抵当不動産ニ付キ所有権、地上権又ハ永小作権ヲ取得シタル第三者 ハ第三百八十二条乃至第三百八十四条ノ規定ニ従ヒ抵当権者ニ提供シテ其承諾ヲ 得タル金額ヲ払渡シ又ハ之ヲ供託シテ抵当権ヲ滌除スルコトヲ得 第三百七十九条 主タル債務者、保証人及ヒ其承継人ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得 ス 第三百八十条 停止条件附第三取得者ハ条件ノ成否未定ノ間ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコ トヲ得ス 第三百八十一条 抵当権者カ其抵当権ヲ実行セント欲スルトキハ予メ第三百七十八条 ニ掲ケタル第三取得者ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス 第三百八十二条 第三取得者ハ前条ノ通知ヲ受クルマテハ何時ニテモ抵当権ノ滌除ヲ 為スコトヲ得 (2)第三取得者カ前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ一个月内ニ次条ノ送達ヲ為スニ非 サレハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス (3)前条ノ通知アリタル後ニ第三百七十八条ニ掲ケタル権利ヲ取得シタル第三者 ハ前項ノ第三者取得者カ滌除ヲ為スコトヲ得ル期間内ニ限リ之ヲ為スコトヲ得 第三百八十三条 第三取得者カ抵当権ヲ滌除セント欲スルトキハ登記ヲ為シタル各債 権者ニ左ノ書面ヲ送達スルコトヲ要ス 一 取得ノ原因、年月日、譲渡人及ヒ取得者ノ氏名、住所、抵当不動産ノ性質、 所在、代価其他取得者ノ負担ヲ記載シタル書面 二 抵当不動産ニ関スル登記簿ノ謄本但既ニ消滅シタル権利ニ関スル登記ハ之ヲ 掲クルコトヲ要セス 三 債権者カ一个月内ニ次条ノ規定ニ従ヒ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得 者ハ第一号ニ掲ケタル代価又ハ特ニ指定シタル金額ヲ債権ノ順位ニ従ヒテ弁 済又ハ供託スヘキ旨ヲ記載シタル書面 第三百八十四条 債権者カ前条ノ送達ヲ受ケタル後一个月内ニ増価競売ヲ請求セサル トキハ第三取得者ノ提供ヲ承諾シタルモノト看做ス (2)増価競売ハ若シ競売ニ於テ第三取得者カ提供シタル金額ヨリ十分ノ一以上高 価ニ抵当不動産ヲ売却スルコト能ハサルトキハ十分ノ一ノ増価ヲ以テ自ラ其不 動産ヲ買受クヘキ旨ヲ附言シ第三取得者ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ要ス 第三百八十五条 債権者カ増価競売ヲ請求スルトキハ前条ノ期間内ニ債務者及ヒ抵当 不動産ノ譲渡人ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス 第三百八十六条 増価競売ヲ請求シタル債権者ハ登記ヲ為シタル他ノ債権者ノ承諾ヲ 得ルニ非サレハ其請求ヲ取消スコトヲ得ス 第三百八十七条 抵当権者カ第三百八十二条ニ定メタル期間内ニ第三取得者ヨリ債務 ノ弁済又ハ滌除ノ通知ヲ受ケサルトキハ抵当不動産ノ競売ヲ請求スルコトヲ得 第三百八十八条 土地及ヒ其上ニ存スル建物カ同一ノ所有者ニ属スル場合ニ於テ其土 地又ハ建物ノミヲ抵当ト為シタルトキハ抵当権設定者ハ競売ノ場合ニ付キ地上権 ヲ設定シタルモノト看做ス但地代ハ当事者ノ請求ニ因リ裁判所之ヲ定ム 第三百八十九条 抵当権設定ノ後其設定者カ抵当地ニ建物ヲ築造シタルトキハ抵当権 者ハ土地ト共ニ之ヲ競売スルコトヲ得但其優先権ハ土地ノ代価ニ付テノミ之ヲ行 フコトヲ得 第三百九十条 第三取得者ハ競買人ト為ルコトヲ得 第三百九十一条 第三取得者カ抵当不動産ニ付キ必要費又ハ有益費ヲ出タシタルトキ ハ第百九十六条ノ区別ニ従ヒ不動産ノ代価ヲ以テ最モ先ニ其償還ヲ受クルコトヲ 得 第三百九十二条 債権者カ同一ノ債権ノ担保トシテ数個ノ不動産ノ上ニ抵当権ヲ有ス ル場合ニ於テ同時ニ其代価ヲ配当スヘキトキハ其各不動産ノ価額ニ準シテ其債権 ノ負担ヲ分ツ (2)或不動産ノ代価ノミヲ配当スヘキトキハ抵当権者ハ其代価ニ付キ債権ノ全部 ノ弁済ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テハ次ノ順位ニ在ル抵当権者ハ前項ノ規定 ニ従ヒ右ノ抵当権者カ他ノ不動産ニ付キ弁済ヲ受クヘキ金額ニ満ツルマテ之ニ 代位シテ抵当権ヲ行フコトヲ得 第三百九十三条 前条ノ規定ニ従ヒ代位ニ因リテ抵当権ヲ行フ者ハ其抵当権ノ登記ニ 其代位ヲ附記スルコトヲ得 第三百九十四条 抵当権者ハ抵当不動産ノ代価ヲ以テ弁済ヲ受ケサル債権ノ部分ニ付 テノミ他ノ財産ヲ以テ弁済ヲ受クルコトヲ得 (2)前項ノ規定ハ抵当不動産ノ代価ニ先チテ他ノ財産ノ代価ヲ配当スヘキ場合ニ ハ之ヲ適用セス但他ノ各債権者ハ抵当権者ヲシテ前項ノ規定ニ従ヒ弁済ヲ受ケ シムル為メ之ニ配当スヘキ金額ノ供託ヲ請求スルコトヲ得 第三百九十五条 第六百二条ニ定メタル期間ヲ超エサル賃貸借ハ抵当権ノ登記後ニ登 記シタルモノト雖モ之ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得但其賃貸借カ抵当権者 ニ損害ヲ及ホストキハ裁判所ハ抵当権者ノ請求ニ因リ其解除ヲ命スルコトヲ得

第三節 抵当権ノ消滅

第三百九十六条 抵当権ハ債務者及ヒ抵当権設定者ニ対シテハ其担保スル債権ト同時 ニ非サレハ時効ニ因リテ消滅セス 第三百九十七条 債務者又ハ抵当権設定者ニ非サル者カ抵当不動産ニ付キ取得時効ニ 必要ナル条件ヲ具備セル占有ヲ為シタルトキハ抵当権ハ之ニ因リテ消滅ス 第三百九十八条 地上権又ハ永小作権ヲ抵当ト為シタル者カ其権利ヲ抛棄シタルモ之 ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得ス

第四節 根抵当権

第三百九十八条ノ二 抵当権ハ設定行為ヲ以テ定ムル所ニ依リ一定ノ範囲ニ属スル不 特定ノ債権ヲ極度額ノ限度ニ於テ担保スル為メニモ之ヲ設定スルコトヲ得 (2)前項ノ抵当権(以下根抵当権ト称ス)ノ担保スベキ不特定ノ債権ノ範囲ハ債 務者トノ特定ノ継続的取引契約ニ因リテ生ズルモノ其他債務者トノ一定ノ種類 ノ取引ニ因リテ生ズルモノニ限定シテ之ヲ定ムルコトヲ要ス (3)特定ノ原因ニ基キ債務者トノ間ニ継続シテ生ズル債権又ハ手形上若クハ小切 手上ノ請求権ハ前項ノ規定ニ拘ハラズ之ヲ根抵当権ノ担保スベキ債権ト為スコ トヲ得 第三百九十八条ノ三 根抵当権者ハ確定シタル元本並ニ利息其他ノ定期金及ビ債務ノ 不履行ニ因リテ生ジタル債害ノ賠償ノ全部ニ付キ極度額ヲ限度トシテ其根抵当権 ヲ行フコトヲ得 (2)債務者トノ取引ニ因ラズシテ取得スル手形上又ハ小切手上ノ請求権ヲ根抵当 権ノ担保スベキ債権ト為シタル場合ニ於テ債務者ガ支払ヲ停止シタルトキ、債 務者ニ付キ破産、和議開始、更生手続開始、整理開始若クハ特別清算開始ノ申 立アリタルトキ又ハ抵当不動産ニ対スル競売ノ申立若クハ滞納処分ニ因ル差押 アリタルトキハ其前ニ取得シタルモノニ付テノミ其根抵当権ヲ行フコトヲ得但 其事実ヲ知ラズシテ取得シタルモノニ付テモ之ヲ行フコトヲ妨ゲズ 第三百九十八条ノ四 元本ノ確定前ニ於テハ根抵当権ノ担保スベキ債権ノ範囲ノ変更 ヲ為スコトヲ得債務者ノ変更ニ付キ亦同ジ (2)前項ノ変更ヲ為スニハ後順位ノ抵当権者其他ノ第三者ノ承諾ヲ得ルコトヲ要 セズ (3)第一項ノ変更ニ付キ元本ノ確定前ニ登記ヲ為サザルトキハ其変更ハ之ヲ為サ ザリシモノト看做ス 第三百九十八条ノ五 根抵当権ノ極度額ノ変更ハ利害ノ関係ヲ有スル者ノ承諾ヲ得ル ニ非ザレバ之ヲ為スコトヲ得ズ 第三百九十八条ノ六 根抵当権ノ担保スベキ元本ニ付テハ其確定スベキ期日ヲ定メ又 ハ之ヲ変更スルコトヲ得 (2)第三百九十八条ノ四第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス (3)第一項ノ期日ハ之ヲ定メ又ハ変更シタル日ヨリ五年内タルコトヲ要ス (4)第一項ノ期日ノ変更ニ付キ其期日前ニ登記ヲ為サザルトキハ担保スベキ元本 ハ其期日ニ於テ確定ス 第三百九十八条ノ七 元本ノ確定前ニ根抵当権者ヨリ債権ヲ取得シタル者ハ其債権ニ 付キ根抵当権ヲ行フコトヲ得ズ元本ノ確定前ニ債務者ノ為メニ又ハ債務者ニ代ハ リテ弁済ヲ為シタル者亦同ジ (2)元本ノ確定前ニ債務ノ引受アリタルトキハ根抵当権者ハ引受人ノ債務ニ付キ 其根抵当権ヲ行フコトヲ得ズ 第三百九十八条ノ八 元本ノ確定前ニ債権者又ハ債務者ノ交替ニ因ル更改アリタルト キハ其当事者ハ第五百十八条ノ規定ニ拘ハラズ根抵当権ヲ新債務ニ移スコトヲ得 ズ 第三百九十八条ノ九 元本ノ確定前ニ根抵当権者ニ付キ相続ガ開始シタルトキハ根抵 当権ハ相続開始ノ時ニ存スル債権ノ外相続人ト根抵当権設定者トノ合意ニ依リ定 メタル相続人ガ相続ノ開始後ニ取得スル債権ヲ担保ス (2)元本ノ確定前ニ債務者ニ付キ相続ガ開始シタルトキハ根抵当権ハ相続開始ノ 時ニ存スル債務ノ外根抵当権者ト根抵当権設定者トノ合意ニ依リ定メタル相続 人ガ相続ノ開始後ニ負担スル債務ヲ担保ス (3)第三百九十八条ノ四第二項ノ規定ハ前二項ノ合意ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス (4)第一項及ビ第二項ノ合意ニ付キ相続ノ開始後六个月内ニ登記ヲ為サザルトキ ハ担保スベキ元本ハ相続開始ノ時ニ於テ確定シタルモノト看做ス 第三百九十八条ノ十 元本ノ確定前ニ根抵当権者ニ付キ合併アリタルトキハ其根抵当 権ハ合併ノ時ニ存スル債権ノ外合併後存続スル法人又ハ合併ニ因リテ設立シタル 法人ガ合併後ニ取得スル債権ヲ担保ス (2)元本ノ確定前ニ債務者ニ付キ合併アリタルトキハ根抵当権ハ合併ノ時ニ存ス ル債務ノ外合併後存続スル法人又ハ合併ニ因リテ設立シタル法人ガ合併後ニ負 担スル債務ヲ担保ス (3)前二項ノ場合ニ於テハ根抵当権設定者ハ担保スベキ元本ノ確定ヲ請求スルコ トヲ得但前項ノ場合ニ於テ其債務者ガ根抵当権設定者ナルトキハ此限ニ在ラズ (4)前項ノ請求アリタルトキハ担保スベキ元本ハ合併ノ時ニ於テ確定シタルモノ ト看做ス (5)第三項ノ請求ハ根抵当権設定者ガ合併アリタルコトヲ知リタル日ヨリ二週間 ヲ経過シタルトキハ之ヲ為スコトヲ得ズ合併ノ日ヨリ一个月ヲ経過シタルトキ 亦同ジ 第三百九十八条ノ十一 元本ノ確定前ニ於テハ根抵当権者ハ第三百七十五条第一項ノ 処分ヲ為スコトヲ得ズ但其根抵当権ヲ以テ他ノ債権ノ担保ト為スコトヲ妨ゲズ (2)第三百七十六条第二項ノ規定ハ前項但書ノ場合ニ於テ元本ノ確定前ニ為シタ ル弁済ニ付テハ之ヲ適用セズ 第三百九十八条ノ十二 元本ノ確定前ニ於テハ根抵当権者ハ根抵当権設定者ノ承諾ヲ 得テ其根抵当権ヲ譲渡スコトヲ得 (2)根抵当権者ハ其根抵当権ヲ二個ノ根抵当権ニ分割シテ其一ヲ前項ノ規定ニ依 リ譲渡スコトヲ得此場合ニ於テハ其根抵当権ヲ目的トスル権利ハ譲渡シタル根 抵当権ニ付キ消滅ス (3)前項ノ譲渡ヲ為スニハ其根抵当権ヲ目的トスル権利ヲ有スル者ノ承諾ヲ得ル コトヲ要ス 第三百九十八条ノ十三 元本ノ確定前ニ於テハ根抵当権者ハ根抵当権設定者ノ承諾ヲ 得テ其根抵当権ノ一部譲渡ヲ為シ之ヲ譲受人ト共有スルコトヲ得 第三百九十八条ノ十四 根抵当権ノ共有者ハ各其債権額ノ割合ニ応ジテ弁済ヲ受ク但 元本ノ確定前ニ之ト異ナル割合ヲ定メ又ハ或者ガ他ノ者ニ先チテ弁済ヲ受クベキ コトヲ定メタルトキハ其定ニ従フ (2)根抵当権ノ共有者ハ他ノ共有者ノ同意ヲ得テ第三百九十八条ノ十二第一項ノ 規定ニ依リ其権利ヲ譲渡スコトヲ得 第三百九十八条ノ十五 抵当権ノ順位ノ譲渡又ハ抛棄ヲ受ケタル根抵当権者ガ其根抵 当権ノ譲渡又ハ一部譲渡ヲ為シタルトキハ譲受人ハ其順位ノ譲渡又ハ抛棄ノ利益 ヲ受ク 第三百九十八条ノ十六 第三百九十二条及ビ第三百九十三条ノ規定ハ根抵当権ニ付テ ハ其設定ト同時ニ同一ノ債権ノ担保トシテ数個ノ不動産ノ上ニ根抵当権ガ設定セ ラレタル旨ヲ登記シタル場合ニ限リ之ヲ適用ス 第三百九十八条ノ十七 前条ノ登記アル根抵当権ノ担保スベキ債権ノ範囲、債務者若 クハ極度額ノ変更又ハ其譲渡若クハ一部譲渡ハ総テノ不動産ニ付キ其登記ヲ為ス ニ非ザレバ其効力ヲ生ゼズ (2)前条ノ登記アル根抵当権ノ担保スベキ元本ハ一ノ不動産ニ付テノミ確定スベ キ事由ガ生ジタル場合ニ於テモ亦確定ス 第三百九十八条ノ十八 数個ノ不動産ノ上ニ根抵当権ヲ有スル者ハ第三百九十八条ノ 十六ノ場合ヲ除ク外各不動産ノ代価ニ付キ各極度額ニ至ルマデ優先権ヲ行フコト ヲ得 第三百九十八条ノ十九 根抵当権設定者ハ根抵当権設定ノ時ヨリ三年ヲ経過シタルト キハ担保スベキ元本ノ確定ヲ請求スルコトヲ得但担保スベキ元本ノ確定スベキ期 日ノ定アルトキハ此限ニ在ラズ (2)前項ノ請求アリタルトキハ担保スベキ元本ハ其請求ノ時ヨリ二週間ヲ経過シ タルニ因リテ確定ス 第三百九十八条ノ二十 左ノ場合ニ於テハ根抵当権ノ担保スベキ元本ハ確定ス 一 担保スベキ債権ノ範囲ノ変更、取引ノ終了其他ノ事由ニ因リ担保スベキ元本 ノ生ゼザルコトト為リタルトキ 二 根抵当権者ガ抵当不動産ニ付キ競売又ハ第三百七十二条ニ於テ準用スル第三 百四条ノ規定ニ依ル差押ヲ申立テタルトキ但競売手続ノ開始又ハ差押アリタ ルトキニ限ル 三 根抵当権者ガ抵当不動産ニ対シ滞納処分ニ因ル差押ヲ為シタルトキ 四 根抵当権者ガ抵不動産ニ対スル競売手続ノ開始又ハ滞納処分ニ因ル差押アリ タルコトヲ知リタル時ヨリ二週間ヲ経過シタルトキ 五 債務者又ハ根抵当権設定者ガ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキ (2)前項第四号ノ競売手続ノ開始若クハ差押又ハ同項第五号ノ破産ノ宣告ノ効力 ガ消滅シタルトキハ担保スベキ元本ハ確定セザリシモノト看做ス但元本ガ確定 シタルモノトシテ其根抵当権又ハ之ヲ目的トスル権利ヲ取得シタル者アルトキ ハ此限ニ在ラズ 第三百九十八条ノ二十一 元本ノ確定後ニ於テハ根抵当権設定者ハ其根抵当権ノ極度 額ヲ現ニ存スル債務ノ額ト爾後二年間ニ生ズベキ利息其他ノ定期金及ビ債務ノ不 履行ニ因ル損害賠償ノ額トヲ加ヘタル額ニ減ズベキコトヲ請求スルコトヲ得 (2)第三百九十八条ノ十六ノ登記アル根抵当権ノ極度額ノ減額ニ付テハ前項ノ請 求ハ一ノ不動産ニ付キ之ヲ為スヲ以テ足ル 第三百九十八条ノ二十二 元本ノ確定後ニ於テ現ニ存スル債務ノ額ガ根抵当権ノ極度 額ヲ超ユルトキハ他人ノ債務ヲ担保スル為メ其根抵当権ヲ設定シタル者又ハ抵当 不動産ニ付キ所有権、地上権、永小作権若クハ第三者ニ対抗スルコトヲ得ベキ賃 借権ヲ取得シタル第三者ハ其極度額ニ相当スル金額ヲ払渡シ又ハ之ヲ供託シテ其 根抵当権ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ其払渡又ハ供託ハ弁済ノ効力 ヲ有ス (2)第三百九十八条ノ十六ノ登記アル根抵当権ハ一ノ不動産ニ付キ前項ノ請求ア リタルトキハ消滅ス (3)第三百七十九条及ビ第三百八十条ノ規定ハ第一項ノ請求ニ之ヲ準用ス

第三編 債権

第一章 総則

第一節 債権ノ目的

第三百九十九条 債権ハ金銭ニ見積ルコトヲ得サルモノト雖モ之ヲ以テ其目的ト為ス コトヲ得 第四百条 債権ノ目的カ特定物ノ引渡ナルトキハ債務者ハ其引渡ヲ為スマテ善良ナル 管理者ノ注意ヲ以テ其物ヲ保存スルコトヲ要ス 第四百一条 債権ノ目的物ヲ指示スルニ種類ノミヲ以テシタル場合ニ於テ法律行為ノ 性質又ハ当事者ノ意思ニ依リテ其品質ヲ定ムルコト能ハサルトキハ債務者ハ中等 ノ品質ヲ有スル物ヲ給付スルコトヲ要ス (2)前項ノ場合ニ於テ債務者カ物ノ給付ヲ為スニ必要ナル行為ヲ完了シ又ハ債権 者ノ同意ヲ得テ其給付スヘキ物ヲ指定シタルトキハ爾後其物ヲ以テ債権ノ目的 物トス 第四百二条 債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ債務者ハ其選択ニ従ヒ各種ノ通貨ヲ以テ 弁済ヲ為スコトヲ得但特種ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタルトキハ此限 ニ在ラス (2)債権ノ目的タル特種ノ通貨カ弁済期ニ於テ強制通用ノ効力ヲ失ヒタルトキハ 債務者ハ他ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ要ス (3)前二項ノ規定ハ外国ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準 用ス 第四百三条 外国ノ通貨ヲ以テ債権額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ履行地ニ於ケル為 替相場ニ依リ日本ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得 第四百四条 利息ヲ生スヘキ債権ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ其利率ハ年五分ト ス 第四百五条 利息カ一年分以上延滞シタル場合ニ於テ債権者ヨリ催告ヲ為スモ債務者 カ其利息ヲ払ハサルトキハ債権者ハ之ヲ元本ニ組入ルルコトヲ得 第四百六条 債権ノ目的カ数個ノ給付中選択ニ依リテ定マルヘキトキハ其選択権ハ債 務者ニ属ス 第四百七条 前条ノ選択権ハ相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ行フ (2)前項ノ意思表示ハ相手方ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第四百八条 債権カ弁済期ニ在ル場合ニ於テ相手方ヨリ相当ノ期間ヲ定メテ催告ヲ為 スモ選択権ヲ有スル当事者カ其期間内ニ選択ヲ為ササルトキハ其選択権ハ相手方 ニ属ス 第四百九条 第三者カ選択ヲ為スヘキ場合ニ於テハ其選択ハ債権者又ハ債務者ニ対ス ル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス (2)第三者カ選択ヲ為スコト能ハス又ハ之ヲ欲セサルトキハ選択権ハ債務者ニ属 ス 第四百十条 債権ノ目的タルヘキ給付中始ヨリ不能ナルモノ又ハ後ニ至リテ不能ト為 リタルモノアルトキハ債権ハ其残存スルモノニ付キ存在ス (2)選択権ヲ有セサル当事者ノ過失ニ因リテ給付カ不能ト為リタルトキハ前項ノ 規定ヲ適用セス 第四百十一条 選択ハ債権発生ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス但第三者ノ権利ヲ害スルコ トヲ得ス

