第71章
Κροῖσος δὲ ἁμαρτὼν τοῦ χρησμοῦ ἐποιέετοστρατηίην ἐς Καππαδοκίην, ἐλπίσαςκαταιρήσειν Κῦρόν τε καὶ τὴν Περσέωνδύναμιν.
この文は、以下のように構成されています:
- Κροῖσος:「クロイソス(リュディア王)」が主語です。
- δὲ:接続詞「しかし」「そして」で、新たな文や対比を導入します。
- ἁμαρτὼν:動詞「ἁμαρτάνω(〜を誤解する、間違える)」の分詞・アオリスト形で、「誤解して」「間違えて」という意味になります。ここでは「神託を誤解して」と訳されます。
- τοῦ χρησμοῦ:冠詞 τοῦ + **χρησμοῦ(神託)」で、「その神託の」という意味です。分詞 *ἁμαρτὼν* の目的語として機能しています。
- ἐποιέετο:「ἐποιέω(する、行う)」の未完了過去形で、「行った」「計画した」という意味です。
- στρατηίην:「軍事遠征」または「戦役」を意味する名詞で、直接目的語です。
- ἐς Καππαδοκίην:「カッパドキアへ」を意味し、「ἐς」は場所への方向を表す前置詞です。
- ἐλπίσας:「ἐλπίζω(期待する、望む)」の分詞・アオリスト形で、「期待して」「望んで」という意味です。
- καταιρήσειν:「κατααιρέω(征服する、打ち倒す)」の不定詞・未来形で、「征服すること」を意味します。これは ἐλπίσας の目的語です。
- Κῦρόν τε καὶ τὴν Περσέων δύναμιν:「キュロスとペルシアの軍勢を」という意味で、征服の対象です。
- Κῦρόν:「キュロス」を指し、アッカドのキュロス2世(ペルシアの王)です。
- τε と καὶ:共に接続詞で、「〜と〜」を意味します。
- τὴν Περσέων δύναμιν:「ペルシアの軍勢」を意味します。
和訳
「クロイソスは神託を誤解し、キュロスとペルシアの軍勢を征服できると期待してカッパドキアへの遠征を行った。」
παρασκευαζομένου δὲ Κροίσου στρατεύεσθαιἐπὶ Πέρσας, τῶν τις Λυδῶν νομιζόμενος καὶπρόσθε εἶναι σοφός, ἀπὸ δὲ ταύτης τῆςγνώμης καὶ τὸ κάρτα οὔνομα ἐν Λυδοῖσι ἔχων,συνεβούλευσε Κροίσῳ τάδε· οὔνομά οἱ ἦνΣάνδανις. ὦ βασιλεῦ, ἐπʼ ἄνδρας τοιούτουςστρατεύεσθαι παρασκευάζεαι, οἳ σκυτίνας μὲνἀναξυρίδας σκυτίνην δὲ τὴν ἄλλην ἐσθῆταφορέουσι, σιτέονται δὲ οὐκ ὅσα ἐθέλουσι ἀλλʼὅσα ἔχουσι, χώρην ἔχοντες τρηχέαν.
この文は、クロイソス王がペルシアに対して遠征を準備している際の、リュディア人の一人サンダニスによる忠告を示しています。文法的な構造と和訳は以下の通りです。
文の構造と和訳
- παρασκευαζομένου δὲ Κροίσου στρατεύεσθαι ἐπὶ Πέρσας:
- παρασκευαζομένου:「準備する」という意味の動詞「παρασκευάζω」の現在分詞(男性・単数・属格形)で、ここでは主語クロイソスの行為「準備をする」を表しています。
- Κροίσου:「クロイソスの」。
- στρατεύεσθαι:「遠征すること」を意味する動詞「στρατεύω」の不定詞形です。
- ἐπὶ Πέρσας:「ペルシア人に対して」。
- 和訳:「クロイソスがペルシア人に対して遠征を準備しているとき」
- τῶν τις Λυδῶν νομιζόμενος καὶ πρόσθε εἶναι σοφός:
