ヘロドトス「歴史」第65章 スパルタのリュクルゴス
τοὺς μέν νυν Ἀθηναίους τοιαῦτα τὸν χρόνοντοῦτον ἐπυνθάνετο ὁ Κροῖσος κατέχοντα, τοὺς δὲΛακεδαιμονίους ἐκ κακῶν τε μεγάλωνπεφευγότας καὶ ἐόντας ἤδη τῷ πολέμῳκατυπερτέρους Τεγεητέων. ἐπὶ γὰρ Λέοντοςβασιλεύοντος καὶ Ἡγησικλέος ἐν Σπάρτῃ τοὺςἄλλους πολέμους εὐτυχέοντες οἱ Λακεδαιμόνιοιπρὸς Τεγεήτας μούνους προσέπταιον.
この文は、クロイソス(リュディアの王)がアテナイ人とスパルタ人の状況についての情報を得た場面を説明しています。文の翻訳と解説は以下の通りです。
翻訳:
「クロイソスはこの時、アテナイ人たちがこのような状態にあることを聞き及び、また、スパルタ人が大きな困難から脱し、すでにテゲア人に対する戦争では優位に立っていることを知った。レオンとヘーゲシクレスがスパルタで王位にあったとき、他の戦争ではスパルタ人は成功を収めたが、ただテゲア人に対しては敗北を喫していた。」解説:
- Κροῖσος: リュディアの王クロイソス。彼はギリシャの都市国家の状況に関心を持ち、特にアテナイ人やスパルタ人について情報を集めていました。
- Ἀθηναίους τοιαῦτα τὸν χρόνον τοῦτον ἐπυνθάνετο: この時期、クロイソスがアテナイ人について情報を得たことを意味します。「τοιαῦτα(このような状態)」は、具体的には文脈に依存しますが、おそらくアテナイ人の政治的・軍事的状況を指しています。
- Λακεδαιμονίους: スパルタ人(ラケダイモン人)を指しています。
- ἐκ κακῶν τε μεγάλων πεφευγότας: 「大きな困難から脱した」という意味で、スパルタ人がかつての苦境を乗り越えたことを示しています。
- κατυπερτέρους Τεγεητέων: 「テゲア人に対して優位に立っている」という意味で、スパルタ人がテゲア人に対する戦争で成功を収め始めたことを表しています。
- Λέοντος βασιλεύοντος καὶ Ἡγησικλέος: レオンとヘーゲシクレスという2人の王がスパルタを治めていた時代を指しています。
- προσέπταιον: 「失敗した」「敗北した」という意味で、スパルタ人が他の戦争では成功を収めていた一方、テゲア人との戦争ではうまくいかなかったことを示しています。
この文は、スパルタが他の戦争で成功していたにもかかわらず、テゲア人に対しては苦戦していた歴史的な時期を描いています。しかし、最終的にはスパルタはテゲア人に対して優位に立ち、戦争での勝利を収めたことが暗示されています。
τὸ δὲ ἔτι πρότερον τούτων καί κακονομώτατοιἦσαν σχεδὸν πάντων Ἑλλήνων κατά τε σφέαςαὐτοὺς καὶ ξείνοισι ἀπρόσμικτοι· μετέβαλον δὲὧδε ἐς εὐνομίην. Λυκούργου τῶν Σπαρτιητέωνδοκίμου ἀνδρὸς ἐλθόντος ἐς Δελφοὺς ἐπὶ τὸχρηστήριον, ὡς ἐσήιε ἐς τὸ μέγαρον, εὐθὺς ἡΠυθίη λέγει τάδε.
このギリシャ語の文は次のように日本語に翻訳できます。
「彼ら(スパルタ人)は、以前はほとんどすべてのギリシャ人の中で最も悪法に苦しんでおり、彼ら自身にも、また他の人々に対しても交際を拒んでいた。しかし、彼らは次のようにして善法に転じた。スパルタの名高い人物であるリュクルゴスがデルフォイに神託を求めに訪れた時、彼が神殿に入ると、すぐにピュティアが次のように告げた。」
この部分は古代ギリシャの歴史や政治の変革について述べており、スパルタがどのようにして法と秩序を得るようになったかについての説明です。
ἥκεις ὦ Λυκόοργε ἐμὸν ποτὶ πίονα νηόν
Ζηνὶ φίλος καὶ πᾶσιν Ὀλύμπια δώματʼἔχουσι.
δίζω ἤ σε θεὸν μαντεύσομαι ἢ ἄνθρωπον.
ἀλλʼ ἔτι καὶ μᾶλλον θεὸν ἔλπομαι, ὦΛυκόοργε.
このギリシャ語の詩は、ピュティアがリュクルゴスに語った神託の一部で、次のように日本語に翻訳できます。
「おお、リュクルゴスよ、あなたは我が豊穣なる神殿に来た。
ゼウスに愛され、オリンポスの神々すべてに敬われている。
私はあなたを神と呼ぶべきか、人間と呼ぶべきかを迷っている。
だが、さらにいっそう神であると信じている、リュクルゴスよ。」この詩は、リュクルゴスがデルフォイの神託を訪れた際、ピュティアが彼を特別な存在、つまり神に近い人物として崇めたことを示しています。
οἳ μὲν δή τινες πρὸς τούτοισι λέγουσι καὶ φράσαιαὐτῷ τὴν Πυθίην τὸν νῦν κατεστεῶτα κόσμονΣπαρτιήτῃσι. ὡς δʼ αὐτοὶ Λακεδαιμόνιοι λέγουσι,Λυκοῦργον ἐπιτροπεύσαντα Λεωβώτεω,ἀδελφιδέου μὲν ἑωυτοῦ βασιλεύοντος δὲΣπαρτιητέων, ἐκ Κρήτης ἀγαγέσθαι ταῦτα.
このギリシャ語の文は次のように日本語に翻訳できます。
「ある人々は、ピュティアがリュクルゴスに、今スパルタに定められている秩序を彼に示したとも言う。しかし、スパルタ人自身の話によれば、リュクルゴスは自分の甥レオボテスの摂政として行動し、クレタ島からこれらの法律を持ち帰ったという。」
ここでは、スパルタの伝説的な立法者リュクルゴスについて、彼がどのようにしてスパルタの法を導入したかに関する異なる伝承が述べられています。ピュティアが神託を通して秩序を示したという話と、リュクルゴスがクレタから法律を持ち帰ったというスパルタ人自身の主張が対比されています。
ὡς γὰρ ἐπετρόπευσε τάχιστα, μετέστησε τὰνόμιμα πάντα, καὶ ἐφύλαξε ταῦτα μὴπαραβαίνειν· μετὰ δὲ τὰ ἐς πόλεμον ἔχοντα,ἐνωμοτίας καὶ τριηκάδας καὶ συσσίτια, πρός τετούτοισι τοὺς ἐφόρους καὶ γέροντας ἔστησεΛυκοῦργος.
このギリシャ語の文は次のように日本語に翻訳できます。
「リュクルゴスは摂政としての任務を引き受けるとすぐに、すべての法律を改正し、それらが破られないように厳守した。そして、戦争に関わる事項として、エノモティアイ(軍隊の部隊編成)、トリアカダス(30人単位の編成)、そして共同食事制を導入し、さらにエフォロイ(監督者)やゲロンテス(長老)を設置した。」
この部分では、リュクルゴスがスパルタ社会に導入した改革について述べられています。彼は軍事制度の編成や共同食事制を確立し、政治的な制度としてエフォロイ(監督者)やゲロンテス(長老会)を設けたことが強調されています。これらはスパルタの独特な社会制度の一部を構成します。