第二節 債権ノ効力

第四百十二条 債務ノ履行ニ付キ確定期限アルトキハ債務者ハ其期限ノ到来シタル時 ヨリ遅滞ノ責ニ任ス (2)債務ノ履行ニ付キ不確定期限アルトキハ債務者ハ其期限ノ到来シタルコトヲ 知リタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス (3)債務ノ履行ニ付キ期限ヲ定メサリシトキハ債務者ハ履行ノ請求ヲ受ケタル時 ヨリ遅滞ノ責ニ任ス 第四百十三条 債権者カ債務ノ履行ヲ受クルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ受クルコト能ハサル トキハ其債権者ハ履行ノ提供アリタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス 第四百十四条 債務者カ任意ニ債務ノ履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其強制履行ヲ裁 判所ニ請求スルコトヲ得但債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス (2)債務ノ性質カ強制履行ヲ許ササル場合ニ於テ其債務カ作為ヲ目的トスルトキ ハ債権者ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ為サシムルコトヲ裁判所ニ請求ス ルコトヲ得但法律行為ヲ目的トスル債務ニ付テハ裁判ヲ以テ債務者ノ意思表示 ニ代フルコトヲ得 (3)不作為ヲ目的トスル債務ニ付テハ債務者ノ費用ヲ以テ其為シタルモノヲ除却 シ且将来ノ為メ適当ノ処分ヲ為スコトヲ請求スルコトヲ得 (4)前三項ノ規定ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス 第四百十五条 債務者カ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其損 害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト 能ハサルニ至リタルトキ亦同シ 第四百十六条 損害賠償ノ請求ハ債務ノ不履行ニ因リテ通常生スヘキ損害ノ賠償ヲ為 サシムルヲ以テ其目的トス (2)特別ノ事情ニ因リテ生シタル損害ト雖モ当事者カ其事情ヲ予見シ又ハ予見ス ルコトヲ得ヘカリシトキハ債権者ハ其賠償ヲ請求スルコトヲ得 第四百十七条 損害賠償ハ別段ノ意思表示ナキトキハ金銭ヲ以テ其額ヲ定ム 第四百十八条 債務ノ不履行ニ関シ債権者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損害賠償ノ 責任及ヒ其金額ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌ス 第四百十九条 金銭ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ法定利率ニ 依リテ之ヲ定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依ル (2)前項ノ損害賠償ニ付テハ債権者ハ損害ノ証明ヲ為スコトヲ要セス又債務者ハ 不可抗力ヲ以テ抗弁ト為スコトヲ得ス 第四百二十条 当事者ハ債務ノ不履行ニ付キ損害賠償ノ額ヲ予定スルコトヲ得此場合 ニ於テハ裁判所ハ其額ヲ増減スルコトヲ得ス (2)賠償額ノ予定ハ履行又ハ解除ノ請求ヲ妨ケス (3)違約金ハ之ヲ賠償額ノ予定ト推定ス 第四百二十一条 前条ノ規定ハ当事者カ金銭ニ非サルモノヲ以テ損害ノ賠償ニ充ツヘ キ旨ヲ予定シタル場合ニ之ヲ準用ス 第四百二十二条 債権者カ損害賠償トシテ其債権ノ目的タル物又ハ権利ノ価額ノ全部 ヲ受ケタルトキハ債務者ハ其物又ハ権利ニ付キ当然債権者ニ代位ス 第四百二十三条 債権者ハ自己ノ債権ヲ保全スル為メ其債務者ニ属スル権利ヲ行フコ トヲ得但債務者ノ一身ニ専属スル権利ハ此限ニ在ラス (2)債権者ハ其債権ノ期限カ到来セサル間ハ裁判上ノ代位ニ依ルニ非サレハ前項 ノ権利ヲ行フコトヲ得ス但保存行為ハ此限ニ在ラス 第四百二十四条 債権者ハ債務者カ其債権者ヲ害スルコトヲ知リテ為シタル法律行為 ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但其行為ニ因リテ利益ヲ受ケタル者又ハ転得 者カ其行為又ハ転得ノ当時債権者ヲ害スヘキ事実ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラ ス (2)前項ノ規定ハ財産権ヲ目的トセサル法律行為ニハ之ヲ適用セス 第四百二十五条 前条ノ規定ニ依リテ為シタル取消ハ総債権者ノ利益ノ為メニ其効力 ヲ生ス 第四百二十六条 第四百二十四条ノ取消権ハ債権者カ取消ノ原因ヲ覚知シタル時ヨリ 二年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス行為ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタル トキ亦同シ

第三節 多数当事者ノ債権

第一款 総則
第四百二十七条 数人ノ債権者又ハ債務者アル場合ニ於テ別段ノ意思表示ナキトキハ 各債権者又ハ各債務者ハ平等ノ割合ヲ以テ権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負フ
第二款 不可分債務
第四百二十八条 債権ノ目的カ其性質上又ハ当事者ノ意思表示ニ因リテ不可分ナル場 合ニ於テ数人ノ債権者アルトキハ各債権者ハ総債権者ノ為メニ履行ヲ請求シ又債 務者ハ総債権者ノ為メ各債権者ニ対シテ履行ヲ為スコトヲ得 第四百二十九条 不可分債権者ノ一人ト其債務者トノ間ニ更改又ハ免除アリタル場合 ニ於テモ他ノ債権者ハ債務ノ全部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得但其一人ノ債権者カ 其権利ヲ失ハサレハ之ニ分与スヘキ利益ヲ債務者ニ償還スルコトヲ要ス (2)此他不可分債権者ノ一人ノ行為又ハ其一人ニ付キ生シタル事項ハ他ノ債権者 ニ対シテ其効力ヲ生セス 第四百三十条 数人カ不可分債務ヲ負担スル場合ニ於テハ前条ノ規定及ヒ連帯債務ニ 関スル規定ヲ準用ス但第四百三十四条乃至第四百四十条ノ規定ハ此限ニ在ラス 第四百三十一条 不可分債務カ可分債務ニ変シタルトキハ各債権者ハ自己ノ部分ニ付 テノミ履行ヲ請求スルコトヲ得又各債務者ハ其負担部分ニ付テノミ履行ノ責ニ任 ス
第三款 連帯債務
第四百三十二条 数人カ連帯債務ヲ負担スルトキハ債権者ハ其債務者ノ一人ニ対シ又 ハ同時若クハ順次ニ総債務者ニ対シテ全部又ハ一部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得 第四百三十三条 連帯債務者ノ一人ニ付キ法律行為ノ無効又ハ取消ノ原因ノ存スル為 メ他ノ債務者ノ債務ノ効力ヲ妨クルコトナシ 第四百三十四条 連帯債務者ノ一人ニ対スル履行ノ請求ハ他ノ債務者ニ対シテモ其効 力ヲ生ス 第四百三十五条 連帯債務者ノ一人ト債権者トノ間ニ更改アリタルトキハ債権ハ総債 務者ノ利益ノ為メニ消滅ス 第四百三十六条 連帯債務者ノ一人カ債権者ニ対シテ債権ヲ有スル場合ニ於テ其債務 者カ相殺ヲ援用シタルトキハ債権ハ総債務者ノ利益ノ為メニ消滅ス (2)右ノ債権ヲ有スル債務者カ相殺ヲ援用セサル間ハ其債務者ノ負担部分ニ付テ ノミ他ノ債務者ニ於テ相殺ヲ援用スルコトヲ得 第四百三十七条 連帯債務者ノ一人ニ対シテ為シタル債務ノ免除ハ其債務者ノ負担部 分ニ付テノミ他ノ債務者ノ利益ノ為メニモ其効力ヲ生ス 第四百三十八条 連帯債務者ノ一人ト債権者トノ間ニ混同アリタルトキハ其債務者ハ 弁済ヲ為シタルモノト看做ス 第四百三十九条 連帯債務者ノ一人ノ為メニ時効カ完成シタルトキハ其債務者ノ負担 部分ニ付テハ他ノ債務者モ亦其義務ヲ免ル 第四百四十条 前六条ニ掲ケタル事項ヲ除ク外連帯債務者ノ一人ニ付キ生シタル事項 ハ他ノ債務者ニ対シテ其効力ヲ生セス 第四百四十一条 連帯債務者ノ全員又ハ其中ノ数人カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ債 権者ハ其債権ノ全額ニ付キ各財団ノ配当ニ加入スルコトヲ得 第四百四十二条 連帯債務者ノ一人カ債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責 ヲ得タルトキハ他ノ債務者ニ対シ其各自ノ負担部分ニ付キ求償権ヲ有ス (2)前項ノ求償ハ弁済其他免責アリタル日以後ノ法定利息及ヒ避クルコトヲ得サ リシ費用其他ノ損害ノ賠償ヲ包含ス 第四百四十三条 連帯債務者ノ一人カ債権者ヨリ請求ヲ受ケタルコトヲ他ノ債務者ニ 通知セスシテ弁済ヲ為シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タル場合ニ於テ他 ノ債務者カ債権者ニ対抗スルコトヲ得ヘキ事由ヲ有セシトキハ其負担部分ニ付キ 之ヲ以テ其債務者ニ対抗スルコトヲ得但相殺ヲ以テ之ニ対抗シタルトキハ過失ア ル債務者ハ債権者ニ対シ相殺ニ因リテ消滅スヘカリシ債務ノ履行ヲ請求スルコト ヲ得 (2)連帯債務者ノ一人カ弁済其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タルコトヲ他 ノ債務者ニ通知スルコトヲ怠リタルニ因リ他ノ債務者カ善意ニテ債権者ニ弁済 ヲ為シ其他有償ニ免責ヲ得タルトキハ其債務者ハ自己ノ弁済其他免責ノ行為ヲ 有効ナリシモノト看做スコトヲ得 第四百四十四条 連帯債務者中ニ償還ヲ為ス資力ナキ者アルトキハ其償還スルコト能 ハサル部分ハ求償者及ヒ他ノ資力アル者ノ間ニ其各自ノ負担部分ニ応シテ之ヲ分 割ス但求償者ニ過失アルトキハ他ノ債務者ニ対シテ分担ヲ請求スルコトヲ得ス 第四百四十五条 連帯債務者ノ一人カ連帯ノ免除ヲ得タル場合ニ於テ他ノ債務者中ニ 弁済ノ資力ナキ者アルトキハ債権者ハ其無資力者カ弁済スルコト能ハサル部分ニ 付キ連帯ノ免除ヲ得タル者カ負担スヘキ部分ヲ負担ス
第四款 保証債務
第四百四十六条 保証人ハ主タル債務者カ其債務ヲ履行セサル場合ニ於テ其履行ヲ為 ス責ニ任ス 第四百四十七条 保証債務ハ主タル債務ニ関スル利息、違約金、損害賠償其他総テ其 債務ニ従タルモノヲ包含ス (2)保証人ハ其保証債務ニ付テノミ違約金又ハ損害賠償ノ額ヲ約定スルコトヲ得 第四百四十八条 保証人ノ負担カ債務ノ目的又ノ体様ニ付キ主タル債務ヨリ重キトキ ハ之ヲ主タル債務ノ限度ニ減縮ス 第四百四十九条 無能力ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ債務ヲ保証シタル者カ保証契約 ノ当時其取消ノ原因ヲ知リタルトキハ主タル債務者ノ不履行又ハ其債務ノ場合ニ 付キ同一ノ目的ヲ有スル独立ノ債務ヲ負担シタルモノト推定ス 第四百五十条 債務者カ保証人ヲ立ツル義務ヲ負フ場合ニ於テハ其保証人ハ左ノ条件 ヲ具備スル者タルコトヲ要ス 一 能力者タルコト 二 弁済ノ資力ヲ有スルコト (2)保証人カ前項第二号ノ条件ヲ欠クニ至リタルトキハ債権者ハ前項ノ条件ヲ具 備スル者ヲ以テ之ニ代フルコトヲ請求スルコトヲ得 (3)前二項ノ規定ハ債権者カ保証人ヲ指名シタル場合ニ之ヲ適用セス 第四百五十一条 債務者カ前条ノ条件ヲ具備スル保証人ヲ立ツルコト能ハサルトキハ 他ノ担保ヲ供シテ之ニ代フルコトヲ得 第四百五十二条 債権者カ保証人ニ債務ノ履行ヲ請求シタルトキハ保証人ハ先ツ主タ ル債務者ニ催告ヲ為スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得但主タル債務者カ破産ノ宣告ヲ 受ケ又ハ其行方カ知レサルトキハ此限ニ在ラス 第四百五十三条 債権者カ前条ノ規定ニ従ヒ主タル債務者ニ催告ヲ為シタル後ト雖モ 保証人カ主タル債務者ニ弁済ノ資力アリテ且執行ノ容易ナルコトヲ証明シタルト キハ債権者ハ先ツ主タル債務者ノ財産ニ付キ執行ヲ為スコトヲ要ス 第四百五十四条 保証人カ主タル債務者ト連帯シテ債務ヲ負担シタルトキハ前二条ニ 定メタル権利ヲ有セス 第四百五十五条 第四百五十二条及ヒ第四百五十三条ノ規定ニ依リ保証人ノ請求アリ タルニ拘ハラス債権者カ催告又ハ執行ヲ為スコトヲ怠リ其後主タル債務者ヨリ全 部ノ弁済ヲ得サルトキハ保証人ハ債権者カ直チニ催告又ハ執行ヲ為セハ弁済ヲ得 ヘカリシ限度ニ於テ其義務ヲ免ル 第四百五十六条 数人ノ保証人アル場合ニ於テハ其保証人カ各別ノ行為ヲ以テ債務ヲ 負担シタルトキト雖モ第四百二十七条ノ規定ヲ適用ス 第四百五十七条 主タル債務者ニ対スル履行ノ請求其他時効ノ中断ハ保証人ニ対シテ モ其効力ヲ生ス (2)保証人ハ主タル債務者ノ債権ニ依リ相殺ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得 第四百五十八条 主タル債務者カ保証人ト連帯シテ債務ヲ負担スル場合ニ於テハ第四 百三十四条乃至第四百四十条ノ規定ヲ適用ス 第四百五十九条 保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタル場合ニ於テ過 失ナクシテ債権者ニ弁済スヘキ裁判言渡ヲ受ケ又ハ主タル債務者ニ代ハリテ弁済 ヲ為シ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務ヲ消滅セシムヘキ行為ヲ為シタルトキハ其保証 人ハ主タル債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス (2)第四百四十二条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第四百六十条 保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタルトキハ其保証人 ハ左ノ場合ニ於テ主タル債務者ニ対シテ予メ求償権ヲ行フコトヲ得 一 主タル債務者カ破産ノ宣告ヲ受ケ且債権者カ其財団ノ配当ニ加入セサルトキ 二 債務カ弁済期ニ在ルトキ但保証契約ノ後債権者カ主タル債務者ニ許与シタル 期限ハ之ヲ以テ保証人ニ対抗スルコトヲ得ス 三 債務ノ弁済期カ不確定ニシテ且其最長期ヲモ確定スルコト能ハサル場合ニ於 テ保証契約ノ後十年ヲ経過シタルトキ 第四百六十一条 前二条ノ規定ニ依リ主タル債務者カ保証人ニ対シテ賠償ヲ為ス場合 ニ於テ債権者カ全部ノ弁済ヲ受ケサル間ハ主タル債務者ハ保証人ヲシテ担保ヲ供 セシメ又ハ之ニ対シテ自己ニ免責ヲ得セシムヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得 (2)右ノ場合ニ於テ主タル債務者ハ供託ヲ為シ、担保ヲ供シ又ハ保証人ニ免責ヲ 得セシメテ其賠償ノ義務ヲ免ルルコトヲ得 第四百六十二条 主タル債務者ノ委託ヲ受ケスシテ保証ヲ為シタル者カ債務ヲ弁済シ 其他自己ノ出捐ヲ以テ主タル債務者ニ其債務ヲ免レシメタルトキハ主タル債務者 ハ其当時利益ヲ受ケタル限度ニ於テ賠償ヲ為スコトヲ要ス (2)主タル債務者ノ意思ニ反シテ保証ヲ為シタル者ハ主タル債務者カ現ニ利益ヲ 受クル限度ニ於テノミ求償権ヲ有ス但主タル債務者カ求償ノ日以前ニ相殺ノ原 因ヲ有セシコトヲ主張スルトキハ保証人ハ債権者ニ対シ其相殺ニ因リテ消滅ス ヘカリシ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得 第四百六十三条 第四百四十三条ノ規定ハ保証人ニ之ヲ準用ス (2)保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタル場合ニ於テ善意ニテ弁 済其他免責ノ為メニスル出捐ヲ為シタルトキハ第四百四十三条ノ規定ハ主タル 債務者ニモ亦之ヲ準用ス 第四百六十四条 連帯債務者又ハ不可分債務者ノ一人ノ為メニ保証ヲ為シタル者ハ他 ノ債務者ニ対シテ其負担部分ノミニ付キ求償権ヲ有ス 第四百六十五条 数人ノ保証人アル場合ニ於テ主タル債務カ不可分ナル為メ又ハ各保 証人カ全額ヲ弁済スヘキ特約アル為メ一人ノ保証人カ全額其他自己ノ負担部分ヲ 超ユル額ヲ弁済シタルトキハ第四百四十二条乃至第四百四十四条ノ規定ヲ準用ス (2)前項ノ場合ニ非スシテ互ニ連帯セサル保証人ノ一人カ全額其他自己ノ負担部 分ヲ超ユル額ヲ弁済シタルトキハ第四百六十二条ノ規定ヲ準用ス

第四節 債権ノ譲渡

第四百六十六条 債権ハ之ヲ譲渡スコトヲ得但其性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在 ラス (2)前項ノ規定ハ当事者カ反対ノ意思ヲ表示シタル場合ニハ之ヲ適用セス但其意 思表示ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第四百六十七条 指名債権ノ譲渡ハ譲渡人カ之ヲ債務者ニ通知シ又ハ債務者カ之ヲ承 諾スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス (2)前項ノ通知又ハ承諾ハ確定日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ以テ債務 者以外ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第四百六十八条 債務者カ異議ヲ留メスシテ前条ノ承諾ヲ為シタルトキハ譲渡人ニ対 抗スルコトヲ得ヘカリシ事由アルモ之ヲ以テ譲受人ニ対抗スルコトヲ得ス但債務 者カ其債務ヲ消滅セシムル為メ譲渡人ニ払渡シタルモノアルトキハ之ヲ取返シ又 譲渡人ニ対シテ負担シタル債務アルトキハ之ヲ成立セサルモノト看做スコトヲ妨 ケス (2)譲渡人カ譲渡ノ通知ヲ為シタルニ止マルトキハ債務者ハ其通知ヲ受クルマテ ニ譲渡人ニ対シテ生シタル事由ヲ以テ譲受人ニ対抗スルコトヲ得 第四百六十九条 指図債権ノ譲渡ハ其証書ニ譲渡ノ裏書ヲ為シテ之ヲ譲受人ニ交付ス ルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第四百七十条 指図債権ノ債務者ハ其証書ノ所持人及ヒ其署名、捺印ノ真偽ヲ調査ス ル権利ヲ有スルモ其義務ヲ負フコトナシ但債務者ニ悪意又ハ重大ナル過失アルト キハ其弁済ハ無効トス 第四百七十一条 前条ノ規定ハ証書ニ債権者ヲ指名シタルモ其証書ノ所持人ニ弁済ス ヘキ旨ヲ附記シタル場合ニ之ヲ準用ス 第四百七十二条 指図債権ノ債務者ハ其証書ニ記載シタル事項及ヒ其証書ノ性質ヨリ 当然生スル結果ヲ除ク外原債権者ニ対抗スルコトヲ得ヘカリシ事由ヲ以テ善意ノ 譲受人ニ対抗スルコトヲ得ス 第四百七十三条 前条ノ規定ハ無記名債権ニ之ヲ準用ス