- τῶν τις Λυδῶν:「リュディア人の中の一人」。
- νομιζόμενος:「考えられている」「みなされている」。
- πρόσθε εἶναι σοφός:「以前から賢者であると」。
- 和訳:「リュディア人の中で以前から賢者とみなされているある人物が」
- ἀπὸ δὲ ταύτης τῆς γνώμης καὶ τὸ κάρτα οὔνομα ἐν Λυδοῖσι ἔχων:
- ἀπὸ ταύτης τῆς γνώμης:「この判断(賢明さ)によって」。
- τὸ κάρτα οὔνομα ἐν Λυδοῖσι ἔχων:「リュディア人の間で非常に名声を持つ」。
- 和訳:「その賢明さからリュディア人の間で非常に名声を得ている」
- συνεβούλευσε Κροίσῳ τάδε·
- συνεβούλευσε:「助言した」。
- Κροίσῳ:「クロイソスに対して」。
- τάδε:「次のように」。
- 和訳:「クロイソスに次のように助言した」
- οὔνομά οἱ ἦν Σάνδανις:
- οὔνομά ἦν:「名前は〜だった」。
- οἱ:「彼の」。
- Σάνδανις:「サンダニス」。
- 和訳:「彼の名前はサンダニスであった」
- ὦ βασιλεῦ, ἐπʼ ἄνδρας τοιούτους στρατεύεσθαι παρασκευάζεαι:
- ὦ βασιλεῦ:「王よ」。
- ἐπʼ ἄνδρας τοιούτους:「このような人々に対して」。
- στρατεύεσθαι παρασκευάζεαι:「遠征を準備している」。
- 和訳:「王よ、このような人々に対して遠征を準備していますが」
- οἳ σκυτίνας μὲν ἀναξυρίδας σκυτίνην δὲ τὴν ἄλλην ἐσθῆτα φορέουσι:
- οἳ:「彼らは」。
- σκυτίνας ἀναξυρίδας:「革製のズボン」。
- σκυτίνην τὴν ἄλλην ἐσθῆτα:「他の服も革製のもの」。
- φορέουσι:「身に着けている」。
- 和訳:「彼らは革製のズボンを穿き、他の服も革製のものを着ています」
- σιτέονται δὲ οὐκ ὅσα ἐθέλουσι ἀλλʼ ὅσα ἔχουσι:
- σιτέονται:「食べる」。
- οὐκ ὅσα ἐθέλουσι ἀλλʼ ὅσα ἔχουσι:「望むだけでなく、ある分しか」。
- 和訳:「彼らは望むだけ食べるのではなく、あるものを食べています」
- χώρην ἔχοντες τρηχέαν:
- χώρην:「土地」。
- ἔχοντες τρηχέαν:「荒れた土地を持っている」。
- 和訳:「荒れた土地で暮らしているのです」
全体の和訳
クロイソスがペルシアに遠征しようと準備していた時、リュディア人の中で以前から賢者として知られ、その賢明さで名声を得ていたサンダニスという者が、クロイソスに次のように助言しました。『王よ、あなたはこのような人々に対して遠征を準備しておられますが、彼らは革製のズボンを穿き、他の服も革でできており、望むだけではなく、あるだけの食料しか得られない生活をしています。また、彼らは荒れた土地で暮らしているのです。』
πρὸς δὲ οὐκ οἴνῳ διαχρέωνται ἀλλὰὑδροποτέουσι, οὐ σῦκα δὲ ἔχουσι τρώγειν, οὐκἄλλο ἀγαθὸν οὐδέν. τοῦτο μὲν δή, εἰ νικήσεις,τί σφέας ἀπαιρήσεαι, τοῖσί γε μὴ ἔστι μηδέν;τοῦτο δέ, ἢν νικηθῇς, μάθε ὅσα ἀγαθὰἀποβαλέεις· γευσάμενοι γὰρ τῶν ἡμετέρωνἀγαθῶν περιέξονται οὐδὲ ἀπωστοὶ ἔσονται.
