公判廷における自白と憲法第三八條第三項(昭和24年5月18日大法廷判決)
銃砲等所持禁止令違反
棄却

本件上告を棄却する。

 一 しかしその判決をした當該裁判所の公判廷における被告人の自白は、憲法第38條第3項並びに刑訴應急措置法第10條第3項にいわゆる「本人の自白」にあたらないことは當裁判所の判例とするところである。 (昭和23年(れ)第168號、同年7月29日大法廷判決)從つて論旨は採用することができない。

二 しかし新刑訴法を如何なる事件に適用するかは經過法の立法に際して諸般の事情を勘案して決せらるべき問題で法律に一任されてをるものである、從つて刑訴施行法第二條が新法施行前に公訴の提起があつた事件に付ては新法施行後もなお当法及應急措置法による旨を規定し新法を適用しないことにしたのは何等憲法に違反するものではなく、又所論の如き理由からこれを憲法違反と解せなければならないものでもない。

三 公判調書に被告人が身体の拘束を受けなかつたという記載がないからといつて、それだけで直ちに、被告人が公判廷において身体の拘束を受けたということはできない。

【判決理由】
弁護人松本重夫の上告趣意第一点について。
  1. しかし、その判決をした当該裁判所の公判廷における被告人の自白は憲法第38条第3項並びに刑訴応急措置法第10条第3項にいわゆる「本人の自白」にあたらないことは当裁判所の判例とするところである(昭和23(れ)第168号、同年7月29日大法廷判決)従つて論旨は採用することができない。
同第二点について。
  1. 原審第三回公判調書に、被告人が身体の拘束を受けなかつたという記載がないことは所論の通りである。
  2. しかし、被告人が身体の拘束を受けなかつたことは公判調書の 必要的記載事項ではないのであつて、公判調書に右の記載がないということから直ち に被告人が公判廷で身体の拘束を受けたという積極的事実を推断することは許され ないのである。
  3. しかのみならず、記録によつてみると、
  4. 被告人は昭和22年11月13日第一審裁判所の保釈決定によつて釈放されており、
  5. その後、保釈の取消された事実はないのであるから、原審においても保釈中であつたことが判かるのである、
  6. そして、かかる保釈中の被告人に対して、裁判所が公判廷で、その身体を拘束するようなことは、
  7. 今日の公判審理の実際からみて、全く想像し得ないところであるから、
  8. 本件公判調書に、被告人の身体不拘束の記載がないことから、身体拘束の事実を推断することは事理に反するのであつて、
  9. むしろ、被告人は、身体の拘束を受けなかつたものと認むべきである、(本件上告論旨は原審公判廷で被告人が身体の拘束を受けた事実のあつたことを主張するものではない)
  10. 然らば、原判決には所論のような違法なく論旨は理由がない。
同第三点について。
  1. 原判決の挙示する証拠によつて、原判示の事実を認定できるのであつて、原審に論旨の二において主張するような審理不尽の違法があると認めることはできない。
  2. そして論旨は、原判決が本件につき被告人を懲役十月の実刑に処したのは量刑甚しく不当であると主張するのである。
  3. しかし、本件は、新刑訴法施行前に公訴の提起があつた事件であるから、刑訴施行法第二条によつて刑訴応急措置法の適用があるのである、
  4. 従つて、同法第13条第2項の規定によつて、量刑不当の主張は上告理由とすることができないのである。
  1. 論旨は、
  2. 手続法は、審判を為す時の法律を適用するのか原則であること、
  3. 及び、新刑訴第411条の規定が、旧法及び刑訴応急措置法よりもより強く人権を尊重するものであること、
  4. を理由として、新法施行前に起訴された事件であつても、新法施行と同時に新法を適用すべきであり、これを阻止した前掲刑訴施行法の規定は違憲であると主張するのである。
  5. しかし、新刑訴法を如何なる時から如何なる事件に適用るかは、
  6. 経過法の立法に際して、諸般の事情を勘案して決せらるべき問題で、法律に一任されておるものである、
  7. 従つて、刑訴施行法第二条が、新法施行前に公訴の提起があつた事件に付ては、新法施行後もなお、旧法及び応急措置法による旨を規定し、新法を用しないことにしたのは何等憲法に違反するものではなく、
  8. 又、所論の如き理由から、これを憲法違反と解せなければならないものでもない(なお新刑訴第411条の規定は、量刑の不当をもつて独立の上告理由として認めた趣旨ではない)
  9. それ故、論旨は採用することはできない。
  10. よつて旧刑訴第446条により主文の通り判決する。
  1. この判決は、右第一点について真野、斎藤各裁判官の補足意見、塚崎、沢田、井上、栗山、小谷、穂積各裁判官の少数意見がある外、裁判官全員一致の意見によるものである。
  2. 右、斎藤裁判官の補足意見及び塚崎、沢田、井上、栗山、小谷各裁判官の少数意見は、前掲大法廷判決に、真野裁判官の補足意見及穂積裁判官の少数意見は 昭和23年(れ)第1544号昭和24年4月20日大法廷判決に示された通りである。

検察官 橋本乾三関与

昭和二四年五月一八日

最高裁判所大法廷

裁判長裁判官 塚 崎 直 義

裁判官 長 谷 川 太 一 郎 裁判官 沢 田 竹 治 郎 裁判官 霜 山 精 一 裁判官 井 上 登 裁判官 栗 山 茂 裁判官 真 野 毅 裁判官 小 谷 勝 重 裁判官 島 保 裁判官 斎 藤 悠 輔 裁判官 藤 田 八 郎 裁判官 岩 松 三 郎 裁判官 河 村 又 介 裁判官 穂 積 重 遠