第五節 債権ノ消滅

第一款 弁済
第四百七十四条 債務ノ弁済ハ第三者之ヲ為スコトヲ得但其債務ノ性質カ之ヲ許ササ ルトキ又ハ当事者カ反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス (2)利害ノ関係ヲ有セサル第三者ハ債務者ノ意思ニ反シテ弁済ヲ為スコトヲ得ス 第四百七十五条 弁済者カ他人ノ物ヲ引渡シタルトキハ更ニ有効ナル弁済ヲ為スニ非 サレハ其物ヲ取戻スコトヲ得ス 第四百七十六条 譲渡ノ能力ナキ所有者カ弁済トシテ物ノ引渡ヲ為シタル場合ニ於テ 其弁済ヲ取消シタルトキハ其所有者ハ更ニ有効ナル弁済ヲ為スニ非サレハ其物ヲ 取戻スコトヲ得ス 第四百七十七条 前二条ノ場合ニ於テ債権者カ弁済トシテ受ケタル物ヲ善意ニテ消費 シ又ハ譲渡シタルトキハ其弁済ハ有効トス但債権者カ第三者ヨリ賠償ノ請求ヲ受 ケタルトキハ弁済者ニ対シテ求償ヲ為スコトヲ妨ケス 第四百七十八条 債権ノ準占有者ニ為シタル弁済ハ弁済者ノ善意ナリシトキニ限リ其 効力ヲ有ス 第四百七十九条 前条ノ場合ヲ除ク外弁済受領ノ権限ヲ有セサル者ニ為シタル弁済ハ 債権者カ之ニ因リテ利益ヲ受ケタル限度ニ於テノミ其効力ヲ有ス 第四百八十条 受取証書ノ持参人ハ弁済受領ノ権限アルモノト看做ス但弁済者カ其権 限ナキコトヲ知リタルトキ又ハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス 第四百八十一条 支払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者カ自己ノ債権者ニ弁済ヲ為シタル トキハ差押債権者ハ其受ケタル損害ノ限度ニ於テ更ニ弁済ヲ為スヘキ旨ヲ第三債 務者ニ請求スルコトヲ得 (2)前項ノ規定ハ第三債務者ヨリ其債権者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス 第四百八十二条 債務者カ債権者ノ承諾ヲ以テ其負担シタル給付ニ代ヘテ他ノ給付ヲ 為シタルトキハ其給付ハ弁済ト同一ノ効力ヲ有ス 第四百八十三条 債権ノ目的カ特定物ノ引渡ナルトキハ弁済者ハ其引渡ヲ為スヘキ時 ノ現状ニテ其物ヲ引渡スコトヲ要ス 第四百八十四条 弁済ヲ為スヘキ場所ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ特定物ノ引渡 ハ債権発生ノ当時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ為シ其他ノ弁済ハ債権者ノ現時 ノ住所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス 第四百八十五条 弁済ノ費用ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ其費用ハ債務者之ヲ負 担ス但債権者カ住所ノ移転其他ノ行為ニ因リテ弁済ノ費用ヲ増加シタルトキハ其 増加額ハ債権者之ヲ負担ス 第四百八十六条 弁済者ハ弁済受領者ニ対シテ受取証書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得 第四百八十七条 債権ノ証書アル場合ニ於テ弁済者カ全部ノ弁済ヲ為シタルトキハ其 証書ノ返還ヲ請求スルコトヲ得 第四百八十八条 債務者カ同一ノ債権者ニ対シテ同種ノ目的ヲ有スル数個ノ債務ヲ負 担スル場合ニ於テ弁済トシテ提供シタル給付カ総債務ヲ消滅セシムルニ足ラサル トキハ弁済者ハ給付ノ時ニ於テ其弁済ヲ充当スヘキ債務ヲ指定スルコトヲ得 (2)弁済者カ前項ノ指定ヲ為ササルトキハ弁済受領者ハ其受領ノ時ニ於テ其弁済 ノ充当ヲ為スコトヲ得但弁済者カ其充当ニ対シテ直チニ異議ヲ述ヘタルトキハ 此限ニ在ラス (3)前二項ノ場合ニ於テ弁済ノ充当ハ相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス 第四百八十九条 当事者カ弁済ノ充当ヲ為ササルトキハ左ノ規定ニ従ヒ其弁済ヲ充当 ス 一 総債務中弁済期ニ在ルモノト弁済期ニ在ラサルモノトアルトキハ弁済期ニ在 ルモノヲ先ニス 二 総債務カ弁済期ニ在ルトキ又ハ弁済期ニ在ラサルトキハ債務者ノ為メニ弁済 ノ利益多キモノヲ先ニス 三 債務者ノ為メニ弁済ノ利益相同シキトキハ弁済期ノ先ツ至リタルモノ又ハ先 ツ至ルヘキモノヲ先ニス 四 前二号ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ債務ノ弁済ハ各債務ノ額ニ応シテ之ヲ 充当ス 第四百九十条 一個ノ債務ノ弁済トシテ数個ノ給付ヲ為スヘキ場合ニ於テ弁済者カ其 債務ノ全部ヲ消滅セシムルニ足ラサル給付ヲ為シタルトキハ前二条ノ規定ヲ準用 ス 第四百九十一条 債務者カ一個又ハ数個ノ債務ニ付キ元本ノ外利息及ヒ費用ヲ払フヘ キ場合ニ於テ弁済者カ其債務ノ全部ヲ消滅セシムルニ足ラサル給付ヲ為シタルト キハ之ヲ以テ順次ニ費用、利息及ヒ元本ニ充当スルコトヲ要ス (2)第四百八十九条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第四百九十二条 弁済ノ提供ハ其提供ノ時ヨリ不履行ニ因リテ生スヘキ一切ノ責任ヲ 免レシム 第四百九十三条 弁済ノ提供ハ債務ノ本旨ニ従ヒテ現実ニ之ヲ為スコトヲ要ス但債権 者カ予メ其受領ヲ拒ミ又ハ債務ノ履行ニ付キ債権者ノ行為ヲ要スルトキハ弁済ノ 準備ヲ為シタルコトヲ通知シテ其受領ヲ催告スルヲ以テ足ル 第四百九十四条 債権者カ弁済ノ受領ヲ拒ミ又ハ之ヲ受領スルコト能ハサルトキハ弁 済者ハ債権者ノ為メニ弁済ノ目的物ヲ供託シテ其債務ヲ免ルルコトヲ得弁済者ノ 過失ナクシテ債権者ヲ確知スルコト能ハサルトキ亦同シ 第四百九十五条 供託ハ債務履行地ノ供託所ニ之ヲ為スコトヲ要ス (2)供託所ニ付キ法令ニ別段ノ定ナキ場合ニ於テハ裁判所ハ弁済者ノ請求ニ因リ 供託所ノ指定及ヒ供託物保管者ノ選任ヲ為スコトヲ要ス (3)供託者ハ遅滞ナク債権者ニ供託ノ通知ヲ為スコトヲ要ス 第四百九十六条 債権者カ供託ヲ受諾セス又ハ供託ヲ有効ト宣告シタル判決カ確定セ サル間ハ弁済者ハ供託物ヲ取戻スコトヲ得此場合ニ於テハ供託ヲ為ササリシモノ ト看做ス (2)前項ノ規定ハ供託ニ因リテ質権又ハ抵当権カ消滅シタル場合ニハ之ヲ適用セ ス 第四百九十七条 弁済ノ目的物カ供託ニ適セス又ハ其物ニ付キ滅失若クハ毀損ノ虞ア ルトキハ弁済者ハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競売シ其代価ヲ供託スルコトヲ得其物 ノ保存ニ付キ過分ノ費用ヲ要スルトキ亦同シ 第四百九十八条 債務者カ債権者ノ給付ニ対シテ弁済ヲ為スヘキ場合ニ於テハ債権者 ハ其給付ヲ為スニ非サレハ供託物ヲ受取ルコトヲ得ス 第四百九十九条 債務者ノ為メニ弁済ヲ為シタル者ハ其弁済ト同時ニ債権者ノ承諾ヲ 得テ之ニ代位スルコトヲ得 (2)第四百六十七条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第五百条 弁済ヲ為スニ付キ正当ノ利益ヲ有スル者ハ弁済ニ因リテ当然債権者ニ代位 ス 第五百一条 前二条ノ規定ニ依リテ債権者ニ代位シタル者ハ自己ノ権利ニ基キ求償ヲ 為スコトヲ得ヘキ範囲内ニ於テ債権ノ効力及ヒ担保トシテ其債権者カ有セシ一切 ノ権利ヲ行フコトヲ得但左ノ規定ニ従フコトヲ要ス 一 保証人ハ予メ先取特権、不動産質権又ハ抵当権ノ登記ニ其代位ヲ附記シタル ニ非サレハ其先取特権、不動産質権又ハ抵当権ノ目的タル不動産ノ第三取得 者ニ対シテ債権者ニ代位セス 二 第三取得者ハ保証人ニ対シテ債権者ニ代位セス 三 第三取得者ノ一人ハ各不動産ノ価格ニ応スルニ非サレハ他ノ第三取得者ニ対 シテ債権者ニ代位セス 四 前号ノ規定ハ自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ担保ニ供シタル者ノ間ニ之ヲ準 用ス 五 保証人ト自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ担保ニ供シタル者トノ間ニ於テハ其 頭数ニ応スルニ非サレハ債権者ニ代位セス但自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ 担保ニ供シタル者数人アルトキハ保証人ノ負担部分ヲ除キ其残額ニ付キ各財 産ノ価格ニ応スルニ非サレハ之ニ対シテ代位ヲ為スコトヲ得ス 右ノ場合ニ於テ其財産カ不動産ナルトキハ第一号ノ規定ヲ準用ス 第五百二条 債権ノ一部ニ付キ代位弁済アリタルトキハ代位者ハ其弁済シタル価額ニ 応シテ債権者ト共ニ其権利ヲ行フ (2)前項ノ場合ニ於テ債務ノ不履行ニ因ル契約ノ解除ハ債権者ノミ之ヲ請求スル コトヲ得但代位者ニ其弁済シタル価額及ヒ其利息ヲ償還スルコトヲ要ス 第五百三条 代位弁済ニ因リテ全部ノ弁済ヲ受ケタル債権者ハ債権ニ関スル証書及ヒ 其占有ニ在ル担保物ヲ代位者ニ交付スルコトヲ要ス (2)債権ノ一部ニ付キ代位弁済アリタル場合ニ於テハ債権者ハ債権証書ニ其代位 ヲ記入シ且代位者ヲシテ其占有ニ在ル担保物ノ保存ヲ監督セシムルコトヲ要ス 第五百四条 第五百条ノ規定ニ依リテ代位ヲ為スヘキ者アル場合ニ於テ債権者カ故意 又ハ懈怠ニ因リテ其担保ヲ喪失又ハ減少シタルトキハ代位ヲ為スヘキ者ハ其喪失 又ハ減少ニ因リ償還ヲ受クルコト能ハサルニ至リタル限度ニ於テ其責ヲ免ル
第二款 相殺
第五百五条 二人互ニ同種ノ目的ヲ有スル債務ヲ負担スル場合ニ於テ双方ノ債務カ弁 済期ニ在ルトキハ各債務者ハ其対当額ニ付キ相殺ニ因リテ其債務ヲ免ルルコトヲ 得但債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス (2)前項ノ規定ハ当事者カ反対ノ意思ヲ表示シタル場合ニハ之ヲ適用セス但其意 思表示ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第五百六条 相殺ハ当事者ノ一方ヨリ其相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス但 其意思表示ニハ条件又ハ期限ヲ附スルコトヲ得ス (2)前項ノ意思表示ハ双方ノ債務カ互ニ相殺ヲ為スニ適シタル始ニ遡リテ其効力 ヲ生ス 第五百七条 相殺ハ双方ノ債務ノ履行地カ異ナルトキト雖モ之ヲ為スコトヲ得但相殺 ヲ為ス当事者ハ其相手方ニ対シ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス 第五百八条 時効ニ因リテ消滅シタル債権カ其消滅以前ニ相殺ニ適シタル場合ニ於テ ハ其債権者ハ相殺ヲ為スコトヲ得 第五百九条 債務カ不法行為ニ因リテ生シタルトキハ其債務者ハ相殺ヲ以テ債権者ニ 対抗スルコトヲ得ス 第五百十条 債権カ差押ヲ禁シタルモノナルトキハ其債務者ハ相殺ヲ以テ債権者ニ対 抗スルコトヲ得ス 第五百十一条 支払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者ハ其後ニ取得シタル債権ニ依リ相殺 ヲ以テ差押債権者ニ対抗スルコトヲ得ス 第五百十二条 第四百八十八条乃至第四百九十一条ノ規定ハ相殺ニ之ヲ準用ス
第三款 更改
第五百十三条 当事者カ債務ノ要素ヲ変更スル契約ヲ為シタルトキハ其債務ハ更改ニ 因リテ消滅ス (2)条件附債務ヲ無条件債務トシ、無条件債務ニ条件ヲ附シ又ハ条件ヲ変更スル ハ債務ノ要素ヲ変更スルモノト看做ス債務ノ履行ニ代ヘテ為替手形ヲ発行スル 亦同シ 第五百十四条 債務者ノ交替ニ因ル更改ハ債権者ト新債務者トノ契約ヲ以テ之ヲ為ス コトヲ得但旧債務者ノ意思ニ反シテ之ヲ為スコトヲ得ス 第五百十五条 債権者ノ交替ニ因ル更改ハ確定日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ之 ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第五百十六条 第四百六十八条第一項ノ規定ハ債権者ノ交替ニ因ル更改ニ之ヲ準用ス 第五百十七条 更改ニ因リテ生シタル債務カ不法ノ原因ノ為メ又ハ当事者ノ知ラサル 事由ニ因リテ成立セス又ハ取消サレタルトキハ旧債務ハ消滅セス 第五百十八条 更改ノ当事者ハ旧債務ノ目的ノ限度ニ於テ其債務ノ担保ニ供シタル質 権又ハ抵当権ヲ新債務ニ移スコトヲ得但第三者カ之ヲ供シタル場合ニ於テハ其承 諾ヲ得ルコトヲ要ス
第四款 免除
第五百十九条 債権者カ債務者ニ対シテ債務ヲ免除スル意思ヲ表示シタルトキハ其債 権ハ消滅ス
第五款 混同
第五百二十条 債権及ヒ債務カ同一人ニ帰シタルトキハ其債権ハ消滅ス但其債権カ第 三者ノ権利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス

第二章 契約

第一節 総則

第一款 契約ノ成立
第五百二十一条 承諾ノ期間ヲ定メテ為シタル契約ノ申込ハ之ヲ取消スコトヲ得ス (2)申込者カ前項ノ期間内ニ承諾ノ通知ヲ受ケサルトキハ申込ハ其効力ヲ失フ 第五百二十二条 承諾ノ通知カ前条ノ期間後ニ到達シタルモ通常ノ場合ニ於テハ其期 間内ニ到達スヘカリシ時ニ発送シタルモノナルコトヲ知リ得ヘキトキハ申込者ハ 遅滞ナク相手方ニ対シテ其延著ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス但其到達前ニ遅延ノ通 知ヲ発シタルトキハ此限ニ在ラス (2)申込者カ前項ノ通知ヲ怠リタルトキハ承諾ノ通知ハ延著セサリシモノト看做 ス 第五百二十三条 遅延シタル承諾ハ申込者ニ於テ之ヲ新ナル申込ト看做スコトヲ得 第五百二十四条 承諾ノ期間ヲ定メスシテ隔地者ニ為シタル申込ハ申込者カ承諾ノ通 知ヲ受クルニ相当ナル期間之ヲ取消スコトヲ得ス 第五百二十五条 第九十七条第二項ノ規定ハ申込者カ反対ノ意思ヲ表示シ又ハ其相手 方カ死亡若クハ能力喪失ノ事実ヲ知リタル場合ニハ之ヲ適用セス 第五百二十六条 隔地者間ノ契約ハ承諾ノ通知ヲ発シタル時ニ成立ス (2)申込者ノ意思表示又ハ取引上ノ慣習ニ依リ承諾ノ通知ヲ必要トセサル場合ニ 於テハ契約ハ承諾ノ意思表示ト認ムヘキ事実アリタル時ニ成立ス 第五百二十七条 申込ノ取消ノ通知カ承諾ノ通知ヲ発シタル後ニ到達シタルモ通常ノ 場合ニ於テハ其前ニ到達スヘカリシ時ニ発送シタルモノナルコトヲ知リ得ヘキト キハ承諾者ハ遅滞ナク申込者ニ対シテ其延著ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス (2)承諾者カ前項ノ通知ヲ怠リタルトキハ契約ハ成立セサリシモノト看做ス 第五百二十八条 承諾者カ申込ニ条件ヲ附シ其他変更ヲ加ヘテ之ヲ承諾シタルトキハ 其申込ノ拒絶ト共ニ新ナル申込ヲ為シタルモノト看做ス 第五百二十九条 或行為ヲ為シタル者ニ一定ノ報酬ヲ与フヘキ旨ヲ広告シタル者ハ其 行為ヲ為シタル者ニ対シテ其報酬ヲ与フル義務ヲ負フ 第五百三十条 前条ノ場合ニ於テ広告者ハ其指定シタル行為ヲ完了スル者ナキ間ハ前 ノ広告ト同一ノ方法ニ依リテ其広告ヲ取消スコトヲ得但其広告中ニ取消ヲ為ササ ル旨ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス (2)前項ニ定メタル方法ニ依リテ取消ヲ為スコト能ハサル場合ニ於テハ他ノ方法 ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得但其取消ハ之ヲ知リタル者ニ対シテノミ其効力ヲ有 ス (3)広告者カ其指定シタル行為ヲ為スヘキ期間ヲ定メタルトキハ其取消権ヲ抛棄 シタルモノト推定ス 第五百三十一条 広告ニ定メタル行為ヲ為シタル者数人アルトキハ最初ニ其行為ヲ為 シタル者ノミ報酬ヲ受クル権利ヲ有ス (2)数人カ同時ニ右ノ行為ヲ為シタル場合ニ於テハ各平等ノ割合ヲ以テ報酬ヲ受 クル権利ヲ有ス但報酬カ其性質上分割ニ不便ナルトキ又ハ広告ニ於テ一人ノミ 之ヲ受クヘキモノトシタルトキハ抽籖ヲ以テ之ヲ受クヘキ者ヲ定ム (3)前二項ノ規定ハ広告中ニ之ニ異ナリタル意思ヲ表示シタルトキハ之ヲ適用セ ス 第五百三十二条 広告ニ定メタル行為ヲ為シタル者数人アル場合ニ於テ其優等者ノミ ニ報酬ヲ与フヘキトキハ其広告ハ応募ノ期間ヲ定メタルトキニ限リ其効力ヲ有ス (2)前項ノ場合ニ於テ応募者中何人ノ行為カ優等ナルカハ広告中ニ定メタル者之 ヲ判定ス若シ広告中ニ判定者ヲ定メサリシトキハ広告者之ヲ判定ス (3)応募者ハ前項ノ判定ニ対シテ異議ヲ述フルコトヲ得ス (4)数人ノ行為カ同等ト判定セラレタルトキハ前条第二項ノ規定ヲ準用ス
第二款 契約ノ効力
第五百三十三条 双務契約当事者ノ一方ハ相手方カ其債務ノ履行ヲ提供スルマテハ自 己ノ債務ノ履行ヲ拒ムコトヲ得但相手方ノ債務カ弁済期ニ在ラサルトキハ此限ニ 在ラス 第五百三十四条 特定物ニ関スル物権ノ設定又ハ移転ヲ以テ双務契約ノ目的ト為シタ ル場合ニ於テ其物カ債務者ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リテ滅失又ハ毀損シタ ルトキハ其滅失又ハ毀損ハ債権者ノ負担ニ帰ス (2)不特定物ニ関スル契約ニ付テハ第四百一条第二項ノ規定ニ依リテ其物カ確定 シタル時ヨリ前項ノ規定ヲ適用ス 第五百三十五条 前条ノ規定ハ停止条件附双務契約ノ目的物カ条件ノ成否未定ノ間ニ 於テ滅失シタル場合ニハ之ヲ適用セス (2)物カ債務者ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リテ毀損シタルトキハ其毀損ハ債 権者ノ負担ニ帰ス (3)物カ債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ毀損シタルトキハ債権者ハ条件成就 ノ場合ニ於テ其選択ニ従ヒ契約ノ履行又ハ其解除ヲ請求スルコトヲ得但損害賠 償ノ請求ヲ妨ケス 第五百三十六条 前二条ニ掲ケタル場合ヲ除ク外当事者双方ノ責ニ帰スヘカラサル事 由ニ因リテ債務ヲ履行スルコト能ハサルニ至リタルトキハ債務者ハ反対給付ヲ受 クル権利ヲ有セス (2)債権者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキ ハ債務者ハ反対給付ヲ受クル権利ヲ失ハス但自己ノ債務ヲ免レタルニ因リテ利 益ヲ得タルトキハ之ヲ債権者ニ償還スルコトヲ要ス 第五百三十七条 契約ニ依リ当事者ノ一方カ第三者ニ対シテ或給付ヲ為スヘキコトヲ 約シタルトキハ其第三者ハ債務者ニ対シテ直接ニ其給付ヲ請求スル権利ヲ有ス (2)前項ノ場合ニ於テ第三者ノ権利ハ其第三者カ債務者ニ対シテ契約ノ利益ヲ享 受スル意思ヲ表示シタル時ニ発生ス 第五百三十八条 前条ノ規定ニ依リテ第三者ノ権利カ発生シタル後ハ当事者ハ之ヲ変 更シ又ハ之ヲ消滅セシムルコトヲ得ス 第五百三十九条 第五百三十七条ニ掲ケタル契約ニ基因スル抗弁ハ債務者之ヲ以テ其 契約ノ利益ヲ受クヘキ第三者ニ対抗スルコトヲ得
第三款 契約ノ解除
第五百四十条 契約又ハ法律ノ規定ニ依リ当時者ノ一方カ解除権ヲ有スルトキハ其解 除ハ相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス (2)前項ノ意思表示ハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第五百四十一条 当事者ノ一方カ其債務ヲ履行セサルトキハ相手方ハ相当ノ期間ヲ定 メテ其履行ヲ催告シ若シ其期間内ニ履行ナキトキハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第五百四十二条 契約ノ性質又ハ当事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間 内ニ履行ヲ為スニ非サレハ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ 当事者ノ一方カ履行ヲ為サスシテ其時期ヲ経過シタルトキハ相手方ハ前条ノ催告 ヲ為サスシテ直チニ其契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第五百四十三条 履行ノ全部又ハ一部カ債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ不能ト為 リタルトキハ債権者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第五百四十四条 当事者ノ一方カ数人アル場合ニ於テハ契約ノ解除ハ其全員ヨリ又ハ 其全員ニ対シテノミ之ヲ為スコトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テ解除権カ当事者中ノ一人ニ付キ消滅シタルトキハ他ノ者ニ 付テモ亦消滅ス 第五百四十五条 当事者ノ一方カ其解除権ヲ行使シタルトキハ各当事者ハ其相手方ヲ 原状ニ復セシムル義務ヲ負フ但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス (2)前項ノ場合ニ於テ返還スヘキ金銭ニハ其受領ノ時ヨリ利息ヲ附スルコトヲ要 ス (3)解除権ノ行使ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス 第五百四十六条 第五百三十三条ノ規定ハ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第五百四十七条 解除権ノ行使ニ付キ期間ノ定ナキトキハ相手方ハ解除権ヲ有スル者 ニ対シ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ解除ヲ為スヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ催告スル コトヲ得若シ其期間内ニ解除ノ通知ヲ受ケサルトキハ解除権ハ消滅ス 第五百四十八条 解除権ヲ有スル者カ自己ノ行為又ハ過失ニ因リテ著シク契約ノ目的 物ヲ毀損シ若クハ返還スルコト能ハサルニ至リタルトキ又ハ加工若クハ改造ニ因 リテ之ヲ他ノ種類ノ物ニ変シタルトキハ解除権ハ消滅ス (2)契約ノ目的物カ解除権ヲ有スル者ノ行為又ハ過失ニ因ラスシテ滅失又ハ毀損 シタルトキハ解除権ハ消滅セス

