刑法第二〇〇条の罪は犯人の身分により構成すべき犯罪か

昭和31年5月24日小法廷判決

尊属殺人

3263号
判決
棄却(補足意見、意見、反対意見)
主文
本件上告を棄却する。
要旨
刑法第200条の罪は、犯人の身分により構成すべき犯罪ではなく、単に卑属親たる身分があるがため、特にその刑を加重するに過ぎないものである。
参照条文
刑法60条2項
刑法65条2項
刑訴291条
裁判結果

【判決理由】多数意見

上告趣意第一点

同第二点

同第二点は判例違反を主張する。

そして、刑法200条の罪は、犯人の身分により特に構成すべき犯罪ではなく、 単に、卑属親たる身分あるがため、特にその刑を加重するに過ぎないものであるから、直系卑属でない共犯者に対しては、刑法65条2項によつて処断すべきものと解するを相当とする。

従つて、引用の判例はなお維持さるべきである。

しかるに、所論第一審判決は、被告人Aの所為は刑法200条65条1項60条に該当する旨判示しているのであるから、 この点においては違法の譏を免れ得ないけれども、

同判決は、結局被告人に対し、刑法65条2項を適用しているのであつて、いまだこれを破棄しなければ、著しく正義に反するものとは認められない。(のみならず、この点に関する所論は、原審で控訴趣意として主張されず、従つて、原審の判断を経ていないところであるから、元来、上告理由として採るを得ないものなのである。)

同第三点以下

同第三点は、単なる訴訟法違反の主張であり、(この点に関する原判示は首肯し得る。)、 同第四点は、事実誤認の主張であり、同第五点は違憲をいうが、原審で主張せず、従つてその判断を経ていない第一審の訴訟法違反を当審ではじめて主張するものであるばかりでなく、

所論、公判調書の記載は、公判手続の冒頭において裁判長が、刑訴291条により、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えたところ、被告人が、任意になした陳述に過ぎないのであり、

所論のように、裁判長において、証拠調前事件について、被告人を尋問した形跡は記録上認められないから、 違憲の主張はその前提を欠き、いずれも刑訴405条の上告理由に当らない。

よつて同408条により論旨第一点につき真野裁判官の少数意見がある外裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

真野裁判官の少数意見は昭和25年(あ)292号事件同年10月11日大法廷判決掲記のとおりである。