この文は、クロイソス王に対するサンダニスの助言の続きで、ペルシア人の質素な生活と、遠征の結果についての警告を述べています。
文の構造と和訳
- πρὸς δὲ οὐκ οἴνῳ διαχρέωνται ἀλλὰ ὑδροποτέουσι:
- πρὸς δὲ:「さらに」。
- οὐκ οἴνῳ διαχρέωνται:「ワインを用いない」。
- ἀλλὰ ὑδροποτέουσι:「水を飲む」。
- 和訳:「さらに、彼らはワインを用いず水を飲んでいます」
- οὐ σῦκα δὲ ἔχουσι τρώγειν, οὐκ ἄλλο ἀγαθὸν οὐδέν:
- οὐ σῦκα:「イチジクを持たない」。
- ἔχουσι τρώγειν:「食べるために持っていない」。
- οὐκ ἄλλο ἀγαθὸν οὐδέν:「他の良いものも何も持っていない」。
- 和訳:「イチジクも他の良いものも何も持っていません」
- τοῦτο μὲν δή, εἰ νικήσεις, τί σφέας ἀπαιρήσεαι, τοῖσί γε μὴ ἔστι μηδέν:
- τοῦτο μὲν δή:「さて、ここで」。
- εἰ νικήσεις:「もしあなたが勝つなら」。
- τί σφέας ἀπαιρήσεαι:「彼らから何を奪うつもりですか」。
- τοῖσί γε μὴ ἔστι μηδέν:「何も持っていない彼らから」。
- 和訳:「さて、もしあなたが勝ったとしても、何も持っていない彼らから何を奪うつもりですか?」
- τοῦτο δέ, ἢν νικηθῇς, μάθε ὅσα ἀγαθὰ ἀποβαλέεις:
- τοῦτο δέ:「そしてもう一つ」。
- ἢν νικηθῇς:「もしあなたが敗れるなら」。
- μάθε ὅσα ἀγαθὰ ἀποβαλέεις:「あなたが失うであろう多くの良いものを知りなさい」。
- 和訳:「そしてもう一つ、もしあなたが敗れたなら、あなたが失う多くの良いものを考えなさい」
- γευσάμενοι γὰρ τῶν ἡμετέρων ἀγαθῶν περιέξονται οὐδὲ ἀπωστοὶ ἔσονται:
- γευσάμενοι:「味わったならば」。
- τῶν ἡμετέρων ἀγαθῶν:「我々の良いもの」。
- περιέξονται:「我が物としようとするだろう」。
- οὐδὲ ἀπωστοὶ ἔσονται:「去りたいとも思わなくなる」。
- 和訳:「我々の良いものを味わったならば、彼らはそれを手放したくなくなり、ここを去りたいとも思わなくなるでしょう」
全体の和訳
「さらに、彼らはワインを用いず水を飲み、イチジクも他の良いものも何も持っていません。さて、もしあなたが勝ったとしても、何も持っていない彼らから何を奪うつもりですか?そしてもう一つ、もしあなたが敗れたなら、あなたが失うであろう多くの良いものを考えなさい。我々の良いものを味わったならば、彼らはそれを手放したくなくなり、ここを去りたいとも思わなくなるでしょう。」
ἐγὼ μέν νυν θεοῖσι ἔχω χάριν, οἳ οὐκ ἐπὶ νόονποιέουσι Πέρσῃσι στρατεύεσθαι ἐπὶ Λυδούς.ταῦτα λέγων οὐκ ἔπειθε τὸν Κροῖσον. Πέρσῃσιγάρ, πρὶν Λυδοὺς καταστρέψασθαι, ἦν οὔτεἁβρὸν οὔτε ἀγαθὸν οὐδέν.
この文は、クロイソス王へのサンダニスの最後の警告の一部で、リュディアへの遠征を控えたペルシア人の状態と、神の加護に感謝する心情を述べています。文法と和訳を以下に示します。
文の構造と和訳
- ἐγὼ μέν νυν θεοῖσι ἔχω χάριν:
- ἐγὼ μέν:「私は〜であるが」。
- νυν:「さて」「今や」。
- θεοῖσι ἔχω χάριν:「神々に感謝している」。
- 和訳:「私は神々に感謝しています」
- οἳ οὐκ ἐπὶ νόον ποιέουσι Πέρσῃσι στρατεύεσθαι ἐπὶ Λυδούς:
- οἳ:「(神々)彼らは」。
- οὐκ ἐπὶ νόον ποιέουσι:「意図させていない」。
- Πέρσῃσι στρατεύεσθαι ἐπὶ Λυδούς:「ペルシア人がリュディア人に対して遠征することを」。
- 和訳:「彼ら(神々)はペルシア人がリュディア人に遠征するようには意図されていません」
- ταῦτα λέγων οὐκ ἔπειθε τὸν Κροῖσον:
- ταῦτα λέγων:「このことを言って」。
- οὐκ ἔπειθε:「説得できなかった」。
- τὸν Κροῖσον:「クロイソスを」。
- 和訳:「このことを言ってもクロイソスを説得できませんでした」
- Πέρσῃσι γάρ, πρὶν Λυδοὺς καταστρέψασθαι, ἦν οὔτε ἁβρὸν οὔτε ἀγαθὸν οὐδέν:
- Πέρσῃσι γάρ:「ペルシア人にとっては」。
- πρὶν Λυδοὺς καταστρέψασθαι:「リュディア人を征服する以前には」。
- ἦν οὔτε ἁβρὸν οὔτε ἀγαθὸν οὐδέν:「優雅なものも良いものも何もなかった」。
- 和訳:「ペルシア人にとっては、リュディア人を征服する以前には優雅なものも良いものも何もなかったのです」
全体の和訳
「私は神々に感謝しています。神々はペルシア人がリュディア人に対して遠征することを意図されていませんでした。このことを言ってもクロイソスを説得することはできませんでした。ペルシア人にとっては、リュディア人を征服する以前には、優雅なものも良いものも何もなかったのです。」