第二節 贈与

第五百四十九条 贈与ハ当事者ノ一方カ自己ノ財産ヲ無償ニテ相手方ニ与フル意思ヲ 表示シ相手方カ受諾ヲ為スニ因リテ其効力ヲ生ス 第五百五十条 書面ニ依ラサル贈与ハ各当事者之ヲ取消スコトヲ得但履行ノ終ハリタ ル部分ニ付テハ此限ニ在ラス 第五百五十一条 贈与者ハ贈与ノ目的タル物又ハ権利ノ瑕疵又ハ欠缺ニ付キ其責ニ任 セス但贈与者カ其瑕疵又ハ欠缺ヲ知リテ之ヲ受贈者ニ告ケサリシトキハ此限ニ在 ラス (2)負担附贈与ニ付テハ贈与者ハ其負担ノ限度ニ於テ売主ト同シク担保ノ責ニ任 ス 第五百五十二条 定期ノ給付ヲ目的トスル贈与ハ贈与者又ハ受贈者ノ死亡ニ因リテ其 効力ヲ失フ 第五百五十三条 負担附贈与ニ付テハ本節ノ規定ノ外双務契約ニ関スル規定ヲ適用ス 第五百五十四条 贈与者ノ死亡ニ因リテ効力ヲ生スヘキ贈与ハ遺贈ニ関スル規定ニ従 フ

第三節 売買

第一款 総則
第五百五十五条 売買ハ当事者ノ一方カ或財産権ヲ相手方ニ移転スルコトヲ約シ相手 方カ之ニ其代金ヲ払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス 第五百五十六条 売買ノ一方ノ予約ハ相手方カ売買ヲ完結スル意思ヲ表示シタル時ヨ リ売買ノ効力ヲ生ス (2)前項ノ意思表示ニ付キ期間ヲ定メサリシトキハ予約者ハ相当ノ期間ヲ定メ其 期間内ニ売買ヲ完結スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ相手方ニ催告スルコトヲ得若 シ相手方カ其期間内ニ確答ヲ為ササルトキハ予約ハ其効力ヲ失フ 第五百五十七条 買主カ売主ニ手附ヲ交付シタルトキハ当事者ノ一方カ契約ノ履行ニ 著手スルマテハ買主ハ其手附ヲ抛棄シ売主ハ其倍額ヲ償還シテ契約ノ解除ヲ為ス コトヲ得 (2)第五百四十五条第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニハ之ヲ適用セス 第五百五十八条 売買契約ニ関スル費用ハ当事者双方平分シテ之ヲ負担ス 第五百五十九条 本節ノ規定ハ売買以外ノ有償契約ニ之ヲ準用ス但其契約ノ性質カ之 ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス
第二款 売買ノ効力
第五百六十条 他人ノ権利ヲ以テ売買ノ目的ト為シタルトキハ売主ハ其権利ヲ取得シ テ之ヲ買主ニ移転スル義務ヲ負フ 第五百六十一条 前条ノ場合ニ於テ売主カ其売却シタル権利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移 転スルコト能ハサルトキハ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但契約ノ当時其権利 ノ売主ニ属セサルコトヲ知リタルトキハ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得ス 第五百六十二条 売主カ契約ノ当時其売却シタル権利ノ自己ニ属セサルコトヲ知ラサ リシ場合ニ於テ其権利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキハ売主ハ 損害ヲ賠償シテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テ買主カ契約ノ当時其買受ケタル権利ノ売主ニ属セサルコト ヲ知リタルトキハ売主ハ買主ニ対シ単ニ其売却シタル権利ヲ移転スルコト能ハ サル旨ヲ通知シテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第五百六十三条 売買ノ目的タル権利ノ一部カ他人ニ属スルニ因リ売主カ之ヲ買主ニ 移転スルコト能ハサルトキハ買主ハ其足ラサル部分ノ割合ニ応シテ代金ノ滅額ヲ 請求スルコトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テ残存スル部分ノミナレハ買主カ之ヲ買受ケサルヘカリシト キハ善意ノ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 (3)代金減額ノ請求又ハ契約ノ解除ハ善意ノ買主カ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ 妨ケス 第五百六十四条 前条ニ定メタル権利ハ買主カ善意ナリシトキハ事実ヲ知リタル時ヨ リ悪意ナリシトキハ契約ノ時ヨリ一年内ニ之ヲ行使スルコトヲ要ス 第五百六十五条 数量ヲ指示シテ売買シタル物カ不足ナル場合及ヒ物ノ一部カ契約ノ 当時既ニ滅失シタル場合ニ於テ買主カ其不足又ハ滅失ヲ知ラサリシトキハ前二条 ノ規定ヲ準用ス 第五百六十六条 売買ノ目的物カ地上権、永小作権、地役権、留置権又ハ質権ノ目的 タル場合ニ於テ買主カ之ヲ知ラサリシトキハ之カ為メニ契約ヲ為シタル目的ヲ達 スルコト能ハサル場合ニ限リ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得其他ノ場合ニ於テ ハ損害賠償ノ請求ノミヲ為スコトヲ得 (2)前項ノ規定ハ売買ノ目的タル不動産ノ為メニ存セリト称セシ地役権カ存セサ リシトキ及ヒ其不動産ニ付キ登記シタル賃貸借アリタル場合ニ之ヲ準用ス (3)前二項ノ場合ニ於テ契約ノ解除又ハ損害賠償ノ請求ハ買主カ事実ヲ知リタル 時ヨリ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス 第五百六十七条 売買ノ目的タル不動産ノ上ニ存シタル先取特権又ハ抵当権ノ行使ニ 因リ買主カ其所有権ヲ失ヒタルトキハ其買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 (2)買主カ出捐ヲ為シテ其所有権ヲ保存シタルトキハ売主ニ対シテ其出捐ノ償還 ヲ請求スルコトヲ得 (3)右孰レノ場合ニ於テモ買主カ損害ヲ受ケタルトキハ其賠償ヲ請求スルコトヲ 得 第五百六十八条 強制競売ノ場合ニ於テハ買受人ハ前七条ノ規定ニ依リ債務者ニ対シ テ契約ノ解除ヲ為シ又ハ代金ノ減額ヲ請求スルコトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テ債務者カ無資力ナルトキハ買受人ハ代金ノ配当ヲ受ケタル 債権者ニ対シテ其代金ノ全部又ハ一部ノ返還ヲ請求スルコトヲ得 (3)前二項ノ場合ニ於テ債務者カ物又ハ権利ノ欠缺ヲ知リテ之ヲ申出テス又ハ債 権者カ之ヲ知リテ競売ヲ請求シタルトキハ買受人ハ其過失者ニ対シテ損害賠償 ノ請求ヲ為スコトヲ得 第五百六十九条 債権ノ売主カ債務者ノ資力ヲ担保シタルトキハ契約ノ当時ニ於ケル 資力ヲ担保シタルモノト推定ス (2)弁済期ニ至ラサル債権ノ売主カ債務者ノ将来ノ資力ヲ担保シタルトキハ弁済 ノ期日ニ於ケル資力ヲ担保シタルモノト推定ス 第五百七十条 売買ノ目的物ニ隠レタル瑕疵アリタルトキハ第五百六十六条ノ規定ヲ 準用ス但強制競売ノ場合ハ此限ニ在ラス 第五百七十一条 第五百三十三条ノ規定ハ第五百六十三条乃至第五百六十六条及ヒ前 条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第五百七十二条 売主ハ前十二条ニ定メタル担保ノ責任ヲ負ハサル旨ヲ特約シタルト キト雖モ其知リテ告ケサリシ事実及ヒ自ラ第三者ノ為メニ設定シ又ハ之ニ譲渡シ タル権利ニ付テハ其責ヲ免ルルコトヲ得ス 第五百七十三条 売買ノ目的物ノ引渡ニ付キ期限アルトキハ代金ノ支払ニ付テモ亦同 一ノ期限ヲ附シタルモノト推定ス 第五百七十四条 売買ノ目的物ノ引渡ト同時ニ代金ヲ払フヘキトキハ其引渡ノ場所ニ 於テ之ヲ払フコトヲ要ス 第五百七十五条 未タ引渡ササル売買ノ目的物カ果実ヲ生シタルトキハ其果実ハ売主 ニ属ス (2)買主ハ引渡ノ日ヨリ代金ノ利息ヲ払フ義務ヲ負フ但代金ノ支払ニ付キ期限ア ルトキハ其期限ノ到来スルマテハ利息ヲ払フコトヲ要セス 第五百七十六条 売買ノ目的ニ付キ権利ヲ主張スル者アリテ買主カ其買受ケタル権利 ノ全部又ハ一部ヲ失フ虞アルトキハ買主ハ其危険ノ限度ニ応シ代金ノ全部又ハ一 部ノ支払ヲ拒ムコトヲ得但売主カ相当ノ担保ヲ供シタルトキハ此限ニ在ラス 第五百七十七条 買受ケタル不動産ニ付キ先取特権、質権又ハ抵当権ノ登記アルトキ ハ買主ハ滌除ノ手続ヲ終ハルマテ其代金ノ支払ヲ拒ムコトヲ得但売主ハ買主ニ対 シテ遅滞ナク滌除ヲ為スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得 第五百七十八条 前二条ノ場合ニ於テ売主ハ買主ニ対シテ代金ノ供託ヲ請求スルコト ヲ得
第三款 買戻
第五百七十九条 不動産ノ売主ハ売買契約ト同時ニ為シタル買戻ノ特約ニ依リ買主カ 払ヒタル代金及ヒ契約ノ費用ヲ返還シテ其売買ノ解除ヲ為スコトヲ得但当事者カ 別段ノ意思ヲ表示セサリシトキハ不動産ノ果実ト代金ノ利息トハ之ヲ相殺シタル モノト看做ス 第五百八十条 買戻ノ期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタル トキハ之ヲ十年ニ短縮ス (2)買戻ニ付キ期間ヲ定メタルトキハ後日之ヲ伸長スルコトヲ得ス (3)買戻ニ付キ期間ヲ定メサリシトキハ五年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス 第五百八十一条 売買契約ト同時ニ買戻ノ特約ヲ登記シタルトキハ買戻ハ第三者ニ対 シテモ其効力ヲ生ス (2)登記ヲ為シタル賃借人ノ権利ハ其残期一年間ニ限リ之ヲ以テ売主ニ対抗スル コトヲ得但売主ヲ害スル目的ヲ以テ賃貸借ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス 第五百八十二条 売主ノ債権者カ第四百二十三条ノ規定ニ依リ売主ニ代ハリテ買戻ヲ 為サント欲スルトキハ買主ハ裁判所ニ於テ選定シタル鑑定人ノ評価ニ従ヒ不動産 ノ現時ノ価額ヨリ売主カ返還スヘキ金額ヲ控除シタル残額ニ達スルマテ売主ノ債 務ヲ弁済シ尚ホ余剰アルトキハ之ヲ売主ニ返還シテ買戻権ヲ消滅セシムルコトヲ 得 第五百八十三条 売主ハ期間内ニ代金及ヒ契約ノ費用ヲ提供スルニ非サレハ買戻ヲ為 スコトヲ得ス (2)買主又ハ転得者カ不動産ニ付キ費用ヲ出タシタルトキハ売主ハ第百九十六条 ノ規定ニ従ヒ之ヲ償還スルコトヲ要ス但有益費ニ付テハ裁判所ハ売主ノ請求ニ 因リ之ニ相当ノ期限ヲ許与スルコトヲ得 第五百八十四条 不動産ノ共有者ノ一人カ買戻ノ特約ヲ以テ其持分ヲ売却シタル後其 不動産ノ分割又ハ競売アリタルトキハ売主ハ買主カ受ケタル若クハ受クヘキ部分 又ハ代金ニ付キ買戻ヲ為スコトヲ得但売主ニ通知セスシテ為シタル分割及ヒ競売 ハ之ヲ似テ売主ニ対抗スルコトヲ得ス 第五百八十五条 前条ノ場合ニ於テ買主カ不動産ノ競売ノ買受人ト為リタルトキハ売 主ハ競売ノ代金及ヒ第五百八十三条ニ掲ケタル費用ヲ払ヒテ買戻ヲ為スコトヲ得 此場合ニ於テハ売主ハ其不動産ノ全部ノ所有権ヲ取得ス (2)他ノ共有者ヨリ分割ヲ請求シタルニ因リ買主カ競売ノ買受人ト為リタルトキ ハ売主ハ其持分ノミニ付キ買戻ヲ為スコトヲ得ス

第四節 交換

第五百八十六条 交換ハ当事者カ互ニ金銭ノ所有権ニ非サル財産権ヲ移転スルコトヲ 約スルニ因リテ其効力ヲ生ス (2)当事者ノ一方カ他ノ権利ト共ニ金銭ノ所有権ヲ移転スルコトヲ約シタルトキ ハ其金銭ニ付テハ売買ノ代金ニ関スル規定ヲ準用ス

第五節 消費貸借

第五百八十七条 消費貸借ハ当事者ノ一方カ種類、品等及ヒ数量ノ同シキ物ヲ以テ返 還ヲ為スコトヲ約シテ相手方ヨリ金銭其他ノ物ヲ受取ルニ其効力ヲ生ス 第五百八十八条 消費貸借ニ因ラスシテ金銭其他ノ物ヲ給付スル義務ヲ負フ者アル場 合ニ於テ当時者カ其物ヲ以テ消費貸借ノ目的ト為スコトヲ約シタルトキハ消費貸 借ハ之ニ因リテ成立シタルモノト看做ス 第五百八十九条 消費貸借ノ予約ハ爾後当事者ノ一方カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ 其効力ヲ失フ 第五百九十条 利息附ノ消費貸借ニ於テ物ニ隠レタル瑕疵アリタルトキハ貸主ハ瑕疵 ナキ物ヲ以テ之ニ代フルコトヲ要ス但損害賠償ノ請求ヲ妨ケス (2)無利息ノ消費貸借ニ於テハ借主ハ瑕疵アル物ノ価額ヲ返還スルコトヲ得但貸 主カ其瑕疵ヲ知リテ之ヲ借主ニ告ケサリシトキハ前項ノ規定ヲ準用ス 第五百九十一条 当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ貸主ハ相当ノ期間ヲ定メテ 返還ノ催告ヲ為スコトヲ得 (2)借主ハ何時ニテモ返還ヲ為スコトヲ得 第五百九十二条 借主カ第五百八十七条ノ規定ニ依リテ返還ヲ為スコト能ハサルニ至 リタルトキハ其時ニ於ケル物ノ価額ヲ償還スルコトヲ要ス但第四百二条第二項ノ 場合ハ此限ニ在ラス

第六節 使用貸借

第五百九十三条 使用貸借ハ当事者ノ一方カ無償ニテ使用及ヒ収益ヲ為シタル後返還 ヲ為スコトヲ約シテ相手方ヨリ或物ヲ受取ルニ因リテ其効力ヲ生ス 第五百九十四条 借主ハ契約又ハ其目的物ノ性質ニ因リテ定マリタル用方ニ従ヒ其物 ノ使用及ヒ収益ヲ為スコトヲ要ス (2)借主ハ貸主ノ承諾アルニ非サレハ第三者ヲシテ借用物ノ使用又ハ収益ヲ為サ シムルコトヲ得ス (3)借主カ前二項ノ規定ニ反スル使用又ハ収益ヲ為シタルトキハ貸主ハ契約ノ解 除ヲ為スコトヲ得 第五百九十五条 借主ハ借用物ノ通常ノ必要費ヲ負担ス (2)此他ノ費用ニ付テハ第五百八十三条第二項ノ規定ヲ準用ス 第五百九十六条 第五百五十一条ノ規定ハ使用貸借ニ之ヲ準用ス 第五百九十七条 借主ハ契約ニ定メタル時期ニ於テ借用物ノ返還ヲ為スコトヲ要ス (2)当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ借主ハ契約ニ定メタル目的ニ従ヒ使 用及ヒ収益ヲ終ハリタル時ニ於テ返還ヲ為スコトヲ要ス但其以前ト雖モ使用及 ヒ収益ヲ為スニ足ルヘキ期間ヲ経過シタルトキハ貸主ハ直チニ返還ヲ請求スル コトヲ得 (3)当事者カ返還ノ時期又ハ使用及ヒ収益ノ目的ヲ定メサリシトキハ貸主ハ何時 ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得 第五百九十八条 借主ハ借用物ヲ原状ニ復シテ之ニ附属セシメタル物ヲ収去スルコト ヲ得 第五百九十九条 使用貸借ハ借主ノ死亡ニ因リテ其効力ヲ失フ 第六百条 契約ノ本旨ニ反スル使用又ハ収益ニ因リテ生シタル損害ノ賠償及ヒ借主カ 出タシタル費用ノ償還ハ貸主カ返還ヲ受ケタル時ヨリ一年内ニ之ヲ請求スルコト ヲ要ス

第七節 賃貸借

第一款 総則
第六百一条 賃貸借ハ当事者ノ一方カ相手方ニ或物ノ使用及ヒ収益ヲ為サシムルコト ヲ約シ相手方カ之ニ其賃金ヲ払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス 第六百二条 処分ノ能力又ハ権限ヲ有セサル者カ賃貸借ヲ為ス場合ニ於テハ其賃貸借 ハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス 一 樹木ノ栽植又ハ伐採ヲ目的トスル山林ノ賃貸借ハ十年 二 其他ノ土地ノ賃貸借ハ五年 三 建物ノ賃貸借ハ三年 四 動産ノ賃貸借ハ六个月 第六百三条 前条ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間満了前土地ニ付テハ一年内 建物ニ付テハ三个月内動産ニ付テハ一个月内ニ其更新ヲ為スコトヲ要ス 第六百四条 賃貸借ノ存続期間ハ二十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ以 テ賃貸借ヲ為シタルトキハ其期間ハ之ヲ二十年ニ短縮ス (2)前項ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得但更新ノ時ヨリ二十年ヲ超ユルコトヲ得 ス
第二款 賃貸借ノ効力
第六百五条 不動産ノ賃貸借ハ之ヲ登記シタルトキハ爾後其不動産ニ付キ物権ヲ取得 シタル者ニ対シテモ其効力ヲ生ス 第六百六条 賃貸人ハ賃貸物ノ使用及ヒ収益ニ必要ナル修繕ヲ為ス義務ヲ負フ (2)賃貸人カ賃貸物ノ保存ニ必要ナル行為ヲ為サント欲スルトキハ賃借人ハ之ヲ 拒ムコトヲ得ス 第六百七条 賃貸人カ賃借人ノ意思ニ反シテ保存行為ヲ為サント欲スル場合ニ於テ之 カ為メ賃借人カ賃借ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサルトキハ賃借人ハ契約ノ 解除ヲ為スコトヲ得 第六百八条 賃借人カ賃借物ニ付キ賃貸人ノ負担ニ属スル必要費ヲ出タシタルトキハ 賃貸人ニ対シテ直チニ其償還ヲ請求スルコトヲ得 (2)賃借人カ有益費ヲ出タシタルトキハ賃貸人ハ賃貸借終了ノ時ニ於テ第百九十 六条第二項ノ規定ニ従ヒ其償還ヲ為スコトヲ要ス但裁判所ハ賃貸人ノ請求ニ因 リ之ニ相当ノ期限ヲ許与スルコトヲ得 第六百九条 収益ヲ目的トスル土地ノ賃借人カ不可抗力ニ因リ借賃ヨリ少キ収益ヲ得 タルトキハ其収益ノ額ニ至ルマテ借賃ノ減額ヲ請求スルコトヲ得但宅地ノ賃貸借 ニ付テハ此限ニ在ラス 第六百十条 前条ノ場合ニ於テ賃借人カ不可抗力ニ因リ引続キ二年以上借賃ヨリ少キ 収益ヲ得タルトキハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第六百十一条 賃借物ノ一部カ賃借人ノ過失ニ因ラスシテ滅失シタルトキハ賃借人ハ 其滅失シタル部分ニ応シテ借賃ノ減額ヲ請求スルコトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テ残存スル部分ノミニテハ賃借人カ賃借ヲ為シタル目的ヲ達 スルコト能ハサルトキハ賃借人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第六百十二条 賃借人ハ賃貸人ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ譲渡シ又ハ賃借物ヲ転 貸スルコトヲ得ス (2)賃借人カ前項ノ規定ニ反シ第三者ヲシテ賃借物ノ使用又ハ収益ヲ為サシメタ ルトキハ賃貸人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第六百十三条 賃借人カ適法ニ賃借物ヲ転貸シタルトキハ転借人ハ賃貸人ニ対シテ直 接ニ義務ヲ負フ此場合ニ於テハ借賃ノ前払ヲ以テ賃貸人ニ対抗スルコトヲ得ス (2)前項ノ規定ハ賃貸人カ賃借人ニ対シテ其権利ヲ行使スルコトヲ妨ケス 第六百十四条 借賃ハ動産、建物及ヒ宅地ニ付テハ毎月末ニ其他ノ土地ニ付テハ毎年 末ニ之ヲ払フコトヲ要ス但収穫季節アルモノニ付テハ其季節後遅滞ナク之ヲ払フ コトヲ要ス 第六百十五条 賃借物カ修繕ヲ要シ又ハ賃借物ニ付キ権利ヲ主張スル者アルトキハ賃 借人ハ遅滞ナク之ヲ賃貸人ニ通知スルコトヲ要ス但賃貸人カ既ニ之ヲ知レルトキ ハ此限ニ在ラス 第六百十六条 第五百九十四条第一項、第五百九十七条第一項及ヒ第五百九十八条ノ 規定ハ賃貸借ニ之ヲ準用ス
第三款 賃貸借ノ終了
第六百十七条 当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約 ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ賃貸借ハ解約申入ノ後左ノ期間ヲ経過シタ ルニ因リテ終了ス 一 土地ニ付テハ一年 二 建物ニ付テハ三个月 三 貸席及ヒ動産ニ付テハ一日 (2)収穫季節アル土地ノ賃貸借ニ付テハ其季節後次ノ耕作ニ著手スル前ニ解約ノ 申入ヲ為スコトヲ要ス 第六百十八条 当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メタルモ其一方又ハ各自カ其期間内ニ解約 ヲ為ス権利ヲ留保シタルトキハ前条ノ規定ヲ準用ス 第六百十九条 賃貸借ノ期間満了ノ後賃借人カ賃借物ノ使用又ハ収益ヲ継続スル場合 ニ於テ賃貸人カ之ヲ知リテ異議ヲ述ヘサルトキハ前賃貸借ト同一ノ条件ヲ以テ更 ニ賃貸借ヲ為シタルモノト推定ス但各当事者ハ第六百十七条ノ規定ニ依リテ解約 ノ申入ヲ為スコトヲ得 (2)前賃貸借ニ付キ当事者カ担保ヲ供シタルトキハ其担保ハ期間ノ満了ニ因リテ 消滅ス但敷金ハ此限ニ在ラス 第六百二十条 賃貸借ヲ解除シタル場合ニ於テハ其解除ハ将来ニ向テノミ其効力ヲ生 ス但当事者ノ一方ニ過失アリタルトキハ之ニ対スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケス 第六百二十一条 賃借人カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ賃貸借ニ期間ノ定アルトキト 雖モ賃貸人又ハ破産管財人ハ第六百十七条ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ為スコト ヲ得此場合ニ於テハ各当事者ハ相手方ニ対シ解約ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ 請求スルコトヲ得ス 第六百二十二条 第六百条ノ規定ハ賃貸借ニ之ヲ準用ス

