外国人と憲法第14条第1項の法の下における平等の原則

昭和39年11月28日大法廷判決927

外国為替及び外国貿易管理法違反、関税法違反、物品税法違反

・・・・927号
判決
棄却(全員一致)
主文
本件各上告を棄却する。
当審における訴訟費用は 被告人Aの負担とする。本件を棄却する
要旨
一 法の下における平等の原則を定めた憲法第14条第1項の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推さるべきものと解するのが相当である。
二 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和33年法律第68号による改正前の昭和27年法律第112号)第6条第11条第12条は、憲法第14条第1項に違反しない。
参照条文
憲法第14条第1項
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和33年法律第68号による改正前の昭和27年法律第112号)第6条 第11条第12条
裁判結果

【判決理由】全員一致

被告人B、同Cの弁護人長崎祐三の上告趣意第一点について

所論は、原審において主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であつて、上告適法の理由に当らない。

なお、職権をもつて調査しても、その理由のないことは以下述べるとおりである。

すなわち、憲法14条すべて国民は、法の下に平等であつて、......と規定し、直接には日本国民を対象とするものではあるが、 法の下における平等の原則は、近代民主主義諸国の憲法における基礎的な政治原理の一としてひろく承認されており、 また、既にわが国も加入した国際連合が1948年の第三回総会において採択した世界人権宣言の七条においても、すべて人は法の前において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。......と定めているところに鑑みれば、 わが憲法14条の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推さるべきものと解するのが相当である。

他面、憲法14条は法の下の平等の原則を認めいてるが、 各人には、経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異が存するものであるから、 法規の制定またはその適用の面において、右のような事実関係上の差異から生ずる不均等が各人の間にあることは免れ難いところであり、 その不均等が、一般社会観念上合理的な根拠に基づき必要と認められるものである場合には、これをもつて憲法14条の法の下の平等の原則に反するものといえないことは、当裁判所の判例とするところである昭和二四年(れ)第1890号、同25年6月7日大法廷判決、刑集四巻六号九五六頁昭和三一年(あ)第635号、同33年3月12日大法廷判決、刑集一二巻三号五〇一頁等)

ところで、所論日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和三三年法律第六八号による改正前の昭和二七年法律第一一二号、以下特例法という。)は、 同法六条一一条一二条等の規定により、合衆国軍隊の公用物品等のわが国への輸入については、 それが合衆国軍隊、その構成員、軍属、これらの者の家族等の用に供するためのものである限りにおいては、関税を課さないが、これをその他の者が日本国内において譲り受けようとする場合には、当該譲受を輸入とみなして関税法を適用する旨を定めたものであるところ、 右諸規定は、前記安全保障条約に基づく行政協定11条が合衆国軍隊、その構成員等の用に供する物品等のわが国への輸入につき、関税を課さない旨を規定しているところに照応し、同条の規定を実施するため制定されたものにほかならない。

そして、前記安全保障条約および行政協定が違憲無効と認められないことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和34年(あ)第710号、同年12月16日大法廷判決、刑集一三巻一三号三二二五頁)、 また、憲法九八条二項は、わが国が締結した条約と確立された国際法規はこれを誠実に遵守すべきことを定めており、 さらに、外国軍隊が条約によりまたは同意を得て他国に駐在する場合、その外国軍隊の機能を全うさせる必要上、これに対しこの種の特権を認めることは、一般に承認された国際慣行と認められる。

しからば、このような諸点を総合して観察すれば、 特例法が、合衆国軍隊、その構成員等に対し所論の特権を認めたことは、十分合理的な根拠があると認められるのであつて、右特例法の諸規定は憲法14条に違反するものということはできない。

それ故、所論憲法14条違反の主張は理由がない。

同第二点について。

所論は事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人Aの弁護人四宮久吉の上告趣意について。

所論は事実誤認、単なる訴訟法違反、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人D、同Eの弁護人中川宗雄の上告趣意について。

所論は原審において主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であつて、上告適法の理由に当らない。

よつて、刑訴四〇八条、被告人Aにつき同一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。