新刑訴第411條と上告申立理由(昭和24年5月28日小法廷)
窃盗
棄却

本件再上告を棄却する。

一 新刑訴第411條ば上告裁判所の職權事項としての規定であつて上告申立理由としての規定でないことは、既に當裁判所の判例とするところである。(昭和23年(れ)第1577號、同24年5月18日大法廷判決)

二 量刑不當を上告裁判所の審判事項とするや否やは、一に裁判所の審級制度、並びにその事物の管轄に關する訴訟制度上に關する問題であつて、憲法適否の問題でないとの解釋も、亦、當裁判所屡次の判例とするところである。(昭和23年(れ)第43號、同年3月10日大法廷判決參照)

三 刑訴施行法第2條の規定、即ち昭和23年12月31日までに公訴の提起のあつた事件については、舊刑訴法並びに刑訴應急措置法に依り審判すべきであるとの規定が、憲法違反の規定でないことも亦當裁判所の判例とするところである。(昭和23年(れ)第1577號昭和24年5月18日大法廷判決)

【判決理由】
弁護人小川益太郎、同樫田忠美提出の再上告趣意第一点について。
  1. 然し、第二審裁判所が被告人に対し、公開の法廷で、所論の身上調書の要旨を告げて、その証拠調を為し、
  2. 更に、所論摘録と同様の性行為に関する取調を為したのは、少年法第64条第31条第1項所定事項を、調査の必要上為されたものであることは明らかであらう。
  3. 而して、右、身上調書に、所論、性行為に関する記載があるとは云え、
  4. 第二審裁判所が、右、身上調書に関する証拠調、並びに所論摘録の如き程度の取調を為したことを目して、
  5. 所論のように、
  6. 同裁判所が、被告人に脅迫を加え、被告人が之に因つて畏怖を感じた結果、同裁判所に於て、被告人が本件犯行を自白するに至つたもの、
  7. 即ち、第二審裁判所が断罪の証拠に採つた被告人の自白は、右脅迫に因る自白である等とは、右、身上調書の内容(記録一一五丁以下、長野少年審判所少年保護司調書)、並びに所論摘録の問答自体に徴し、到底、之を諒解することを得ないのである。
  8. 所論は、畢竟、憲法違反に藉口して、独自の立論を試むるものと解するの外なく、到底採用することができない。
  9. 左れば結局右所論を憲法第38条第2項の違反にあらずと判断した原上告審の判示は適法であつて、論旨は理由のないものである。
同第二点について。
  1. 然し、所論の 少年法第14条第1項の規定は、人の資格に関する法令の適用に関する規定であつて、刑の執行猶予等に関する法令の適用に関する規定ではない。
  2. 又、本項は刑に処せられた者に関する規定であつて、所論のような少年審判所の審判に依り保護処分に附された者に類推適用すべき規定でもない。
  3. 又、所論憲法第14条第1項の社会的身分とある中には、
  4. 刑罰に処せられたこと或いは前示保護処分に附されたことのような法律上の身分の如きを包含していないことは、憲法同条項の精神並びにその明文に照しても寔に明らかと云うべきである。
  1. 次に、所論の身上調書は第二審裁判所が証拠に採つてはいないのであるが、
  2. 第二審裁判所が、共犯者である他の二名の共同被告人と異なり、被告人に執行猶予を与えなかつたことが、
  3. 仮に、前示、曾ての保護処分を受けたことを斟酌された結果であつたと仮定しても、
  4. 此量刑をした同判決は、毫も所論のように、少年法第14条第1項、並びに憲法第14条第1項に違反した違法の判決とは称することを得ないのである。
  5. 所論は、之又名を憲法第一四条第一項の違反に藉り、以つて明らかなる誤論を敢て試むるものであつてすべて採るを得ない。左れば原上告審の判決が所論に対し、結局憲法第一四条違反にあらずと判断したのは正当である。論旨は理由がない。
同第三点について。
  1. 新刑訴第411条は、上告裁判所の職権事項としての規定であつて、
  2. 上告申立理由としての規定でないことは、既に当裁判所の判例とするところである(昭和23年(れ)第1577号、昭和24年5月18日大法廷判決)
  3. 又、量刑不当を上告裁判所の審判事項とするや否やは、
  4. 一に、裁判所の審級制度、並びに、その事物の管轄に関する訴訟制度上に関する問題であつて、憲法適否の問題でないとの解釈も、亦、当裁判所屡次の判例とするところである(昭和23年(れ)第43号、昭和23三年3月10日大法廷判決参照)。
  1. 次に、刑訴施行法第二条の規定、即ち昭和23年12月31日までに公訴の提起のあつた事件については、旧刑訴法並びに刑訴応急措置法に依り審判すべきものであるとの規定が、憲法違反の規定でないことも、亦、当裁判所の判例とするところである(昭和23年(れ)第1577号、昭和24年5月18日大法廷判決)
  2. 而して、本件は、刑訴応急措置法適用下の事件であるから同法第一三条第二項の規定に依り所論の量刑不当の主張は上告適法の理由とはならないのである。論旨は理由がない。
  1. 仍つて、刑訴施行法第二条並びに旧刑訴法第446条に従い、主文のとおり判決する。
  2. 此判決は全裁判官一致の意見である。

検察官 岡本梅次郎関与。

昭和二四年五月二八日

最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 霜 山 精 一
裁判官 栗 山 茂 裁判官 小 谷 勝 重 裁判官藤田八郎は出張中につき、署名捺印することができない。 裁判長裁判官 霜 山 精 一