第八節 雇傭

第六百二十三条 雇傭ハ当事者ノ一方カ相手方ニ対シテ労務ニ服スルコトヲ約シ相手 方カ之ニ其報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス 第六百二十四条 労務者ハ其約シタル労務ヲ終ハリタル後ニ非サレハ報酬ヲ請求スル コトヲ得ス (2)期間ヲ以テ定メタル報酬ハ其期間ノ経過シタル後之ヲ請求スルコトヲ得 第六百二十五条 使用者ハ労務者ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ第三者ニ譲渡スコト ヲ得ス (2)労務者ハ使用者ノ承諾アルニ非サレハ第三者ヲシテ自己ニ代ハリテ労務ニ服 セシムルコトヲ得ス (3)労務者カ前項ノ規定ニ反シ第三者ヲシテ労務ニ服セシメタルトキハ使用者ハ 契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第六百二十六条 雇傭ノ期間カ五年ヲ超過シ又ハ当事者ノ一方若クハ第三者ノ終身間 継続スヘキトキハ当事者ノ一方ハ五年ヲ経過シタル後何時ニテモ契約ノ解除ヲ為 スコトヲ得但此期間ハ商工業見習者ノ雇傭ニ付テハ之ヲ十年トス (2)前項ノ規定ニ依リテ契約ノ解除ヲ為サント欲スルトキハ三个月前ニ其予告ヲ 為スコトヲ要ス 第六百二十七条 当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約 ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ雇傭ハ解約申入ノ後二週間ヲ経過シタルニ 因リテ終了ス (2)期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ解約ノ申入ハ次期以後ニ対シテ之ヲ 為スコトヲ得但其申入ハ当期ノ前半ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス (3)六个月以上ノ期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ前項ノ申入ハ三个月前 ニ之ヲ為スコトヲ要ス 第六百二十八条 当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メタルトキト雖モ巳ムコトヲ得サル事由ア ルトキハ各当事者ハ直チニ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但其事由カ当事者ノ一方ノ 過失ニ因リテ生シタルトキハ相手方ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス 第六百二十九条 雇傭ノ期間満了ノ後労務者カ引続キ其労務ニ服スル場合ニ於テ使用 者カ之ヲ知リテ異議ヲ述ヘサルトキハ前雇傭ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ雇傭ヲ為シ タルモノト推定ス但各当事者ハ第六百二十七条ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ為ス コトヲ得 (2)前雇傭ニ付キ当事者カ担保ヲ供シタルトキハ其担保ハ期間ノ満了ニ因リテ消 滅ス但身元保証金ハ此限ニ在ラス 第六百三十条 第六百二十条ノ規定ハ雇傭ニ之ヲ準用ス 第六百三十一条 使用者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ雇傭ニ期間ノ定アルトキト雖 モ労務者又ハ破産管財人ハ第六百二十七条ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ為スコト ヲ得此場合ニ於テハ各当事者ハ相手方ニ対シ解約ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ 請求スルコトヲ得ス

第九節 請負

第六百三十二条 請負ハ当事者ノ一方カ或仕事ヲ完成スルコトヲ約シ相手方カ其仕事 ノ結果ニ対シテ之ニ報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス 第六百三十三条 報酬ハ仕事ノ目的物ノ引渡ト同時ニ之ヲ与フルニトヲ要ス但物ノ引 渡ヲ要セサルトキハ第六百二十四条第一項ノ規定ヲ準用ス 第六百三十四条 仕事ノ目的物ニ瑕疵アルトキハ注文者ハ請負人ニ対シ相当ノ期限ヲ 定メテ其瑕疵ノ修補ヲ請求スルコトヲ得但瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補 カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス (2)注文者ハ瑕疵ノ修補ニ代ヘ又ハ其修補ト共ニ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得 此場合ニ於テハ第五百三十三条ノ規定ヲ準用ス 第六百三十五条 仕事ノ目的物ニ瑕疵アリテ之カ為メニ契約ヲ為シタル目的ヲ達スル コト能ハサルトキハ注文者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但建物其他土地ノ工作物 ニ付テハ此限ニ在ラス 第六百三十六条 前二条ノ規定ハ仕事ノ目的物ノ瑕疵カ注文者ヨリ供シタル材料ノ性 質又ハ注文者ノ与ヘタル指図ニ因リテ生シタルトキハ之ヲ適用セス但請負人カ其 材料又ハ指図ノ不適当ナルコトヲ知リテ之ヲ告ケサリシトキハ此限ニ在ラス 第六百三十七条 前三条ニ定メタル瑕疵修補又ハ損害賠償ノ請求及ヒ契約ノ解除ハ仕 事ノ目的物ヲ引渡シタル時ヨリ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス (2)仕事ノ目的物ノ引渡ヲ要セサル場合ニ於テハ前項ノ期間ハ仕事終了ノ時ヨリ 之ヲ起算ス 第六百三十八条 土地ノ工作物ノ請負人ハ其工作物又ハ地盤ノ瑕疵ニ付テハ引渡ノ後 五年間其担保ノ責ニ任ス但此期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ金属造ノ工作物ニ付 テハ之ヲ十年トス (2)工作物カ前項ノ瑕疵ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ注文者ハ其滅失又ハ 毀損ノ時ヨリ一年内ニ第六百三十四条ノ権利ヲ行使スルコトヲ要ス 第六百三十九条 第六百三十七条及ヒ前条第一項ノ期間ハ普通ノ時効期間内ニ限リ契 約ヲ以テ之ヲ伸長スルコトヲ得 第六百四十条 請負人ハ第六百三十四条及ヒ第六百三十五条ニ定メタル担保ノ責任ヲ 負ハサル旨ヲ特約シタルトキト雖モ其知リテ告ケサリシ事実ニ付テハ其責ヲ免ル ルコトヲ得ス 第六百四十一条 請負人カ仕事ヲ完成セサル間ハ注文者ハ何時ニテモ損害ヲ賠償シテ 契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 第六百四十二条 注文者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ請負人又ハ破産管財人ハ契約 ノ解除ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ請負人ハ其既ニ為シタル仕事ノ報酬及ヒ其 報酬中ニ包含セサル費用ニ付キ財団ノ配当ニ加入スルコトヲ得 (2)前項ノ場合ニ於テハ各当事者ハ相手方ニ対シ解約ニ因リテ生シタル損害ノ賠 償ヲ請求スルコトヲ得ス

第十節 委任

第六百四十三条 委任ハ当事者ノ一方カ法律行為ヲ為スコトヲ相手方ニ委託シ相手方 カ之ヲ承諾スルニ因リテ其効力ヲ生ス 第六百四十四条 受任者ハ委任ノ本旨ニ従ヒ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ委任事務ヲ 処理スル義務ヲ負フ 第六百四十五条 受任者ハ委任者ノ請求アルトキハ何時ニテモ委任事務処理ノ状況ヲ 報告シ又委任終了ノ後ハ遅滞ナク其顛末ヲ報告スルコトヲ要ス 第六百四十六条 受任者ハ委任事務ヲ処理スルニ当リテ受取リタル金銭其他ノ物ヲ委 任者ニ引渡スコトヲ要ス其収取シタル果実亦同シ (2)受任者カ委任者ノ為メニ自己ノ名ヲ以テ取得シタル権利ハ之ヲ委任者ニ移転 スルコトヲ要ス 第六百四十七条 受任者カ委任者ニ引渡スヘキ金額又ハ其利益ノ為メニ用ユヘキ金額 ヲ自己ノ為メニ消費シタルトキハ其消費シタル日以後ノ利息ヲ払フコトヲ要ス尚 ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス 第六百四十八条 受任者ハ特約アルニ非サレハ委任者ニ対シテ報酬ヲ請求スルコトヲ 得ス (2)受任者カ報酬ヲ受クヘキ場合ニ於テハ委任履行ノ後ニ非サレハ之ヲ請求スル コトヲ得ス但期間ヲ以テ報酬ヲ定メタルトキハ第六百二十四条第二項ノ規定ヲ 準用ス (3)委任カ受任者ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リ其履行ノ半途ニ於テ終了シタ ルトキハ受任者ハ其既ニ為シタル履行ノ割合ニ応シテ報酬ヲ請求スルコトヲ得 第六百四十九条 委任事務ヲ処理スルニ付キ費用ヲ要スルトキハ委任者ハ受任者ノ請 求ニ因リ其前払ヲ為スコトヲ要ス 第六百五十条 受任者カ委任事務ヲ処理スルニ必要ト認ムヘキ費用ヲ出タシタルトキ ハ委任者ニ対シテ其費用及ヒ支出ノ日以後ニ於ケル其利息ノ償還ヲ請求スルコト ヲ得 (2)受任者カ委任事務ヲ処理スルニ必要ト認ムヘキ債務ヲ負担シタルトキハ委任 者ヲシテ自己ニ代ハリテ其弁済ヲ為サシメ又其債務カ弁済期ニ在ラサルトキハ 相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得 (3)受任者カ委任事務ヲ処理スル為メ自己ニ過失ナクシテ損害ヲ受ケタルトキハ 委任者ニ対シテ其賠償ヲ請求スルコトヲ得 第六百五十一条 委任ハ各当事者ニ於テ何時ニテモ之ヲ解除スルコトヲ得 (2)当事者ノ一方カ相手方ノ為メニ不利ナル時期ニ於テ委任ヲ解除シタルトキハ 其損害ヲ賠償スルコトヲ要ス但已ムコトヲ得サル事由アリタルトキハ此限ニ在 ラス 第六百五十二条 第六百二十条ノ規定ハ委任ニ之ヲ準用ス 第六百五十三条 委任ハ委任者又ハ受任者ノ死亡又ハ破産ニ因リテ終了ス受任者カ禁 治産ノ宣告ヲ受ケタルトキ亦同シ 第六百五十四条 委任終了ノ場合ニ於テ急迫ノ事情アルトキハ受任者、其相続人又ハ 法定代理人ハ委任者、其相続人又ハ法定代理人カ委任事務ヲ処理スルコトヲ得ル ニ至ルマテ必要ナル処分ヲ為スコトヲ要ス 第六百五十五条 委任終了ノ事由ハ其委任者ニ出テタルト受任者ニ出テタルトヲ問ハ ス之ヲ相手方ニ通知シ又ハ相手方カ之ヲ知リタルトキニ非サレハ之ヲ以テ其相手 方ニ対抗スルコトヲ得ス 第六百五十六条 本節ノ規定ハ法律行為ニ非サル事務ノ委託ニ之ヲ準用ス

第十一節 寄託

第六百五十七条 寄託ハ当事者ノ一方カ相手方ノ為メニ保管ヲ為スコトヲ約シテ或物 ヲ受取ルニ因リテ其効力ヲ生ス 第六百五十八条 受寄者ハ寄託者ノ承諾アルニ非サレハ受寄物ヲ使用シ又ハ第三者ヲ シテ之ヲ保管セシムルコトヲ得ス (2)受寄者カ第三者ヲシテ受寄物ヲ保管セシムルコトヲ得ル場合ニ於テハ第百五 条及ヒ第百七条第二項ノ規定ヲ準用ス 第六百五十九条 無報酬ニテ寄託ヲ受ケタル者ハ受寄物ノ保管ニ付キ自己ノ財産ニ於 ケルト同一ノ注意ヲ為ス責ニ任ス 第六百六十条 寄託物ニ付キ権利ヲ主張スル第三者カ受寄者ニ対シテ訴ヲ提起シ又ハ 差押ヲ為シタルトキハ受寄者ハ遅滞ナク其事実ヲ寄託者ニ通知スルコトヲ要ス 第六百六十一条 寄託者ハ寄託物ノ性質又ハ瑕疵ヨリ生シタル損害ヲ受寄者ニ賠償ス ルコトヲ要ス但寄託者カ過失ナクシテ其性質若クハ瑕疵ヲ知ラサリシトキ又ハ受 寄者カ之ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 第六百六十二条 当事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メタルトキト雖モ寄託者ハ何時ニテ モ其返還ヲ請求スルコトヲ得 第六百六十三条 当事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ受寄者ハ何時ニテモ 其返還ヲ為スコトヲ得 (2)返還時期ノ定アルトキハ受寄者ハ已ムコトヲ得サル事由アルニ非サレハ其期 限前ニ返還ヲ為スコトヲ得ス 第六百六十四条 寄託物ノ返還ハ其保管ヲ為スヘキ場所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス但 受寄者カ正当ノ事由ニ因リテ其物ヲ転置シタルトキハ其現在ノ場所ニ於テ之ヲ返 還スルコトヲ得 第六百六十五条 第六百四十六条乃至第六百四十九条及ヒ第六百五十条第一項、第二 項ノ規定ハ寄託ニ之ヲ準用ス 第六百六十六条 受寄者カ契約ニ依リ受寄物ヲ消費スルコトヲ得ル場合ニ於テハ消費 貸借ニ関スル規定ヲ準用ス但契約ニ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ寄託者ハ何時 ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得

第十二節 組合

第六百六十七条 組合契約ハ各当事者カ出資ヲ為シテ共同ノ事業ヲ営ムコトヲ約スル ニ因リテ其効力ヲ生ス (2)出資ハ労務ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得 第六百六十八条 各組合員ノ出資其他ノ組合財産ハ総組合員ノ共有ニ属ス 第六百六十九条 金銭ヲ以テ出資ノ目的ト為シタル場合ニ於テ組合員カ其出資ヲ為ス コトヲ怠リタルトキハ其利息ヲ払フ外尚ホ損害ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス 第六百七十条 組合ノ業務執行ハ組合員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス (2)組合契約ヲ以テ業務ノ執行ヲ委任シタル者数人アルトキハ其過半数ヲ以テ之 ヲ決ス (3)組合ノ常務ハ前二項ノ規定ニ拘ハラス各組合員又ハ各業務執行者之ヲ専行ス ルコトヲ得但其結了前ニ他ノ組合員又ハ業務執行者カ異議ヲ述ヘタルトキハ此 限ニ在ラス 第六百七十一条 組合ノ業務ヲ執行スル組合員ニハ第六百四十四条乃至第六百五十条 ノ規定ヲ準用ス 第六百七十二条 組合契約ヲ以テ一人又ハ数人ノ組合員ニ業務ノ執行ヲ委任シタルト キハ其組合員ハ正当ノ事由アルニ非サレハ辞任ヲ為スコトヲ得ス又解任セラルル コトナシ (2)正当ノ事由ニ因リテ解任ヲ為スニハ他ノ組合員ノ一致アルコトヲ要ス 第六百七十三条 各組合員ハ組合ノ業務ヲ執行スル権利ヲ有セサルトキト雖モ其業務 及ヒ組合財産ノ状況ヲ検査スルコトヲ得 第六百七十四条 当事者カ損益分配ノ割合ヲ定メサリシトキハ其割合ハ各組合員ノ出 資ノ価額ニ応シテ之ヲ定ム (2)利益又ハ損失ニ付テノミ分配ノ割合ヲ定メタルトキハ其割合ハ利益及ヒ損失 ニ共通ナルモノト推定ス 第六百七十五条 組合ノ債権者ハ其債権発生ノ当時組合員ノ損失分担ノ割合ヲ知ラサ リシトキハ各組合員ニ対シ均一部分ニ付キ其権利ヲ行フコトヲ得 第六百七十六条 組合員カ組合財産ニ付キ其持分ヲ処分シタルトキハ其処分ハ之ヲ以 テ組合及ヒ組合ト取引ヲ為シタル第三者ニ対抗スルコトヲ得ス (2)組合員ハ清算前ニ組合財産ノ分割ヲ求ムルコトヲ得ス 第六百七十七条 組合ノ債務者ハ其債務ト組合員ニ対スル債権トヲ相殺スルコトヲ得 ス 第六百七十八条 組合契約ヲ以テ組合ノ存続期間ヲ定メサリシトキ又ハ或組合員ノ終 身間組合ノ存続スヘキコトヲ定メタルトキハ各組合員ハ何時ニテモ脱退ヲ為スコ トヲ得但已ムコトヲ得サル事由アル場合ヲ除ク外組合ノ為メ不利ナル時期ニ於テ 之ヲ為スコトヲ得ス (2)組合ノ存続期間ヲ定メタルトキト雖モ各組合員ハ已ムコトヲ得サル事由アル トキハ脱退ヲ為スコトヲ得 第六百七十九条 前条ニ掲ケタル場合ノ外組合員ハ左ノ事由ニ因リテ脱退ス 一 死亡 二 破産 三 禁治産 四 除名 第六百八十条 組合員ノ除名ハ正当ノ事由アル場合ニ限リ他ノ組合員ノ一致ヲ以テ之 ヲ為スコトヲ得但除名シタル組合員ニ其旨ヲ通知スルニ非サレハ之ヲ以テ其組合 員ニ対抗スルコトヲ得ス 第六百八十一条 脱退シタル組合員ト他ノ組合員トノ間ノ計算ハ脱退ノ当時ニ於ケル 組合財産ノ状況ニ従ヒ之ヲ為スコトヲ要ス (2)脱退シタル組合員ノ持分ハ其出資ノ種類如何ヲ問ハス金銭ヲ以テ之ヲ払戻ス コトヲ得 (3)脱退ノ当時ニ於テ未タ結了セサル事項ニ付テハ其結了後ニ計算ヲ為スコトヲ 得 第六百八十二条 組合ハ其目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能ニ因リテ解散ス 第六百八十三条 已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各組合員ハ組合ノ解散ヲ請求スル コトヲ得 第六百八十四条 第六百二十条ノ規定ハ組合契約ニ之ヲ準用ス 第六百八十五条 組合カ解散シタルトキハ清算ハ総組合員共同ニテ又ハ其選任シタル 者ニ於テ之ヲ為ス (2)清算人ノ選任ハ総組合員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス 第六百八十六条 清算人数人アルトキハ第六百七十条ノ規定ヲ準用ス 第六百八十七条 組合契約ヲ以テ組合員中ヨリ清算人ヲ選任シタルトキハ第六百七十 二条ノ規定ヲ準用ス 第六百八十八条 清算人ノ職務及ヒ権限ニ付テハ第七十八条ノ規定ヲ準用ス (2)残余財産ハ各組合員ノ出資ノ価額ニ応シテ之ヲ分割ス

第十三節 終身定期金

第六百八十九条 終身定期金契約ハ当事者ノ一方カ自己、相手方又ハ第三者ノ死亡ニ 至ルマテ定期ニ金銭其他ノ物ヲ相手方又ハ第三者ニ給付スルコトヲ約スルニ因リ テ其効力ヲ生ス 第六百九十条 終身定期金ハ日割ヲ以テ之ヲ計算ス 第六百九十一条 定期金債務者カ定期金ノ元本ヲ受ケタル場合ニ於テ其定期金ノ給付 ヲ怠リ又ハ其他ノ義務ヲ履行セサルトキハ相手方ハ元本ノ返還ヲ請求スルコトヲ 得但既ニ受取リタル定期金ノ中ヨリ其元本ノ利息ヲ控除シタル残額ヲ債務者ニ返 還スルコトヲ要ス (2)前項ノ規定ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス 第六百九十二条 第五百三十三条ノ規定ハ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第六百九十三条 死亡カ定期金債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ生シタルトキハ裁 判所ハ債権者又ハ其相続人ノ請求ニ因リ相当ノ期間債権ノ存続スルコトヲ宣告ス ルコトヲ得 (2)前項ノ規定ハ第六百九十一条ニ定メタル権利ノ行使ヲ妨ケス 第六百九十四条 本節ノ規定ハ終身定期金ノ遺贈ニ之ヲ準用ス

第十四節 和解

第六百九十五条 和解ハ当事者カ互ニ譲歩ヲ為シテ其間ニ存スル争ヲ止ムルコトヲ約 スルニ因リテ其効力ヲ生ス 第六百九十六条 当事者ノ一方カ和解ニ依リテ争ノ目的タル権利ヲ有スルモノト認メ ラレ又ハ相手方カ之ヲ有セサルモノト認メラレタル場合ニ於テ其者カ従来此権利 ヲ有セサリシ確証又ハ相手方カ之ヲ有セシ確証出テタルトキハ其権利ハ和解ニ因 リテ其者ニ移転シ又ハ消滅シタルモノトス

第三章 事務管理

第六百九十七条 義務ナクシテ他人ノ為メニ事務ノ管理ヲ始メタル者ハ其事務ノ性質 ニ従ヒ最モ本人ノ利益ニ適スヘキ方法ニ依リテ其管理ヲ為スコトヲ要ス (2)管理者カ本人ノ意思ヲ知リタルトキ又ハ之ヲ推知スルコトヲ得ヘキトキハ其 意思ニ従ヒテ管理ヲ為スコトヲ要ス 第六百九十八条 管理者カ本人ノ身体、名誉又ハ財産ニ対スル急迫ノ危害ヲ免レシム ル為メニ其事務ノ管理ヲ為シタルトキハ悪意又ハ重大ナル過失アルニ非サレハ之 ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス 第六百九十九条 管理者ハ其管理ヲ始メタルコトヲ遅滞ナク本人ニ通知スルコトヲ要 ス但本人カ既ニ之ヲ知レルトキハ此限ニ在ラス 第七百条 管理者ハ本人、其相続人又ハ法定代理人カ管理ヲ為スコトヲ得ルニ至ルマ テ其管理ヲ継続スルコトヲ要ス但其管理ノ継続カ本人ノ意思ニ反シ又ハ本人ノ為 メニ不利ナルコト明カナルトキハ此限ニ在ラス 第七百一条 第六百四十五条乃至第六百四十七条ノ規定ハ事務管理ニ之ヲ準用ス 第七百二条 管理者カ本人ノ為メニ有益ナル費用ヲ出タシタルトキハ本人ニ対シテ其 償還ヲ請求スルコトヲ得 (2)管理者カ本人ノ為メニ有益ナル債務ヲ負担シタルトキハ第六百五十条第二項 ノ規定ヲ準用ス (3)管理者カ本人ノ意思ニ反シテ管理ヲ為シタルトキハ本人カ現ニ利益ヲ受クル 限度ニ於テノミ前二項ノ規定ヲ適用ス

第四章 不当利得

第七百三条 法律上ノ原因ナクシテ他人ノ財産又ハ労務ニ因リ利益ヲ受ケ之カ為メニ 他人ニ損失ヲ及ホシタル者ハ其利益ノ存スル限度ニ於テ之ヲ返還スル義務ヲ負フ 第七百四条 悪意ノ受益者ハ其受ケタル利益ニ利息ヲ附シテ之ヲ返還スルコトヲ要ス 尚ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス 第七百五条 債務ノ弁済トシテ給付ヲ為シタル者カ其当時債務ノ存在セサルコトヲ知 リタルトキハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス 第七百六条 債務者カ弁済期ニ在ラサル債務ノ弁済トシテ給付ヲ為シタルトキハ其給 付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス但債務者カ錯誤ニ因リテ其給付ヲ為シ タルトキハ債権者ハ之ニ因リテ得タル利益ヲ返還スルコトヲ要ス 第七百七条 債務者ニ非サル者カ錯誤ニ因リテ債務ノ弁済ヲ為シタル場合ニ於テ債権 者カ善意ニテ証書ヲ毀滅シ、担保ヲ抛棄シ又ハ時効ニ因リテ其債権ヲ失ヒタルト キハ弁済者ハ返還ノ請求ヲ為スコトヲ得ス (2)前項ノ規定ハ弁済者ヨリ債務者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス 第七百八条 不法ノ原因ノ為メ給付ヲ為シタル者ハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求ス ルコトヲ得ス但不法ノ原因カ受益者ニ付テノミ存シタルトキハ此限ニ在ラス

第五章 不法行為

第七百九条 故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル 損害ヲ賠償スル責ニ任ス 第七百十条 他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ 問ハス前条ノ規定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ 其賠償ヲ為スコトヲ要ス 第七百十一条 他人ノ生命ヲ害シタル者ハ被害者ノ父母、配偶者及ヒ子ニ対シテハ其 財産権ヲ害セラレサリシ場合ニ於テモ損害ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス 第七百十二条 未成年者カ他人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テ其行為ノ責任ヲ弁識スル ニ足ルヘキ知能ヲ具ヘサリシトキハ其行為ニ付キ賠償ノ責ニ任セス 第七百十三条 心神喪失ノ間ニ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ賠償ノ責ニ任セス但故意又 ハ過失ニ因リテ一時ノ心神喪失ヲ招キタルトキハ此限ニ在ラス 第七百十四条 前二条ノ規定ニ依リ無能力者ニ責任ナキ場合ニ於テ之ヲ監督スヘキ法 定ノ義務アル者ハ其無能力者カ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但監督 義務者カ其義務ヲ怠ラサリシトキハ此限ニ在ラス (2)監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス 第七百十五条 或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三 者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但使用者カ被用者ノ選任及ヒ其事業ノ監督 ニ付キ相当ノ注意ヲ為シタルトキ又ハ相当ノ注意ヲ為スモ損害カ生スヘカリシト キハ此限ニ在ラス (2)使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス (3)前二項ノ規定ハ使用者又ハ監督者ヨリ被用者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス 第七百十六条 注文者ハ請負人カ其仕事ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ 任セス但注文又ハ指図ニ付キ注文者ニ過失アリタルトキハ此限ニ在ラス 第七百十七条 土地ノ工作物ノ設置又ハ保存ニ瑕疵アルニ因リテ他人ニ損害ヲ生シタ ルトキハ其工作物ノ占有者ハ被害者ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス但占有者カ損害 ノ発生ヲ防止スルニ必要ナル注意ヲ為シタルトキハ其損害ハ所有者之ヲ賠償スル コトヲ要ス (2)前項ノ規定ハ竹木ノ栽植又ハ支持ニ瑕疵アル場合ニ之ヲ準用ス (3)前二項ノ場合ニ於テ他ニ損害ノ原因ニ付キ其責ニ任スヘキ者アルトキハ占有 者又ハ所有者ハ之ニ対シテ求償権ヲ行使スルコトヲ得 第七百十八条 動物ノ占有者ハ其動物カ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但動 物ノ種類及ヒ性質ニ従ヒ相当ノ注意ヲ以テ其保管ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス (2)占有者ニ代ハリテ動物ヲ保管スル者モ亦前項ノ責ニ任ス 第七百十九条 数人カ共同ノ不法行為ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ各自連帯 ニテ其賠償ノ責ニ任ス共同行為者中ノ孰レカ其損害ヲ加ヘタルカヲ知ルコト能ハ サルトキ亦同シ (2)教唆者及ヒ幇助者ハ之ヲ共同行為者ト看做ス 第七百二十条 他人ノ不法行為ニ対シ自己又ハ第三者ノ権利ヲ防衛スル為メ已ムコト ヲ得スシテ加害行為ヲ為シタル者ハ損害賠償ノ責ニ任セス但被害者ヨリ不法行為 ヲ為シタル者ニ対スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケス (2)前項ノ規定ハ他人ノ物ヨリ生シタル急迫ノ危難ヲ避クル為メ其物ヲ毀損シタ ル場合ニ之ヲ準用ス 第七百二十一条 胎児ハ損害賠償ノ請求権ニ付テハ既ニ生マレタルモノト看做ス 第七百二十二条 第四百十七条ノ規定ハ不法行為ニ因ル損害ノ賠償ニ之ヲ準用ス (2)被害者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損害賠償ノ額ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌 スルコトヲ得 第七百二十三条 他人ノ名誉ヲ毀損シタル者ニ対シテハ裁判所ハ被害者ノ請求ニ因リ 損害賠償ニ代ヘ又ハ損割賠償ト共ニ名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分ヲ命スルコト ヲ得 第七百二十四条 不法行為ニ因ル損害賠償ノ請求権ハ被害者又ハ其法定代理人カ損害 及ヒ加害者ヲ知リタル時ヨリ三年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス不法 行為ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタルトキ亦同シ

第四編 親族

第一章 総則

第七百二十五条 左に掲げる者は、これを親族とする。 一 六親等内の血族 二 配偶者 三 三親等内の姻族 第七百二十六条 親等は、親族間の世数を数えて、これを定める。 (2) 傍系親族の親等を定めるには、その一人又はその配偶者から同一の始祖に さかのぼり、その始祖から他の一人に下るまでの世数による。 第七百二十七条 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血 族間におけると同一の親族関係を生ずる。

第七百二十八条 姻族関係は、離婚によつて終了する

2) 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様である。

第729条

第七百二十九条 養子、その配偶者、直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は、離縁によつて終了する。

明治民法

729条  族関係及ヒ前条ノ親族関係ハ離婚ニ因リテ止ム

夫婦ノ一方カ死亡シタル場合ニ於テ生存配偶者カ其家ヲ去リタルトキ亦同シ

第730条

第七百三十条 直系血族及び同居の親族は、互に扶け合わなければならない。

第二章 婚姻

第一節 婚姻の成立

第一款 婚姻の要件
第731条

第七百三十一条 男は、満十八歳に、女は、満十六歳にならなければ、婚姻をするこ とができない。

第732条

第七百三十二条 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

第733条

第七百三十三条 女は、前婚の解消又は取消の日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。

(2) 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日か、前項の規定を適用しない。

第734条

第七百三十四条 直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。但し、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。

(2) 第八百十七条の九の規定によつて親族関係が終了した後も、前項と同様とする。

第735条

第七百三十五条 直系姻族の間では、婚姻をすることができない。第七百二十八条又は第八百十七条の九の規定によつて姻族関係が終了した後も、同様である。

第736条

第七百三十六条 養子、その配偶者、直系卑属又はその配偶者と養親又はその直系尊 属との間では、第七百二十九条の規定によつて親族関係が終了した後でも、婚姻 をすることができない。

第737条

第七百三十七条 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。

(2) 父母の一方が同意しないときは、他の一方の同意だけで足りる。父母の一 方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないと きも、同様である。

第738条

第七百三十八条 禁治産者が婚姻をするには、その後見人の同意を要しない。

第739条

第七百三十九条 婚姻は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによつ て、その効力を生ずる。

(2) 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上から、口頭又は署名し た書面で、これをしなければならない。

第740条

第七百四十条 婚姻の届出は、その婚姻が第七百三十一条乃至第七百三十七条及び前 条第二項の規定その他の法令に違反しないことを認めた後でなければ、これを受 理することができない。

第741条

第七百四十一条 外国に在る日本人間で婚姻をしようとするときは、その国に駐在す る日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる。この場合には、前 二条の規定を準用する。

第二款 婚姻の無効及び取消
第七百四十二条 婚姻は、左の場合に限り、無効とする。 一 人違その他の事由によつて当事者間に婚姻をする意思がないとき。 二 当事者が婚姻の届出をしないとき。但し、その届出が第七百三十九条第二項 に掲げる条件を欠くだけであるときは、婚姻は、これがために、その効力を 妨げられることがない。 第七百四十三条 婚姻は、第七百四十四条乃至第七百四十七条の規定によらなけれ ば、これを取り消すことができない。 第七百四十四条 第七百三十一条乃至第七百三十六条の規定に違反した婚姻は、各当 事者、その親族又は検察官から、その取消を裁判所に請求することができる。但 し、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、これを請求することができない。 (2) 第七百三十二条又は第七百三十三条の規定に違反した婚姻については、当 事者の配偶者又は前配偶者も、その取消を請求することができる。 第七百四十五条 第七百三十一条の規定に違反した婚姻は、不適齢者が適齢に達した ときは、その取消を請求することができない。 (2) 不適齢者は、適齢に達した後、なお三箇月間は、その婚姻の取消を請求す ることができる。但し、適齢に達した後に追認をしたときは、この限りでな い。 第七百四十六条 第七百三十三条の規定に違反した婚姻は、前婚の解消若しくは取消 の日から六箇月を経過し、又は女が再婚後に懐胎したときは、その取消を請求す ることができない。 第七百四十七条 詐欺又は強迫によつて婚姻をした者は、その婚姻の取消を裁判所に 請求することができる。 (2) 前項の取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免かれた後三 箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。 第七百四十八条 婚姻の取消は、その効力を既往に及ぼさない。 (2) 婚姻の当事その取消の原因があることを知らなかつた当事者が、婚姻によ つて財産を得たときは、現に利益を受ける限度において、その返還をしなけれ ばならない。 (3) 婚姻の当事その取消の原因があることを知つていた当事者は、婚姻によつ て得た利益の全部を返還しなければならない。なお、相手方が善意であつたと きは、これに対して損害を賠償する責に任ずる。 第七百四十九条 第七百六十六条乃至第七百六十九条の規定は、婚姻の取消につきこ れを準用する。

第二節 婚姻の効力

第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。 第七百五十一条 夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復する ことができる。 (2) 第七百六十九条の規定は、前項及び第七百二十八条第二項の場合にこれを 準用する。 第七百五十二条 夫婦は同居し、互に協力し扶助しなければならない。 第七百五十三条 未成年者が婚姻をしたときは、これによつて成年に達したものとみ なす。 第七百五十四条 夫婦間で契約をしたときは、その契約は、婚姻中、何時でも、夫婦 の一方からこれを取り消すことができる。但し、第三者の権利を害することがで きない。

第三節 夫婦財産制

第一款 総則
第七百五十五条 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかつ たときは、その財産関係は、次の款に定めるところによる。 第七百五十六条 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにそ の登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができな い。 第七百五十七条 削除 第七百五十八条 夫婦の財産関係は、婚姻届出の後は、これを変更することができな い。 (2) 夫婦の一方が、他の一方の財産を管理する場合において、管理が失当であ つたことによつてその財産を危うくしたときは、他の一方は、自らその管理を することを家庭裁判所に請求することができる。 (3) 共有財産については、前項の請求とともにその分割を請求することができ る。 第七百五十九条 前条の規定又は契約の結果によつて、管理者を変更し、又は共有財 産の分割をしたときは、その登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者 に対抗することができない。
第二款 法定財産制
第七百六十条 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ず る費用を分担する。 第七百六十一条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、 他の一方は、これによつて生じた債務について、連帯してその責に任ずる。但 し、第三者に対し責に任じない旨を予告した場合は、この限りでない。 第七百六十二条 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産 は、その特有財産とする。 (2) 夫婦のいずれに属するか明かでない財産は、その共有に属するものと推定 する。

第四節 離婚

第一款 協議上の離婚
第七百六十三条 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。 第七百六十四条 第七百三十八条、第七百三十九条及び第七百四十七条の規定は、協 議上の離婚にこれを準用する。 第七百六十五条 離婚の届出は、その離婚が第七百三十九条第二項及び第八百十九条 第一項の規定その他の法令に違反しないことを認めた後でなければ、これを受理 することができない。 (2) 離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときでも、離婚は、これが ために、その効力を妨げられることがない。 第七百六十六条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護 について必要な事項は、その協議でこれを定める。協議が調わないとき、又は協 議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。 (2) 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をす べき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。 (3) 前二項の規定は、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生ずること がない。 第七百六十七条 婚姻によつて氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によつて婚姻前 の氏に復する。 (2) 前項の規定によつて婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から三箇月 以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによつて、離婚の際に称して いた氏を称することができる。 第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求 することができる。 (2) 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、 又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に 代わる処分を請求することができる。但し、離婚の時から二年を経過したとき は、この限りでない。 (3) 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によつて得た財産 の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額 及び方法を定める。 第七百六十九条 婚姻によつて氏を改めた夫又は妻が、第八百九十七条第一項の権利 を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、そ の権利を承継すべき者を定めなければならない。 (2) 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、前項 の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。
第二款 裁判上の離婚
第七百七十条 夫婦の一方は、左の場合に限り、離婚の訴を提起することができる。 一 配偶者に不貞な行為があつたとき。 二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。 三 配偶者の生死が三年以上明かでないとき。 四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込がないとき。 五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 (2) 裁判所は、前項第一号乃至第四号の事由があるときでも、一切の事情を考 慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができ る。 第七百七十一条 第七百六十六条乃至第七百六十九条の規定は、裁判上の離婚にこれ を準用する。

第三章 親子

第一節 実子

第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。 (2) 婚姻成立の日から二百日後又は婚姻の解消若しくは取消の日から三百日以 内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。 第七百七十三条 第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場 合において、前条の規定によつてその子の父を定めることができないときは、裁 判所が、これを定める。 第七百七十四条 第七百七十二条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認 することができる。 第七百七十五条 前条の否認権は、子又は親権を行う母に対する訴によつてこれを行 う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければな らない。 第七百七十六条 夫が、子の出生後において、その嫡出であることを承認したとき は、その否認権を失う。 第七百七十七条 否認の訴は、夫が子の出生を知つた時から一年以内にこれを提起し なければならない。 第七百七十八条 夫が禁治産者であるときは、前条の期間は、禁治産の取消があつた 後夫が子の出生を知つた時から、これを起算する。 第七百七十九条 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。 第七百八十条 認知をするには、父又は母が無能力者であるときでも、その法定代理 人の同意を要しない。 第七百八十一条 認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによつてこれを する。 (2) 認知は、違言によつても、これをすることができる。 第七百八十二条 成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができな い。 第七百八十三条 父は、胎内に在る子でも、これを認知することができる。この場合 には、母の承諾を得なければならない。 (2) 父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、これを認 知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるとき は、その承諾を得なければならない。 第七百八十四条 認知は、出生の時にさかのぼつてその効力を生ずる。但し、第三者 が既に取得した権利を害することができない。 第七百八十五条 認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。 第七百八十六条 子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張すること ができる。 第七百八十七条 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴を提起 することができる。但し、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この 限りでない。 第七百八十八条 第七百六十六条の規定は、父が認知する場合にこれを準用する。 第七百八十九条 父が認知した子は、その父母の婚姻によつて嫡出子たる身分を取得 する。 (2) 婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子たる身分を取得す る。 (3) 前二項の規定は、子が既に死亡した場合にこれを準用する。 第七百九十条 嫡出である子は、父母の氏を称する。但し、子の出生前に父母が離婚 したときは、離婚の際における父母の氏を称する。 (2) 嫡出でない子は、母の氏を称する。 第七百九十一条 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を 得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによつて、その父又は母の氏を 称することができる。 (2) 父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子 は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法の定めるところによ り届け出ることによつて、その父母の氏を称することができる。 (3) 子が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わつて、前二 項の行為をすることができる。 (4) 前三項の規定によつて氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年 以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによつて、従前の氏に復する ことができる。

第二節 養子

第一款 縁組の要件
第七百九十二条 成年に達した者は、養子をすることができる。 第七百九十三条 尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。 第七百九十四条 後見人が被後見人を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なけれ ばならない。後見人の任務が終了した後、まだ管理の計算が終わらない間も、同 様である。 第七百九十五条 配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしな ければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者が その意思を表示することができない場合は、この限りでない。 第七百九十六条 配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければ ならない。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示 することができない場合は、この限りでない。 第七百九十七条 養子となる者が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これ に代わつて、縁組の承諾をすることができる。 (2) 法定代理人が前項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をす べき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。 第七百九十八条 未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならな い。但し、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない。 第七百九十九条 第七百三十八条及び第七百三十九条の規定は、縁組にこれを準用す る。 第八百条 縁組の届出は、その縁組が第七百九十二条乃至前条の規定その他の法令に 違反しないことを認めた後でなければ、これを受理することができない。 第八百一条 外国に在る日本人間で縁組をしようとするときは、その国に駐在する日 本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる。この場合には、第七百 三十九条及び前条の規定を準用する。
第二款 縁組の無効及び取消
第八百二条 縁組は左の場合に限り、無効とする。 一 人違その他の事由によつて当事者間に縁組をする意思がないとき。 二 当事者が縁組の届出をしないとき。但し、その届出が第七百三十九条第二項 に掲げる条件を欠くだけであるときは、縁組は、これがために、その効力を 妨げられることがない。 第八百三条 縁組は、第八百四条乃至第八百八条の規定によらなければ、これを取り 消すことができない。 第八百四条 第七百九十二条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人か ら、その取消を裁判所に請求することができる。但し、養親が、成年に達した後 六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。 第八百五条 第七百九十三条の規定に違反した縁組は、各当事者又はその親族から、 その取消を裁判所に請求することができる。 第八百六条 第七百九十四条の規定に違反した縁組は、養子又はその実方の親族か ら、その取消を裁判所に請求することができる。但し、管理の計算が終わつた 後、養子が追認をし、又は六箇月を経過したときは、この限りでない。 (2) 追認は、養子が、成年に達し、又は能力を回復した後、これをしなけれ ば、その効力がない。 (3) 養子が、成年に達せず、又は能力を回復しない間に、管理の計算が終わつ た場合には、第一項但書の期間は、養子が、成年に達し、又は能力を回復した 時から、これを起算する。 第八百六条の二 第七百九十六条の規定に違反した縁組は、縁組の同意をしていない 者から、その取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その者が、縁組 を知つた後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。 (2) 詐欺又は強迫によつて第七百九十六条の同意をした者は、その縁組の取消 しを裁判所に請求することができる。ただし、その者が、詐欺を発見し、若し くは強迫を免れた後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでな い。 第八百六条の三 第七百九十七条第二項の規定に違反した縁組は、縁組の同意をして いない者から、その取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その者が 追認をしたとき、又は養子が十五歳に達した後六箇月を経過し、若しくは追認を したときは、この限りでない。 (2) 前条第二項の規定は、詐欺又は強迫によつて第七百九十七条第二項の同意 をした者にこれを準用する。 第八百七条 第七百九十八条の規定に違反した縁組は、養子、その実方の親族又は養 子に代わつて縁組の承諾をした者から、その取消を裁判所に請求することができ る。但し、養子が成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この 限りでない。 第八百八条 第七百四十七条及び第七百四十八条の規定は、縁組にこれを準用する。 但し、第七百四十七条第二項の期間は、これを六箇月とする。 (2) 第七百六十九条及び第八百十六条の規定は、縁組の取消にこれを準用す る。
第三款 縁組の効力
第八百九条 養子は、縁組の日から、養親の嫡出子たる身分を取得する。 第八百十条 養子は、養親の氏を称する。ただし、婚姻によつて氏を改めた者につい ては、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。
第四款 離縁
第八百十一条 縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。 (2) 養子が十五歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその 法定代理人となるべき者との協議でこれをする。 (3) 前項の場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、そ の一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。 (4) 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭 裁判所は、前項の父若しくは母又は養親の請求によつて、協議に代わる審判を することができる。 (5) 第二項の法定代理人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、養子の親 族その他の利害関係人の請求によつて、養子の離縁後にその後見人となるべき 者を選任する。 (6) 縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするとき は、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。 第八百十一条の二 養親が夫婦である場合において未成年者と離縁をするには、夫婦 がともにしなければならない。ただし、夫婦の一方がその意思を表示することが できないときは、この限りでない。 第八百十二条 第七百三十八条、第七百三十九条、第七百四十七条及び第八百八条第 一項但書の規定は、協議上の離縁にこれを準用する。 第八百十三条 離縁の届出は、その離縁が第七百三十九条第二項、第八百十一条及び 第八百十一条の二の規定その他の法令に違反しないことを認めた後でなければ、 これを受理することができない。 (2) 離縁の届出が前項の規定に違反して受理されたときでも、離縁は、これが ために、その効力を妨げられることがない。 第八百十四条 縁組の当事者の一方は、次の場合に限り、離縁の訴えを提起すること ができる。 一 他の一方から悪意で遺棄されたとき。 二 他の一方の生死が三年以上明らかでないとき。 三 その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。 (2) 第七百七十条第二項の規定は、前項第一号及び第二号の場合にこれを準用 する。 第八百十五条 養子が満十五歳に達しない間は、第八百十一条の規定によつて養親と 離縁の協議をすることができる者から、又はこれに対して、離縁の訴を提起する ことができる。 第八百十六条 養子は、離縁によつて縁組前の氏に復する。ただし、配偶者とともに 養子をした養親の一方のみと離縁をした場合は、この限りでない。 (2) 縁組の日から七年を経過した後に前項の規定によつて縁組前の氏に復した 者は、離縁の日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることに よつて、離縁の際に称していた氏を称することができる。 第八百十七条 第七百六十九条の規定は、離縁にこれを準用する。
第五款 特別養子
第八百十七条の二 家庭裁判所は、次条から第八百十七条の七までに定める要件があ るときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組 (この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。 (2) 前項に規定する請求をするには、第七百九十四条又は第七百九十八条の許 可を得ることを要しない。 第八百十七条の三 養親となる者は、配偶者のある者でなければならない。 (2) 夫婦の一方は、他の一方が養親とならないときは、養親となることができ ない。ただし、夫婦の一方が他の一方の嫡出である子(特別養子縁組以外の縁 組による養子を除く。)の養親となる場合は、この限りでない。 第八百十七条の四 二十五歳に達しない者は、養親となることができない。ただし、 養親となる夫婦の一方が二十五歳に達していない場合においても、その者が二十 歳に達しているときは、この限りでない。 第八百十七条の五 第八百十七条の二に規定する請求の時に六歳に達している者は、 養子となることができない。ただし、その者が八歳未満であつて六歳に達する前 から引き続き養親となる者に監護されている場合は、この限りでない。 第八百十七条の六 特別養子縁組の成立には、養子となる者の父母の同意がなければ ならない。ただし、父母がその意思を表示することができない場合又は父母によ る虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合 は、この限りでない。 第八百十七条の七 特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又 は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に 必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。 第八百十七条の八 特別養子縁組を成立させるには、養親となる者が養子となる者を 六箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。 (2) 前項の期間は、第八百十七条の二に規定する請求の時から起算する。ただ し、その請求前の監護の状況が明らかであるときは、この限りでない。 第八百十七条の九 養子と実方の父母及びその血族との親族関係は、特別養子縁組に よつて終了する。ただし、第八百十七条の三第二項ただし書に規定する他の一方 及びその血族との親族関係については、この限りでない。 第八百十七条の十 次の各号のいずれにも該当する場合において、養子の利益のため 特に必要があると認めるときは、家庭裁判所は、養子、実父母又は検察官の請求 により、特別養子縁組の当事者を離縁させることができる。 一 養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があるこ と。 二 実父母が相当の監護をすることができること。 (2) 離縁は、前項の規定による場合のほか、これをすることができない。 第八百十七条の十一 養子と実父母及びその血族との間においては、離縁の日から、 特別養子縁組によつて終了した親族関係と同一の親族関係を生ずる。

第四章 親権

第一節 総則

第八百十八条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。 (2) 子が養子であるときは、養親の親権に服する。 (3) 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同してこれを行う。但し、父母の一方 が親権を行うことができないときは、他の一方が、これを行う。 第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と 定めなければならない。 (2) 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。 (3) 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母がこれを行う。但し、 子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。 (4) 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに 限り、父がこれを行う。 (5) 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることがで きないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によつて、協議に代わる審判を することができる。 (6) 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請 求によつて、親権者を他の一方に変更することができる。

第二節 親権の効力

第八百二十条 親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。 第八百二十一条 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければな らない。 第八百二十二条 親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁 判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。 (2) 子を懲戒場に入れる期間は、六箇月以下の範囲内で家庭裁判所がこれを定 める。但し、この期間は、親権を行う者の請求によつて、何時でも、これを短 縮することができる。 第八百二十三条 子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができな い。 (2) 親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又は これを制限することができる。 第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、又、その財産に関する法律行 為についてその子を代表する。但し、その子の行為を目的とする債務を生ずべき 場合には、本人の同意を得なければならない。 第八百二十五条 父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名 義で、子に代わつて法律行為をし、又は子のこれをすることに同意したときは、 その行為は、他の一方の意思に反したときでも、これがために、その効力を妨げ られることがない。但し、相手方が悪意であつたときは、この限りでない。 第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子と利益が相反する行為については、親 権を行う者は、その子のために、特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求 しなければならない。 (2) 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他 の子との利益が相反する行為については、その一方のために、前項の規定を準 用する。 第八百二十七条 親権を行う者は、自己のためにすると同一の注意を以て、その管理 権を行わなければならない。 第八百二十八条 子が成年に達したときは、親権を行つた者は、遅滞なくその管理の 計算をしなければならない。但し、その子の養育及び財産の管理の費用は、その 子の財産の収益とこれを相殺したものとみなす。 第八百二十九条 前条但書の規定は、無償で子に財産を与える第三者が反対の意思を 表示したときは、その財産については、これを適用しない。 第八百三十条 無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理 させない意思を表示したときは、その財産は、父又は母の管理に属しないものと する。 (2) 前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において、第三者が管 理者を指定しなかつたときは、家庭裁判所は、子、その親族又は検察官の請求 によつて、その管理者を選任する。 (3) 第三者が管理者を指定したときでも、その管理者の権限が消滅し、又はこ れを改任する必要がある場合において、第三者が更に管理者を指定しないとき も、前項と同様である。 (4) 第二十七条乃至第二十九条の規定は、前二項の場合にこれを準用する。 第八百三十一条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、親権を行う者が子の 財産を管理する場合及び前条の場合にこれを準用する。 第八百三十二条 親権を行つた者とその子との間に財産の管理について生じた債権 は、その管理権が消滅した時から五年間これを行わないときは、時効によつて消 滅する。 (2) 子がまだ成年に達しない間に管理権が消滅した場合において子に法定代理 人がないときは、前項の期間は、その子が成年に達し、又は後任の法定代理人 が就職した時から、これを起算する。 第八百三十三条 親権を行う者は、その親権に服する子に代わつて親権を行う。

第三節 親権の喪失

第八百三十四条 父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭 裁判所は、子の親族又は検察官の請求によつて、その親権の喪失を宣告すること ができる。 第八百三十五条 親権を行う父又は母が、管理が失当であつたことによつてその子の 財産を危うくしたときは、家庭裁判所は、子の親族又は、検察官の請求によつ て、その管理権の喪失を宣告することができる。 第八百三十六条 前二条に定める原因が止んだときは、家庭裁判所は、本人又はその 親族の請求によつて、失権の宣告を取り消すことができる。 第八百三十七条 親権を行う父又は母は、やむを得ない事由があるときは、家庭裁判 所の許可を得て、親権又は管理権を辞することができる。 (2) 前項の事由が止んだときは、父又は母は、家庭裁判所の許可を得て、親権 又は管理権を回復することができる。

第五章 後見

第一節 後見の開始

第八百三十八条 後見は、左の場合に開始する。 一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有 しないとき。 二 禁治産の宣告があつたとき。

第二節 後見の機関

第一款 後見人
第八百三十九条 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、後見人を指定す ることができる。但し、管理権を有しない者は、この限りでない。 (2) 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規 定によつて後見人の指定をすることができる。 第八百四十条 夫婦の一方が禁治産の宣告を受けたときは、他の一方は、その後見人 となる。 第八百四十一条 前二条の規定によつて後見人となるべき者がないときは、家庭裁判 所は、被後見人の親族その他の利害関係人の請求によつて、後見人を選任する。 後見人が欠けたときも同様である。 第八百四十二条 父若しくは母が親権若しくは管理権を辞し、後見人がその任務を辞 し、又は父若しくは母が親権を失つたことによつて後見人を選任する必要が生じ たときは、その父、母又は後見人は、遅滞なく後見人の選任を家庭裁判所に請求 しなければならない。 第八百四十三条 後見人は、一人でなければならない。 第八百四十四条 後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、そ の任務を辞することができる。 第八百四十五条 後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事 由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人の親族若しくは検察官の 請求によつて、又は職権で、これを解任することができる。 第八百四十六条 左に掲げる者は、後見人となることができない。 一 未成年者 二 禁治産者及び準禁治産者 三 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人又は保佐人 四 破産者 五 被後見人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族 六 行方の知れない者 第八百四十七条 第八百四十条乃至前条の規定は、保佐人にこれを準用する。 (2) 保佐人又はその代表する者と準禁治産者との利益が相反する行為について は、保佐人は、臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
第二款 後見監督人
第八百四十八条 後見人を指定することができる者は、遺言で後見監督人を指定する ことができる。 第八百四十九条 前条の規定によつて指定した後見監督人がない場合において必要が あると認めるときは、家庭裁判所は、被後見人の親族又は後見人の請求によつ て、後見監督人を選任することができる。後見監督人の欠けた場合も、同様であ る。 第八百五十条 後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、後見監督人となることが できない。 第八百五十一条 後見監督人の職務は、左の通りである。 一 後見人の事務を監督すること。 二 後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。 三 急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること。 四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後 見人を代表すること。 第八百五十二条 第六百四十四条及び第八百四十四条乃至第八百四十六条の規定は、 後見監督人にこれを準用する。

第三節 後見の事務

第八百五十三条 後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に著手し、一箇月以内 に、その調査を終わり、且つ、その目録を調製しなければならない。但し、この 期間は、家庭裁判所において、これを伸長することができる。 (2) 財産の調査及びその目録の調製は、後見監督人があるときは、その立会を 以てこれをしなければ、その効力がない。 第八百五十四条 後見人は、目録の調製が終わるまでは、急迫の必要がある行為のみ をする権限を有する。但し、これを善意の第三者に対抗することができない。 第八百五十五条 後見人が、被後見人に対し、債権を有し、又は債務を負う場合にお いて、後見監督人があるときは、財産の調査に著手する前に、これを後見監督人 に申し出なければならない。 (2) 後見人が、被後見人に対し債権を有することを知つてこれを申し出ないと きは、その債権を失う。 第八百五十六条 前三条の規定は、後見人が就職した後被後見人が包括財産を取得し た場合にこれを準用する。 第八百五十七条 未成年者の後見人は、第八百二十条乃至第八百二十三条に規定する 事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。但し、親権を行う者が 定めた教育の方法及び居所を変更し、未成年者を懲戒場に入れ、営業を許可し、 その許可を取り消し、又はこれを制限するには、後見監督人があるときは、その 同意を得なければならない。 第八百五十八条 禁治産者の後見人は、禁治産者の資力に応じて、その療養看護に努 めなければならない。 (2) 禁治産者を精神病院その他これに準ずる施設に入れるには、家庭裁判所の 許可を得なければならない。 第八百五十九条 後見人は、被後見人の財産を管理し、又、その財産に関する法律行 為について被後見人を代表する。 (2) 第八百二十四条但書の規定は、前項の場合にこれを準用する。 第八百六十条 第八百二十六条の規定は、後見人にこれを準用する。但し、後見監督 人がある場合は、この限りでない。 第八百六十一条 後見人は、その就職の初において、被後見人の生活、教育又は療養 看護及び財産の管理のために毎年費すべき金額を予定しなければならない。 第八百六十二条 家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によつて、 被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。 第八百六十三条 後見監督人又は家庭裁判所は、何時でも、後見人に対し後見の事務 の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財 産の状況を調査することができる。 (2) 家庭裁判所は、後見監督人、被後見人の親族その他の利害関係人の請求に よつて、又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な 処分を命ずることができる。 第八百六十四条 後見人が、被後見人に代わつて営業若しくは第十二条第一項に掲げ る行為をし、又は未成年者がこれをすることに同意するには、後見監督人がある ときは、その同意を得なければならない。但し、元本の領収については、この限 りでない。 第八百六十五条 後見人が、前条の規定に違反してし、又は同意を与えた行為は、被 後見人又は後見において、これを取り消すことができる。この場合には、第十九 条の規定を準用する。 (2) 前項の規定は、第百二十一条乃至第百二十六条の規定の適用を妨げない。 第八百六十六条 後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り 受けたときは、被後見人は、これを取り消すことができる。この場合には、第十 九条の規定を準用する。 (2) 前項の規定は、第百二十一条乃至第百二十六条の規定の適用を妨げない。 第八百六十七条 後見人は、未成年者に代わつて親権を行う。 (2) 第八百五十三条乃至第八百五十七条及び第八百六十一条乃至前条の規定 は、前項の場合にこれを準用する。 第八百六十八条 親権を行う者が管理権を有しない場合には、後見人は、財産に関す る権限のみを有する。 第八百六十九条 第六百四十四条及び第八百三十条の規定は、後見にこれを準用す る。

第四節 後見の終了

第八百七十条 後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以 内にその管理の計算をしなければならない。但し、この期間は、家庭裁判所にお いて、これを伸長することができる。 第八百七十一条 後見の計算は、後見監督人があるときは、その立会を以てこれをす る。 第八百七十二条 未成年者が成年に達した後後見の計算の終了前に、その者と後見人 又はその相続人との間にした契約は、その者においてこれを取り消すことができ る。その者が後見人又はその相続人に対してした単独行為も、同様である。 (2) 第十九条及び第百二十一条乃至第百二十六条の規定は、前項の場合にこれ を準用する。 第八百七十三条 後見人が被後見人に返還すべき金額及び被後見人が後見人に返還す べき金額には、後見の計算が終了した時から、利息をつけなければならない。 (2) 後見人が自己のために被後見人の金銭を消費したときは、その消費の時か ら、これに利息をつけなければならない。なお、損害があつたときは、その賠 償の責に任ずる。 第八百七十四条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、後見にこれを準用す る。 第八百七十五条 第八百三十二条に定める時効は、後見人又は後見監督人と被後見人 との間において後見に関して生じた債権にこれを準用する。 (2) 前項の時効は、第八百七十二条の規定によつて法律行為を取リ消した場合 には、その取消の時から、これを起算する。 第八百七十六条 前条第一項の規定は、保佐人と準禁治産者との間にこれを準用す る。

第六章 扶養

第877条

第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互に扶養をする義務がある。

(2) 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合の外、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

(3) 前項の規定による審判があつた後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所 は、その審判を取り消すことができる。

第878条

第八百七十八条 扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者 の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある 場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するに足りないとき、扶養を 受けるべき者の順序についても、同様である。

第八百七十九条 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又 は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その 他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。 第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若 しくは方法について協議又は審判があつた後事情に変更を生じたときは、家庭裁 判所は、その協議又は審判の変更の取消をすることができる。 第八百八十一条 扶養を受ける権利は、これを処分することができない。

第五編 相続

第一章 総則

第882条

第八百八十二条 相続は、死亡によつて開始する。

第883条

第八百八十三条 相続は、被相続人の住所において開始する。

第884条

第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害さ れた事実を知つた時から五年間これを行わないときは、時効によつて消滅する。 相続開始の時から二十年を経過したときも同様である。

第885条

第八百八十五条 相続財産に関する費用は、その財産の中から、これを支弁する。但 し、相続人の過失によるものは、この限りでない。

(2) 前項の費用は、遺留分権利者が贈与の減殺によつて得た財産を以て、これ を支弁することを要しない。

第二章 相続人

第886条

第八百八十六条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。

(2) 前項の規定は 胎児が死体で生まれたときは、これを適用しない。

第887条

第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。

(2) 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の 規定に該当し、若しくは廃除によつて、その相続権を失つたときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。

但し、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

(3) 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によつて、その代襲相続権を失つた場合にこれを準用する。

第888条

第八百八十八条 削除

第889条

第八百八十九条 左に掲げる者は、第八百八十七条の規定によつて相続人となるべき者がない場合には、左の順位に従つて相続人となる。

第一 直系尊属。但し、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。

第二 兄弟姉妹

(2) 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合にこれを準用する。

第890条

第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、前三条 の規定によつて相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

第891条

第八百九十一条 左に掲げる者は、相続人となることができない。

一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位に在る者を死亡する に至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

二 被相続人の殺害されたことを知つて、これを告発せず、又は告訴しなかつた 者。但し、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若し くは直系血族であつたときは、この限りでない。

三 詐欺又は強迫によつて、被相続人が相続に関する遺言をし、これを取り消し、又はこれを変更することを妨げた者

四 詐欺又は強迫によつて、被相続人に相続に関する遺言をさせ、これを取り消 させ、又はこれを変更させた者

五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

第892条

第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しく はこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があつ たときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することがで きる。 第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺 言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく家庭裁判所に廃除の請求をし なければならない。この場合において、廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼ つてその効力を生ずる。 第八百九十四条 被相続人は、何時でも、推定相続人の廃除の取消を家庭裁判所に請 求することができる。 (2) 前条の規定は、廃除の取消にこれを準用する。 第八百九十五条 推定相続人の廃除又はその取消の請求があつた後その審判が確定す る前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請 求によつて、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。廃除の遺言 があつたときも、同様である。 (2) 家庭裁判所が管理人を選任した場合には、第二十七条乃至第二十九条の規 定を準用する。

第三章 相続の効力

第一節 総則

第896条

第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利 義務を承継する。但し、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

第897条

第八百九十七条 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に 従つて祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継する。但し、被相続人の指定に従つて祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が、これを承継する。

(2) 前項本文の場合において慣習が明かでないときは、前項の権利を承継すべ き者は、家庭裁判所がこれを定める。

第886条

第八百九十八条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。 第八百九十九条 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

第二節 相続分

第900条

第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、左の規定に従う。

一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各 二分の一とする。

二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。

三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。

四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。但し、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同 じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

第901条

第九百一条 第八百八十七条第二項又は第三項の規定によつて相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであつたものと同じである。但し、直系 卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであつた部分につい て、前条の規定に従つてその相続分を定める。

(2) 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定によつて兄弟姉妹の子が相続 人となる場合にこれを準用する。

第902条

第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。但し、被相続 人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。

(2) 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定によつてこれを定める。

第903条

第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のた め若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始 の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみな し、前三条の規定によつて算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控 除し、その残額を以てその者の相続分とする。

(2) 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるとき は、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

(3) 被相続人が前二項の規定と異なつた意思を表示したときは、その意思表示 は、遺留分に関する規定に反しない範囲内で、その効力を有する。

第904条

第九百四条 前条に掲げる贈与の価額は、受贈者の行為によつて、その目的たる財産 が滅失し、又はその価格の増減があつたときでも、相続開始の当時なお原状のま まで在るものとみなしてこれを定める。

第904条の2

第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の 給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加に つき特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した 財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続 財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定によつて算定した相続分に寄 与分を加えた額をもつてその者の相続分とする。

(2) 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭 裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び 程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

(3) 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の 価額を控除した額を超えることができない。

(4) 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があつた場合又は第 九百十条に規定する場合にすることができる。

第905条

第九百五条 共同相続人の一人が分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、 他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けること ができる。

(2) 前項に定める権利は、一箇月以内にこれを行わなければならない。

第三節 遺産の分割

第906条

第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年 齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

第907条

第九百七条 共同相続人は、第九百八条の規定によつて被相続人が遺言で禁じた場合 を除く外、何時でも、その協議で、遺産の分割をすることができる。

(2) 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をす ることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求する ことができる。

(3) 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定め て、遺産の全部又は一部について、分割を禁ずることができる。

第908条

第九百八条 被相続人は、遺言で分、割の方法を定め、若しくはこれを定めることを 第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間内分割を禁ずること ができる。

第909条

第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずる。但し、 第三者の権利を害することができない。

第910条

第九百十条 相続の開始後認知によつて相続人となつた者が遺産の分割を請求しよう とする場合において、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしたときは、価 額のみによる支払の請求権を有する。

第911条

第九百十一条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続 分に応じて担保の責に任ずる。

第912条

第九百十二条 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が分割によつて 受けた債権について、分割の当時における債務者の資力を担保する。

(2) 弁済期に至らない債権及び停止条件附の債権については、各共同相続人 は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。

第913条

第九百十三条 担保の責に任ずる共同相続人中に償還をする資力のない者があるとき は、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、各〃 その相続分に応じてこれを分担する。但し、求償者に過失があるときは、他の共 同相続人に対して分担を請求することができない。

第914条

第九百十四条 前三条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、こ れを適用しない。

第四章 相続の承認及び放棄

第一節 総則

第915条

第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があつたことを知つた時から三箇 月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。但し、この 期間は、利害関係人又は検察官の請求によつて、家庭裁判所において、これを伸 長することができる。

(2) 相続人は、承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができ る。

第916条

第九百十六条 相続人が承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間 は、その者の相続人が自己のために相続の開始があつたことを知つた時から、こ れを起算する。

第917条

第九百十七条 相続人が無能力者であるときは、第九百十五条第一項の期間は、その 法定代理人が無能力者のために相続の開始があつたことを知つた時から、これを 起算する。 第九百十八条 相続人は、その固有財産におけると同一の注意を以て、相続財産を管 理しなければならない。但し、承認又は放棄をしたときは、この限りでない。 (2) 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によつて、何時でも、相続財 産の保存に必要な処分を命ずることができる。 (3) 家庭裁判所が管理人を選任した場合には、第二十七条乃至第二十九条の規 定を準用する。 第九百十九条 承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、これを取り消す ことができない。 (2) 前項の規定は、第一編及び前編の規定によつて承認又は放棄の取消をする ことを妨げない。但し、その取消権は、追認をすることができる時から六箇月 間これを行わないときは、時効によつて消滅する。承認又は放棄の時から十年 を経過したときも、同様である。 (3) 前項の規定によつて限定承認又は放棄の取消をしようとする者は、その旨 を家庭裁判所に申述しなければならない。

第二節 承認

第一款 単純承認
第九百二十条 相続人が単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承認す る。 第九百二十一条 左に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。但し、保存行為及び第六 百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。 二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は放棄をしなかつたと き。 三 相続人が、限定承認又は放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を 隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかつた とき。但し、その相続人が放棄をしたことによつて相続人となつた者が承認 をした後は、この限りでない。
第二款 限定承認
第九百二十二条 相続人は、相続によつて得た財産の限度においてのみ被相続人の債 務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、承認をすることができる。 第九百二十三条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同し てのみこれをすることができる。 第九百二十四条 相続人が限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期 間内に、財産目録を調製してこれを家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申 述しなければならない。 第九百二十五条 相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利 義務は、消滅しなかつたものとみなす。 第九百二十六条 限定承認者は、その固有財産におけると同一の注意を以て、相続財 産の管理を継続しなければならない。 (2) 第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項、第二項及び第九 百十八条第二項、第三項の規定は、前項の場合にこれを準用する。 第九百二十七条 限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、一切の相続債権者及 び受遺者に対し、限定承認をしにこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべ き旨を公告しなければならない。但し、その期間は、二箇月を下ることができな い。 (2) 第七十九条第二項及び第三項の規定は、前項の場合にこれを準用する。 第九百二十八条 限定承認者は、前条第一項の期間の満了前には、相続債権者及び受 遺者に対して弁済を拒むことができる。 第九百二十九条 第九百二十七条第一項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続 財産を以て、その期間内に申し出た債権者その他知れた債権者に、各〃その債権 額の割合に応じて弁済をしなければならない。但し、優先権を有する債権者の権 利を害することができない。 第九百三十条 限定承認者は、弁済期に至らない債権でも、前条の規定によつてこれ を弁済しなければならない。 (2) 条件附の債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定 人の評価に従つて、これを弁済しなければならない。 第九百三十一条限定承認者は、前二条の規定によつて各債権者に弁済をした後でなけ れば、受遺者に弁済をすることができない。 第九百三十二条 前三条の規定に従つて弁済をするにつき相続財産を売却する必要が あるときは、限定承認者は、これを競売に付しなければならない。但し、家庭裁 判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、 その競売を止めることができる。 第九百三十三条 相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定 に参加することができる。この場合には、第二百六十条第二項の規定を準用す る。 第九百三十四条 限定承認者が、第九百二十七条に定める公告若しくは催告をするこ とを怠り、又は同条第一項の期間内にある債権者若しくは受遺者に弁済をしたこ とによつて他の債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなつたとき は、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。第九百二十九条乃至第九百 三十一条の規定に違反して弁済をしたときも、同様である。 (2) 前項の規定は、情を知つて不当に弁済を受けた債権者又は受遺者に対する 他の債権者又は受遺者の求償を妨げない。 (3) 第七百二十四条の規定は、前二項の場合にも、これを適用する。 第九百三十五条 第九百二十七条第一項の期間内に申し出なかつた債権者及び受遺者 で限定承認者に知れなかつたものは、残余財産についてのみその権利を行うこと ができる。但し、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。 第九百三十六条 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続 財産の管理人を選任しなければならない。 (2) 管理人は、相続人のために、これに代わつて、相続財産の管理及び債務の 弁済に必要な一切の行為をする。 (3) 第九百二十六条乃至前条の規定は、管理人にこれを準用する。但し、第九 百二十七条第一項の定める公告をする期間は、管理人の選任があつた後十日以 内とする。 第九百三十七条 限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第九百二十一条 第一号又は第三号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産を以て弁 済を受けることができなかつた債権額について、その者に対し、その相続分に応 じて権利を行うことができる。 第三節 放棄 第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなけ ればならない。 第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人となら なかつたものとみなす。 第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によつて相続人となつた者が相続財 産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意を以て、 その財産の管理を継続しなければならない。 (2) 第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項、第二項及び第九 百十八条第二項、第三項の規定は、前項の場合にこれを準用する。

第五章 財産分離

第九百四十一条 相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人 の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。 相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後でも、同様で ある。 (2) 家庭裁判所が前項の請求によつて財産の分離を命じたときは、その請求を した者は、五日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対し、財産分離の命令が あつたこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければな らない。但し、その期間は、二箇月を下ることができない。 第九百四十二条 財産分離の請求をした者及び前条第二項の規定によつて配当加入の 申出をした者は、相続財産について、相続人の債権者に先だつて弁済を受ける。 第九百四十三条 財産分離の請求があつたときは、家庭裁判所は、相続財産の管理に ついて必要な処分を命ずることができる。 (2) 家庭裁判所が管理人を選任した場合には、第二十七条乃至第二十九条の規 定を準用する。 第九百四十四条 相続人は、単純承認をした後でも、財産分離の請求があつたとき は、以後、その固有財産におけると同一の注意を以て、相続財産の管理をしなけ ればならない。但し家庭裁判所が管理人を選任したときは、この限りでない。 (2) 第六百四十五条乃至第六百四十七条及び第六百五十条第一項、第二項の規 定は、前項の場合にこれを準用する。 第九百四十五条 財産の分離は、不動産については、その登記をしなければ、これを 第三者に対抗することができない。 第九百四十六条 第三百四条の規定は、財産分離の場合にこれを準用する。 第九百四十七条 相続人は、第九百四十一条第一項及び第二項の期間の満了前には、 相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。 (2) 財産分離の請求があつたときは、相続人は、第九百四十一条第二項の期間 の満了後に、相続財産を以て、財産分離の請求又は配当加入の申出をした債権 者及び受遺者に、各〃その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。 但し、優先権を有する債権者の権利を害することができない。 (3) 第九百三十条乃至第九百三十四条の規定は、前項の場合にこれを準用す る。 第九百四十八条 財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者は、相続財産 を以て全部の弁済を受けることができなかつた場合に限り、相続人の固有財産に ついてその権利を行うことができる。この場合には、相続人の債権者は、その者 に先だつて弁済を受けることができる。 第九百四十九条 相続人は、その固有財産を以て相続債権者若しくは受遺者に弁済を し、又はこれに相当の担保を供して、財産分離の請求を防止し、又はその効力を 消滅させることができる。但し、相続人の債権者が、これによつて損害を受ける べきことを証明して、異議を述べたときは、この限りでない。 第九百五十条 相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有 財産と混合しない間は、その債権者は、家庭裁判所に対して財産分離の請求をす ることができる。 (2) 第三百四条、第九百二十五条、第九百二十七条乃至第九百三十四条、第九 百四十三条乃至第九百四十五条及び第九百四十八条の規定は、前項の場合にこ れを準用する。但し、第九百二十七条に定める公告及び催告は、財産分離の請 求をした債権者がこれをしなければならない。

第六章 相続人の不存在

第九百五十一条 相続人のあることが明かでないときは、相続財産は、これを法人と する。 第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によ つて、相続財産の管理人を選任しなければならない。 (2) 家庭裁判所は、遅滞なく管理人の選任を公告しなければならない。 第九百五十三条 第二十七条乃至第二十九条の規定は、相続財産の管理人にこれを準 用する。 第九百五十四条 管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、これに相続 財産の状況を報告しなければならない。 第九百五十五条 相続人のあることが明かになつたときは、法人は、存立しなかつた ものとみなす。但し、管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。 第九百五十六条 管理人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。 (2) 前項の場合には、管理人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなけ ればならない。 第九百五十七条 第九百五十二条第二項に定める公告があつた後二箇月以内に相続人 のあることが明かにならなかつたときは、管理人は、遅滞なく一切の相続債権者 及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければ ならない。但し、その期間は、二箇月を下ることができない。 (2) 第七十九条第二項、第三項及び第九百二十八条乃至第九百三十五条の規定 は、前項の場合にこれを準用する。但し、第九百三十二条但書の規定は、この 限りでない。 第九百五十八条 前条第一項の期間の満了後、なお、相続人のあることが明かでない ときは、家庭裁判所は、管理人又は検察官の請求によつて、相続人があるならば 一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。但し、その 期間は、六箇月を下ることができない。 第九百五十八条の二 前条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、 相続人並びに管理人に知れなかつた相続債権者及び受遺者は、その権利を行うこ とができない。 第九百五十八条の三 前条の場合において相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相 続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人 と特別の縁故があつた者の請求によつて、これらの者に、清算後残存すべき相続 財産の全部又は一部を与えることができる。 (2) 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内に、これをしな ければならない。 第九百五十九条 前条の規定によつて処分されなかつた相続財産は、国庫に帰属す る。この場合には、第九百五十六条第二項の規定を準用する。

第七章 遺言

第一節 総則

第960条

第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、これをすることがで きない。

第961条

第九百六十一条 満十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

第963条

第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならな い。

第964条

第九百六十四条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分 することができる。但し、遺留分に関する規定に違反することができない。

第966条

第九百六十六条 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しく は直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。

(2) 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、 これを適用しない。

第二節 遺言の方式

第一款 普通の方式
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によつてこれをしなけれ ばならない。但し、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。 第九百六十八条 自筆証書によつて遺言をするには、遺言者が、その全文、日附及び 氏名を自書し、これに印をおさなければならない。 (2) 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを 変更した旨を附記して特にこれを署名し、且つ、その変更の場所に印をおさな ければ、その効力がない。 第九百六十九条 公正証書によつて遺言をするには、左の方式に従わなければならな い。 一 証人二人以上の立会があること。 二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。 三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせるこ と。 四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印 をおすこと。但し、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその 事由を附記して、署名に代えることができる。 五 公証人が、その証書は前四号に掲げる方式に従つて作つたものである旨を附 記して、これに署名し、印をおすこと。 第九百七十条 秘密証書によつて遺言をするには、左の方式に従わなければならな い。 一 遺言者が、その証書に署名し、印をおすこと。 二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章を以てこれに封印すること。 三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言 書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。 四 公証人が、その証書を提出した日附及び遺言者の申述を封紙に記載した後、 遺言者及び証人とともにこれに署名し、印をおすこと。 (2) 第九百六十八条第二項の規定は、秘密証書による遺言にこれを準用する。 第九百七十一条 秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあつて も、第九百六十八条の方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてそ の効力を有する。 第九百七十二条 言語を発することができない者が秘密証書によつて遺言をする場合 には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並び にその筆者の氏名及び住所を封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述 に代えなければならない。 (2) 公証人は、遺言者が前項に定める方式を践んだ旨を封紙に記載して、申述 の記載に代えなければならない。 第九百七十三条 禁治産者が本心に復した時において遺言をするには、医師二人以上 の立会がなければならない。 (2) 遺言に立ち会つた医師は、遺言者が遺言をする時において心神喪失の状況 になつた旨を遺言書に附記して、これに署名し、印をおさなければならない。 但し、秘密証書によつて遺言をする場合には、その封紙に右の記載をし、署名 し、印をおさなければならない。 第九百七十四条 左に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。 一 未成年者 二 禁治産者及び準禁治産者 三 推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族 四 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人 第九百七十五条 遺言は、二人以上の者が同一の証書でこれをすることができない。
第二款 特別の方式
第九百七十六条 疾病その他の事由によつて死亡の危急に迫つた者が遺言をしようと するときは、証人三人以上の立会を以て、その一人に遺言の趣旨を口授して、こ れをすることができる。この場合には、その口授を受けた者が、これを筆記し て、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、各証人がその筆記の正確なことを承認し た後、これに署名し、印をおさなければならない。 (2) 前項の規定によつてした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人 又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力が ない。 (3) 家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なけれ ば、これを確認することができない。 第九百七十七条 伝染病のため行政処分によつて交通を断たれた場所に在る者は、警 察官一人及び証人一人以上の立会を以て遺言書を作をことができる。 第九百七十八条 船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会を 以て遺言書を作ることができる。 第九百七十九条 船舶遭難の場合において、船舶中に在つて死亡の危急に迫つた者 は、証人二人以上の立会を以て口頭で遺言をすることができる。 (2) 前項の規定に従つてした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署 名し、印をおし、且つ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に 請求してその確認を得なければ、その効力がない。 (3) 第九百七十六条第三項の規定は、前項の場合にこれを準用する。 第九百八十条 第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会 人及び証人は、各自遺言書に署名し、印をおさなければならない。 第九百八十一条 第九百七十七条乃至第九百七十九条の場合において、署名又は印を おすことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を附記しなけ ればならない。 第九百八十二条 第九百六十八条第二項及び第九百七十三条乃至第九百七十五条の規 定は、第九百七十六条乃至前条の規定による遺言にこれを準用する。 第九百八十三条 第九百七十六条乃至前条の規定によつてした遺言は、遺言者が普通 の方式によつて遺言をすることができるようになつた時から六箇月間生存すると きは、その効力がない。 第九百八十四条 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によ つて遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事がこれを行う。

第三節 遺言の効力

第九百八十五条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。 (2) 遺言に停止条件を附した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就 したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。 第九百八十六条 受遺者は、遺言者の死亡後、何時でも、遺贈の放棄をすることがで きる。 (2) 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼつてその効力を生ずる。 第九百八十七条 遺贈義務者その他の利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内 に遺贈の承認又は放棄をすべき旨を受遺者に催告することができる。若し、受遺 者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認 したものとみなす。 第九百八十八条 受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続 人は、自己の相続権の範囲内で、承認又は放棄をすることができる。但し、遺言 者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。 第九百八十九条 遺贈の承認及び放棄は、これを取り消すことができない。 (2) 第九百十九条第二項の規定は、遺贈の承認及び放棄にこれを準用する。 第九百九十条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。 第九百九十一条 受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当 の担保を請求することができる。停止条件附の遺贈についてその条件の成否が未 定である間も、同様である。 第九百九十二条 受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得す る。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。 第九百九十三条 遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を出した ときは、第二百九十九条の規定を準用する。 (2) 果実を収取するために出した通常の必要費は、果実の価格を起えない限度 で、その償還を請求することができる。 第九百九十四条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を 生じない。 (2) 停止条件附の遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したとき も、前項と同様である。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したとき は、その意思に従う。 第九百九十五条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によつてその効力がな くなつたときは、受遺者が受けるべきであつたものは、相続人に帰属する。但 し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。 第九百九十六条 遺贈は、その目的たる権利が遺言者の死亡の時において相続財産に 属しなかつたときは、その効力を生じない。但し、その権利が相続財産に属する と属しないとにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認むべきときは、こ の限りでない。 第九百九十七条 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条但書の規定によつ て有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得してこれを受遺者に移転す る義務を負う。若し、これを取得することができないか、又はこれを取得するに ついて過分の費用を要するときは、その価額を弁償しなければならない。但し、 遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。 第九百九十八条 不特定物を遺贈の目的とした場合において、受遺者が追奪を受けた ときは、遺贈義務者は、これに対して、売主と同じく、担保の責に任ずる。 (2) 前項の場合において、物に瑕疵があつたときは、遺贈義務者は、瑕疵のな い物を以てこれに代えなければならない。 第九百九十九条 遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失に よつて第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目 的としたものと推定する。 (2) 遺贈の目的物が、他の物と附合し、又は混和した場合において、遺言者が 第二百四十三条乃至第二百四十五条の規定によつて合成物又は混和物の単独所 有者又は共有者となつたときは、その全部の所有権又は共有権を遺贈の目的と したものと推定する。 第千条 遺贈の目的たる物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的 であるときは、受遺者は、遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求 することができない。但し、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、 この限りでない。 第千一条 債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、且つ、その 受け取つた物が、なお、相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたも のと推定する。 (2) 金銭を目的とする債権については、相続財産中にその債権額に相当する金 銭がないときでも、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。 第千二条 負担附遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においての み、負担した義務を履行する責に任ずる。 (2) 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者が、自ら受 遺者となることができる。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したと きは、その意思に従う。 第千三条 負担附遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴によつて減 少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じてその負担した義務を免かれ る。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第四節 遺言の執行

第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知つた後、遅滞なく、これを家庭裁判所 に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合に おいて、相続人が遺言書を発見した後も、同様である。 (2) 前項の規定は、公正証書による遺言には、これを適用しない。 (3) 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会を 以てしなければ、これを開封することがどきない。 第千五条 前条の規定によつて遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺 言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料 に処せられる。 第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を 第三者に委託することができる。 (2) 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これ を相続人に通知しなければならない。 (3) 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅 滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。 第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければなら ない。 第千八条 相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内に就職を承 諾するかどうかを確答すべき旨を遺言執行者に催告することができる。若し、遺 言執行者が、その期間内に、相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾し たものとみなす。 第千九条 無能力者及び破産者は、遺言執行者となることができない。 第千十条 遺言執行者が、ないとき、又はなくなつたときは、家庭裁判所は、利害関 係人の請求によつて、これを選任することができる。 第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を調製して、これを相続人に 交付しなければならない。 (2) 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会を以て財産目録を調 製し、又は公証人にこれを調製させなければならない。 第千十二条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為を する権利義務を有する。 (2) 第九百四十四条乃至第六百四十七条及び第六百五十条の規定は、遺言執行 者にこれを準用する。 第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執 行を妨げるべき行為をすることができない。 第千十四条 前三条の規定は、遺言が特定財産に関する場合には、その財産について のみこれを適用する。 第千十五条 遺言執行者は、これを相続人の代理人とみなす。 第千十六条 遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わ せることができない。但し、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、 この限りでない。 (2) 遺言執行者が前項但書の規定によつて第三者にその任務を行わせる場合に は、相続人に対して、第百五条に定める責任を負う。 第千十七条 数人の遺言執行者がある場合には、その任務の執行は、過半数でこれを 決する。但し、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従 う。 (2) 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができ る。 第千十八条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によつて遺言執行者の報酬 を定めることができる。但し、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限 りでない。 (2) 遺言執行者が報酬を受けるべき場合には、第六百四十八条第二項及び第三 項の規定を準用する。 第千十九条 遺言執行者がその任務を怠つたときその他正当な事由があるときは、利 害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。 (2) 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その 任務を辞することができる。 第千二十条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了 した場合にこれを準用する。 第千二十一条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。但し、これによ つて遺留分を減ずることができない。

第五節 遺言の取消

第千二十二条 遺言者は、何時でも、遺言の方式に従つて、その遺言の全部又は一部 を取り消すことができる。 第千二十三条 前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分について は、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす。 (2) 前項の規定は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合 にこれを準用する。 第千二十四条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分について は、遺言を取り消したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したと きも、同様である。 第千二十五条 前三条の規定によつて取り消された遺言は、その取消の行為が、取り 消され、又は効力を生じなくなるに至つたときでも、その効力を回復しない。但 し、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。 第千二十六条 遺言者は、その遺言の取消権を放棄することができない。 第千二十七条 負担附遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行を催告し、若し、その期間内に履行がないと きは、遺言の取消を家庭裁判所に請求することができる。

第八章 遺留分

第1028条

第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、左の額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の三分の一

二 その他の場合には、被相続人の財産の二分の一

第1029条

第千二十九条 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその 贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して、これを算定す る。

(2) 条件附の権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選定した鑑定 人の評価に従つて、その価格を定める。

第1030条

第千三十条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によつてそ の価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知つて贈与 をしたときは、一年前にしたものでも、同様である。

第1031条

第千三十一条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するに必要な限度で、 遺贈及び前条に掲げる贈与の減殺を請求することができる。

第1032条

第千三十二条 条件附の権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又は遺贈の目的とし た場合において、その贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは、遺留分権利者 は、第千二十九条第二項の規定によつて定めた価格に従い、直ちにその残部の価 額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。

第1033条

第千三十三条 贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、これを減殺することができな い。 第千三十四条 遺贈は、その目的の価額の割合に応じてこれを減殺する。但し、遺言 者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第1035条

第千三十五条 贈与の減殺は、後の贈与から始め、順次に前の贈与に及ぶ。

第1036条

第千三十六条 受贈者は、その返還すべき財産の外、なお、減殺の請求があつた日以後の果実を返還しなければならない。

第1037条

第千三十七条 減殺を受けるべき受贈者の無資力によつて生じた損失は、遺留分権利 者の負担に帰する。

第1038条

第千三十八条 負担附贈与は、その目的の価額の中から負担の価額を控除したものに ついて、その減殺を請求することができる。

第1039条

第千三十九条 不相当な対価を以てした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損 害を加えることを知つてしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合におい て、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければなら ない。

第1040条

第千四十条 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留 分権利者にその価額を弁償しなければならない。但し、譲受人が譲渡の当時遺留 分権利者に損害を加えることを知つたときは、遺留分権利者は、これに対しても 減殺を請求することができる。

(2) 前項の規定は、受贈者が贈与の目的の上に権利を設定した場合にこれを準 用する。

第1041条

第千四十一条 受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈 の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免かれることができる。

(2) 前項の規定は、前条第一項但書の場合にこれを準用する。

第1042条

第千四十二条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又 は遺贈があつたことを知つた時から、一年間これを行わないときは、時効によつ て消滅する。相続の開始の時から十年を経過したときも、同様である。

第1043条

第千四十三条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたと きに限り、その効力を生ずる。

(2) 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影 響を及ぼさない。

第1044条

第千四十四条 第八百八十七条第二項、第三項、第九百条、第九百一条、第九百三条 及び第九百四条の規定は、遺留分にこれを準用する。